2015年12月25日

玉砕92

お母さん、ご安心下さい。決して僕は卑怯な死に方をしないです。お母さんの子ですもの。
―――それだけで僕は幸福なのです。
日本万歳万歳、こう叫びつつ死んでいった幾多の先輩達のことを考えます。
お母さん、お母さん、お母さん!
こう叫びたい気持ちで一杯です。何かいって下さい! 一言で充分です。いかに冷静になって考えても、いつもいつも浮かんでくるのはご両親様の顔です。父ちゃん! 母ちゃん!
僕は何度もよびます。

飛行機乗りは必ず死するものであります。

「お母さん、決して泣かないで下さい」
修が日本の飛行軍人であったことについて大きな誇りをもって下さい。勇ましい爆音をたてて先輩が飛んで行きます。ではまた。

23歳、台湾、高雄にて殉職した、富田修。

ではまた・・・
悲しい。

死を前にして、ではまた。
もう、会うことはないのである。

教育とは、緩やかな、洗脳である。
当時の教育は、軍国の教育である。
当然、国のために、死ぬという、教育が成される。
国の歴史には、どの国も、そういう時期がある。

多くの、特攻隊は、独身だった、しかし、妻帯者も少なからず存在した。

出発してよりすでに半月、便りしたいと思いながらも、心に余裕もなくご無沙汰いたしました。ちょうど、明日帰る者がいるので、好便に託します。お前に泣かれるのが辛かったので、どうせ分ることとは知りながら黙ってまいりました。しかし心では感謝の言葉を、幾度繰り返してたか分らない俺の心もくんで許してくれ。この頃少し心に余裕ができると、お前のこと、生まれてくる子供のことが気になってならない。どうか体にだけはくれぐれも気をつけてくれ。

お前の写真と、悦ちゃんの写真を出しては眺め、最初にして最後の死の出撃を待っていた。

この前やってきた荻原にも、お前のことを聞いた。しかし驚いてはいけない。荻原も来た翌る日の出撃に散ってしまった。
人の命の儚さは、今さらながら唖然とするものがあるが、この頃はだいぶ神経も太くなってきた。お前も心を太く持って、待っていてくれ、必ず帰る。お前が子どもを安産するまではそう簡単には死なないつもりだ。

その翌日、特攻散華する。

25歳、鹿児島県、出水沖にて特攻死した、古河敬生が、出水航空基地から、若妻に送った手紙である。

必ず帰る・・・
妻のために、嘘を書く。

これは、手紙というより、遺書である。
あまりにも、切ない遺書だ。

いかなる人間も、死を前にした時に、真面目になるだろう。
そうではない人もいるかもしれないが・・・
そして、死生観というものが、生まれる。

特攻隊員は、短時間のうちに、その死生観を身につけたと、思う。

追悼慰霊をしている、私は、いつも、死というものを、突き付けられた。
死ぬということを、見つめると、自ずと、生きるという、姿勢を問うことになる。

死ぬまで、生きる。だが、その時が来たら、見事に死ぬ。
死生観である。
現在は、大義のために、死ぬということはない。
これほど、死ぬという意識が、曖昧になった時代もない。

24歳、木更津で殉職した、石野正彦の遺文。

心卑しからば外自ずから気品を損し、様相下品になりゆくものなり。多忙にして肉体的運動激しくとも、常に教養人たるの自覚を持ちて心に余裕を存すべし。教養人なればこそ馬鹿になりうるなれ。馬鹿になれとは純真素直なれとの謂れなり。不言実行は我が海軍の伝統精神なり。黙々として自らの本分を尽くし、海軍士官たるの気品を存するが吾人のあるべき方法なり。吾今日痛感せる所感をあげ、もって常住坐臥修養に資せん。

しかして誠を貫くことは不動の信条なり、寡黙にしてしかも純真明快、凛然たる気風を内に秘め、富嶽の秀麗を心に描きて忘るべからず。

一緒に死ぬのは斎藤幸雄一等飛行兵曹とて二十一歳の少年? かわいい男です。なぜか私をしたってだいぶ前から一緒に飛んでいますが、死ぬのも一緒です。技術も非常に優秀な人です。伯父さんが仙台におるそうです。別便に住所があるから慰問してあげてください。
最後の夜に映画があります。今から。

一緒に死ぬ
慰問してあげてください・・・

死を確定して書いている。
その根性は、恐るべきものである。

ここまで、追い詰める。いや、追い詰めたものは・・・何か。
我が身で、問い詰め、追い詰めたのである。
つまり、積極的、能動的、死ぬ覚悟である。

武士道とは、死ぬことと、見つけたり。という、言葉があるが、正に、武士道である。

若者だから、ここまで、純粋無垢に、辿り着いたのか・・・
いや、誰もが、覚悟を持てば、出来ることである。

臆病な者でも、中途半端な者でも・・・
ふざけている者でも、誰もが、持つことが出来る、精神、根性である。

戦争という、場が、その覚悟を求めた。

戦争には、絶対反対するが・・・
人の覚悟には、賛成する。
今の時節は、何を持って、覚悟とするのか・・・


posted by 天山 at 07:23| 玉砕3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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