2015年02月06日

伝統について78

高山の 石本激ち ゆく水の 音には立てじ 恋ひて死ぬとも

たかやまの いはもとたぎち ゆくみずの おとにはたてじ こひてしぬとも

高い山の、岩の下を激しく流れる水のように、音に立てて噂されるようにはするまい。秘めた恋に苦しみ、死んでもいいのだ。

噂される、認知されることを、恐れるのである。
それ程、人の噂が、致命的だった。
これを深読みすれば、言霊に至る。
噂が良いものであれば・・・言霊が働き、恋が成就する。しかし、駄目なら、恋も破滅する。

隠沼の 下に恋ふれば 飽き足らず 人に語りつ 忌むべきものを

こもりぬの したにこひふれば あきたらず ひとにかたりつ いむべきものを

隠れ沼のように、下心に恋していると、不満で、人に語ってしまった。慎むべきものを。

こちらは、自分から、話してしまったのである。
慎むべきものだったのに・・・

この場合の、慎むは、恐れ、畏れる気持ちを言う。
恋は、恐れ、畏れるものなのだ。

水鳥の 鴨の住む池 下桶無み いぶせき君を 今日見つるかも

みずどりの かものすむいけ したひなみ いぶせききみを きょうみつるかも

水鳥の鴨が住む、池の下桶が無いように、籠もって鬱々として、今日は、見たのだ。

塞ぎこんでいた日、相手の姿を見たのである。
その動揺と感激。

じっと、思いを凝らしていた日々。それは、鬱々とした日々である。
そんな時、相手の姿を見るという、喜び。

玉藻刈る 井堤のしがらみ 薄みかも 恋の淀める わが心かも

たまもかる いでしがらみ うすみかも こひのよどめる わがこころかも

美しい藻を刈る柵が、水をせき止めるように、恋をせき止めるものが薄い。心が燃えず、恋しさが淀んでしまった、私の心。

だが、恋しいのである。
あまりに、長く待っていたゆえに・・・

恋に恋する。そういう状況であろう。

吾妹子が 笠の借手の 和ざみ野に われは入りぬと 妹に告げこそ

わぎもこが かさのかりての わざみのに よれはいりぬと いもにつげこそ

吾妹子の、笠の借り手の、和ざみ野に旅路が入ったと、妻に告げて欲しい。

笠の借り手、とは、笠の頭の部分であり、それが、いよいよ、家近くの東国に入ったのである。それを、伝えて欲しいと、歌う。

旅路の終わり・・・
妻に逢えるという、感激。

数多あらぬ 名をしも惜しみ 埋木の 下ゆそ恋ふる 行方知らずて

あまたあらぬ なをしもおしみ うもれぎの したゆそこふる ゆくへしらずて

一つしかない、私の名を惜しんで、埋もれ木のように、下心だけで、恋している。恋の行方も知らずに。

片恋であろう。
辛い恋である。
たった一つの、名前・・・
これが、利いている。




posted by 天山 at 06:46| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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