2015年02月12日

もののあわれについて722

東宮に参り給ひて、論なうかよひ給へる所あらむかし、と目とどめて見奉るに、匂ひやかになどはあらぬ御容貌なれど、さばかりの御有様はた、いと異にて、あてなまめかしくおはします。




東宮にお上がりになって、勿論、似ているところがあろうと、気をつけて、拝すると、輝くお顔というのではないが、これくらいの御身分の方は、それは格別で、品があり、お美しくしていらっしゃる。

東宮は、女三の宮の兄である。




内の御猫の、あまたひきつれたりけるはらからどもの、所々にあかれて、この宮にも参れるが、いとをかしげにてありくを見るに、まづ思ひ出でられるれば、柏木「六条の院の姫宮の御方に候ふ猫こそ、いと見えぬやうなる顔して、をかしうはべしか。はつかになむ見給へし」と啓し給へば、猫わざとらうたくせさせ給ふ御心にて、詳しく問はせ給ふ。柏木「唐猫の、ここのに違へる様してなむ侍りし。同じやうなるものなれど、心をかしく人なれたるは、あやしくなつかしきものになむ侍る」など、ゆかしく思さるばかり聞えなし給ふ。




御所の猫の、沢山連れていた、子猫たちが、あちこちに分かれて、この東宮にも、きているのが、大変に可愛く動き回るのを見て、何よりも、思い出されるので、六条の院の姫宮のお部屋におります猫は、ちょっと見られない顔をしていて、可愛くございました。ほんの少しみたのですが。と、申し上げると、猫を特に可愛がるお方で、事細かに問う。唐猫で、こちらとは違う姿でございました。同じようなものですが、性質が良く、人に馴れたのは、奇妙に可愛らしいものです。などと、見たく思いになるほど、わざと、申し上げる。




聞し召しおきて、桐壺の御方より伝へて聞えさせ給ひければ、参らせ給へり。「げにいと美しげなる猫なり」と人々興ずるを、衛門の督は、たづねむと思したりき、と、御気色を見ておきて、日頃へて参り給へり。童なりしより、朱雀院の取り分きて思し使はせ給ひしかば、御山住みに後れ聞えては、またこの宮にも親しう参り心よせ聞えたり。御琴など教へ聞こえ給ふとて、柏木「御猫どもあまたつどひ侍りにけり。いづら、この見し人は」と尋ねて見つけ給へり。いとらうたく覚えて、かき撫でいたり。




お耳に、留めあそばして、桐壺の御方を介して、申し入れになったので、差し上げられた。本当に、可愛らしい猫だ、と皆が、面白がる。
ところで、衛門の督、柏木は、手に入れようと思っていたと、東宮のお顔で察していたので、日数を見計らって、お上がりになった。子供の頃から、朱雀院が特に可愛がり、お使いあそばしたので、御入山の後は、東宮にも親しく上がり、好意を寄せていた。琴など教えてあげて、猫たちが多く集まっておりますが、どこですか。私の知ったものは、と探して、見つけられた。とても可愛い気がして、かき撫でている。




宮も、「げにをかしき様したりけり。心なむまだなつき難きは、見なれぬ人を知るにやあらむ。ここなる猫ども、ことに劣らずかし」と宣へば、柏木「これは、さるわきまへ心もをさをさ侍らぬものなれど、その中にも心かしこきは、おのづから魂の侍らむかし」など聞えて、柏木「まさるども候ふめるを、これはしばし賜はりあづからむ」と申し給ふ。心の中に、あながちにをこがましく、かつは覚ゆ。




東宮は、なるほど、可愛い姿をしている。まだなついてくれないのは、人見知りするのか。ここにいる猫も、特に負けることはないが。と、おっしゃる。猫というものは、そんな人見知りは、普通しないものですが、その中でも、賢いものは、自然性根があるのでしょう。など、申し上げ、これ以上のは、幾らもおりますようですから、これは、暫く拝借しましょう。と、申し上げる。心の中では、何とも、馬鹿げたことだと、思いもいする。




つひにこれを尋ね取りて、夜もあたり近く臥せ給ふ。明けたてば、猫のかしづきをして、撫で養ひ給ふ。人気遠かりし心もいとよく慣れて、ともすれば衣の裾にまつはれ、寄り臥し睦るるを、まめやかにうつくしと思ふ。いといたく眺めて、端近く寄り臥し給へるに、来て、「ねうねう」といとらうたげに鳴けば、かき撫でて、柏木「うたてもすすむかな」とほほえまる。

柏木
恋ひわぶる 人の形見と 手ならせば 汝よ何とて なく音なるらむ

これも昔の契にや」と、顔を見つつ宣へば、いよいよらうたげに鳴くを、懐に入れて眺め居給へり。御達などは、「あやしくにはかなる猫のときめくかな。かやうなるもの見入れ給はぬ御心に」と、とがめけり。宮より召すにも参らせず、取りこめてこれを語らひ給ふ。




ついに、この猫を手に入れ、夜も、傍近くに置かれる。夜が明けてくると、猫の面倒を見て、撫でて、食事をさせる。人になつかなかった猫も、すっかり慣れて、着物の裾にまつわり、体を擦りつけて、じゃれるのを、心から可愛いと思う。酷いことと、物思いに耽り、縁先に出て、横になっていると、猫がやってきて、ねうねう、と、とても可愛らしく鳴くので、撫でて、随分と積極的だと、微笑む。

柏木
慕い苦しむ、あの方の形見として、可愛がると、お前は、何のつもりで、鳴くのか。

これも、前世の約束か。と、顔を見つつ言うと、ますます、可愛らしい声で鳴くので、懐に入れて、物思いに耽る。
女房などは、奇妙に、急に猫が幅をきかせること。こんなものは、構わない、お方だったのに。と、不審に思った。東宮から、お呼び寄せになっても、差し出さず、傍に置いたきりで、この猫を、話し相手にしていられる。



posted by 天山 at 06:49| もののあわれ第13弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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