2016年06月17日

もののあわれについて818

消息たびたび聞えて、迎へに奉れ給へど、御返だになし。かくかたくなしう軽々しの世やと、ものしうおぼえ給へど、大臣の見聞き給はむところもあれば、暮らしてみづから参り給へり。




夕霧は、何度も何度も、お手紙を差し上げて、迎えのお使いを、差し向けるが、返事さえない。
こんなわからずやで、身分に相応しくない人だったのかと、嫌な気分になるが、父の大臣が、見たり聞いたりすることもあるのでと、暮れるのを待って、ご自身で、お出でになった。




寝殿になむおはするとて、例の渡り給ふ方は、御達のみ候ふ。若君達ぞ、めのとに添ひておはしける。夕霧「今さらに若々しの御まじらひや。かかる人を、ここかしこにおとしおき給ひて、など寝殿の御まじらひは。ふさはしからぬ御心の筋とは、年ごろ見知りたれど、さるべきにや、昔より心に離れがたう思ひ聞えて、今はかくくだくだとき人の数々あはれなることを、かたみに見捨つべきにやはと、頼み聞えける。はかなき一筋に、かうはもてなし給ふべくや」と、いみじうあはめ恨み申し給へば、雲居雁「何事も今はと見あき給ひにける身なれば、今はたなほるべきにもあらぬを、何かはとて。あやしき人々は、思し捨てずはうれしうこそあらめ」と聞え給へり。
夕霧「なだらかの御いらへや。言ひもていけば、たが名か惜しき」とて、強ひて渡り給へともなくて、その夜は一人臥し給へり。




雲居雁が、寝殿にいらっしゃるということで、いつもおいでになる部屋には、女房だけがいる。若様方は、乳母について、おいでになる。
夕霧は、今ごろになって、若々しいご交際をなさることだ。こういう幼子をこちらに、放っておおきで、どうして、寝殿でご交際などされるのだ。自分に似合わないご性質とは、長年の間に、解っているが、こういう運命なのか。昔から、忘れられない方と思い、今となっては、このように、子どもが大勢いて、可愛そうなので、お互いに、見捨てるはずはないと、あてにしていたのだ。つまらないことで、このように、なさってよいものか。と、酷く叱り、恨みなさると、雲居雁は、何もかも、これが最後と、お捨てになった私なのですから、今となっては、帰るはずもありません。無理にはと思いまして。おかしな子ども達は、お忘れくださらなければ、嬉しく思います。と、申し上げる。
夕霧は、おとなしい返事ですね。煎じ詰めれば、お前が惜しいのだ。と言い、無理に帰りなさいとも、おっしゃらない。その夜は、一人でお休みになった。




あやしう中空なる頃かなと思ひつつ、君達を前に臥せ給ひて、かしこにまたいかに思し乱るらむさま、思ひやり聞え、安からぬ心づくしなれば、「いかなる人、かやうなる事をかしうおぼゆらむ」など、物ごりしぬべうおぼえ給ふ。




いやに、中途半端なこの頃だと思いつつ、子どもたちを前に寝かせて、女二宮では、また、どんな風に、煩悶しているだろうかと、それを想像し、いい加減な物思いではないので、どういう人が、恋愛沙汰を、面白く、楽しく思うのだろう。などと、こりごりした気持ちになる。




明けぬれば、夕霧「人の見聞かむも若々しきを、かぎりと宣ひはてば、さてこころみむ。かしこなる人々も、らうたげに恋ひ聞ゆめりしを、えり残し給へる、やうあらむとは見ながら、思ひ捨てがたきを、ともかくももてなし侍りなむ」と、おどし聞え給へば、すがすがしき御心にて、「この君達をさへや、知らぬところにいて渡し給はむ」と、あやふし。




夜が明けたので、夕霧は、誰が見聞きしても、若々しいと言おうし、これが最後だとおっしゃりきるなら、一つ、そうしてみよう。あちらの子ども達も、いじらしく恋い慕うようだが、選んで残されたのは、理由があってのことと、思うものの、構わずに、放っておくこともできないから、どういたしましょう、と、脅迫申し上げると、すっぱりとした性格なので、この子どもたちまでも、私の知らない女二宮へ、連れてお出でになるのかと、心配するのである。

夕霧と、雲居雁の、心境のやり取りである。




姫君を夕霧「いざ給へかし。見奉りに、かく参り来る事もはしたなければ、常にも参り来じ。かしこにも人々のらうたきを、同じ所にてだに、見奉らむ」と聞え給ふ。まだいといはけなく、をかしげにておはす。いとあはれと見奉り給ひて、夕霧「母君の御をしへになかなひ給うそ、いと心憂く、思ひとる方なき心あるは、いと悪しきわざなり」と、言ひ知らせ奉り給ふ。




姫君に、夕霧は、さあ、いらっしゃい。お目にかかりに、こうしてやってくるのも、恥ずかしいので、いつもは、参りません。三条でも、子ども達が可愛いゆえ、同じ場所で、せめて、お世話申そう。と、おっしゃる。姫君は、まだとても小さく、可愛らしくいらっしゃる。酷く可愛そうに思い、夕霧は、母上のお言葉に従っては、いけません。情けないことに、物分りがよくないのは、いけないことです。と、よく言い聞かせる。


posted by 天山 at 05:33| もののあわれ第14弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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