銭湯である。
だが、週に一度程度。
後は、部屋のシャワーを浴びる。
浴槽にお湯を張ることはない。
銭湯の広さを覚えたからである。
その銭湯で、様々な人と会う。
多くは、老人である。
その老人たちの話を聞く。
名前も知らない人たち・・・
彼らの、昔話は、実に面白い。
特に、戦中戦後を生きた人たち。
空襲に遭ってさ・・・
皆、死んじゃったよ・・・
そんで、死体の処理だよ・・・
もう、滅茶苦茶でさ・・・
何でも食べたよ・・・
ネズミは、旨かった・・・
カラスは、不味いよ・・・
聞くともなしに、聞いていると、とんでもない話が飛び出す。
ヤクザの老人も多い。
ところが・・・
全く、そのヤクザの怖さがない。
そして、我が身の老いを考える。
時に、顔を見せなくなる人もいる。
死んだのだ。
だが、誰も、そのことを口にしない。
当たり前のことだからだ。
逆に、それが、笑いを誘う。
俺がよ・・・ここに来なくなったら・・・死んだと思え・・・である。
そして、本当に、そうなる。
名も知らぬ人たち。
ところが、時々、道で出会うと・・・
あーーー元気かい・・・
はい・・・
この頃、見えないね・・・
海外に行っていることを知る人と、知らぬ人がいる。
今度は、フィリピンです。と、言うと、活動を知らない人は・・・
いいね・・・極楽だね・・・
女は安いしさ・・・麻薬は手に入るし・・・
えっ・・・
俺もさ・・・昔、行ったよ・・・
マニラのケソン市でさ・・・女買って・・・さ・・・
えっ・・・
すると、
この人は、違うって・・・
と、中に入って、話を中断させる人もいる。
チェンマイは、いい女が多いから・・・
えっ・・・
今も、流行ってんだな・・・
えっ・・・
昭和初期に出来た、銭湯である。
建物が、実に古めかしくていい。
浴槽が一つ。
子供の頃の風呂屋と、同じである。
60を過ぎても、現役で働く人がいる。
いつも、その仕事の事を尋ねる。
面白い。
内緒の話を教えてくれる。
若者は、ほとんどいない。
老人の場所である。
我が身の明日を見る。
それが、精神衛生に良い。
いずれ・・・
老いる。
確実に・・・
そして、死ぬ。
お前さん・・・何してるんだい・・・
と、時々、聞かれる。
売れない作家です・・・
へ・・・作家さんかい・・・
と、ウソを言う。
何を言っても、聞き流される場所、銭湯である。