2011年09月12日

伝統について。48

ぬばたまの 妹が黒髪 今夜もか わが無き床に 靡けて寝らむ

ぬばたまの いもがくろかみ こよいもか わがなきとこに なびけてねらむ

真っ黒な、妻の黒髪を、今夜も、私のいない、床に、靡かせて、寝ているのだろうか。

共寝、ともね、の時に、妻は、黒髪をほどいて、体を横たえる。
その夜のことを、思うのである。
今頃、妻は、一人で、黒髪を靡かせて、寝ているのだろう・・・

ぬばたま、は、枕詞。

花ぐしは し葦垣越しに ただ一目 相見し児ゆえ 千遍嘆きつ

はなぐしは しあしかきこしに ただひとめ あひみしこゆえ ちたびなげきつ

花の美しい、葦の垣根ごしに、一目見た、あの児のことが、忘れられない。幾度も、会えぬことを、嘆く。

千遍、せんたび、ちたび、会えないのが、悲しい。
一目惚れである。
万葉は、一目惚れが多い。

ぐはし、は、美しい。
くはし、とも、使う。

色に出でて 恋ひば人見て 知りぬべし 情のうちの 隠妻はも

いろにいでて こひばひとみて しりぬべし こころのうちの こもりつまはも

態度を示すと、人に知られる。人が見て、知ってしまう。我が心の内に、秘めた、隠妻、かくりつま。

心の内に秘めて思う。
それを、隠れ妻と呼ぶ感性・・・

恋心 秘めて隠して あるものと 古人の 知恵あるものか 天山

相見ては 恋慰むと 人は言へど 見て後にそも 恋ひまさりける

あいこては こひなぐさむと ひとはいへど みてのちにそも こひまさりける

逢えば、恋の苦しさを、慰められると、人は言う。だが、逢った後にこそ、恋しさが、いっそう募るのだ。

そ、も、は、強調する。

逢えば別れが、こんなに辛い
逢わなきゃ、夜がやるせない
とは、演歌の、歌詞。

恋とは、苦しいもの。
何故、苦しい恋をするのか。
それが、生きることだから。
そこには、迷いを、否定する何物も無い。

恋に迷うことは、人生賛歌である。

おほろかに われし思はば かくばかり 難き御門を 退り出めやも

おほろかに われしおもはば かくばかり かたきみかどを まかりいでめやも

普通に、私だけが、思っているならば、抜け出し難い、朝廷の御門を、どうして、退出して来るものか。

つまり、両思いなのである。
退出し難い、朝廷の門を、出て、逢いに行く。

おほろか、とは、おほよそ、などと、同じく使う。

恋は、若さの、特権であり、老年の、また、生き甲斐でもある。
素晴らしい。



posted by 天山 at 14:36| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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