2011年06月24日

パプアの叫び 6

上陸してから丸一年たって初めて罹ったマラリアで、闇の中へ沈んでゆくような体験をした私は、「死」というものをそれまでとは違った目で見てゆくようになった。そのときはただ無性に淋しかったという思いだけが鮮やかだったが、それ以来は戦地での日常を、「死」の瞬間と「死」に近づく過程とはまったく違う別の世界なのだと思って過ごすようになっていた。
八木弥太郎

ニューブリテン島は、マラリアと、デング熱の産地である。
今でも、実に、危ない。

完全防備が必要である。
長袖、長ズボン、手袋、帽子・・・
勿論、私は、そんなことはしない。

いつも通り、着物か、浴衣を着ていた。
更には、Tシャツと、タイパンツ姿である。

部屋では、裸同然。

マラリアは、高熱が、三日間ほど続き、治る。
しかし、死ぬ人もいる。
体力の無い人である。
当時の、兵士たちは、食糧無く、体力も無くなり、死んでいった。

野戦病院といっても、洞窟を利用する。
薬もない。
ただ、治るのを、祈るのみ。

八木氏は、札幌から、出発して、はるか、六千キロの南の島で戦火の中を過ごした。
命令である。

有無を言わせず、命令を、生きる、兵隊たち。

確かに「死」に至る過程での肉体的苦痛や精神的苦悩は、それ自体恐ろしいと思うし、耐え難いもののように思う。しかし、たとえそれがそのまま「死」につながっていったとしても、「死」の瞬間というものはまったく別のものとして存在し、それは想像しているよりも簡潔で、単純で、ただ限りなく「淋しい」だけの世界ではないか。そう思うと、苦痛や苦悩の彼方にある「死」そのものが実に易しいもののように思われ、戦場生活における気持ちの支えにもなっていたようである。
八木弥太郎

戦争に参加した、多くの若者たちは、その「死」というものと、対峙した。
せざるを得無かった。

特攻隊のみならず、斬り込み隊・・・
すべて、命を捨てる覚悟で、向かう。

昭和19年(1944年)三月、闇の中に落ちていった私は、その後いったん意識を取り戻したものの依然重体のまま大隊本部へ送られ、さらにラバウル患者療養所通称「ラバ患」という、山腹に掘られた洞窟の病院に転送された。当時すでに死線を彷徨していた私は、ここで自分の人生で初めての極限に近い体験を重ねることとなった。
八木弥太郎

そして、多くの戦友の死を、見つめていた。

死に行く、戦友の顔を見つめて、彼は、ただ淋しいだけなのかもしれない、と、臨終の様を見つめていたという。

普通の人間の体温は朝は低く夕方は高いのだそうだが、そこでの私は朝の検温ですでに40度を超え、夕方には絶えず41度台、時には42度近くに達していた。
八木弥太郎

それで、狂い死にした、戦友もいたという。

治る、死ぬ、というのも、それぞれの、人の運なのか・・・

私は、空港での、待ち時間に、多くの職員と、仲良くなり、色々と、ブロークン英語で、話しを聞いた。
現在は、街の中だと、マラリアには、罹らないと言う。
ジャングルに入らなければ、大丈夫だと言った。

私としては、マラリアに罹って、死ぬなら、死んでいい・・・
どうせ、死ぬんだから・・・
マラリアの熱で、死ぬ体験が出来る、という、不遜なものだった。

そして、戦況は、悪化して行く中を、兵士たちは、生きるか死ぬかと、考えながら、日々を送る。
何せ、食べる物も、自分たちで、作らなければならない、状態に追い詰められた。
それを、一々、紹介することは、出来ない。

要するに、輸送船が、すべて撃墜され、沈没したのであるから、食糧も何もかも、無いのである。

戦争犠牲者は、兵士だけではない。
輸送船の人々も、海の藻屑となったのである。

私が入院している間に、中隊の主力は「ココポ」に近い「南飛行場」の周辺に陣して対空挺部隊となり、一部は海上照射隊として分隊単位でラバウル北、西海岸の各所に配置されていた。空を照らす部隊が、空から降下する、落下傘部隊やグライダー部隊を迎え撃つ地上戦闘部隊に変わり、照明灯は敵の上陸に備えて海面を照らす武器に変わっていた。
八木弥太郎

敗戦に近くなる頃は、敵の兵器の有様に、驚くばかりだったという。

戦車に対して、肉薄攻撃に絞られ・・・
つまり、人間が、爆弾を持って、戦車に体当たりして、攻撃するというものである。

それは、どこの、戦地でも、行われた。
最後は、体に、爆弾を巻きつけて、敵に乗り込むのである。
まさに、死を覚悟して、である。

負けると、解っていても、それ以外の方法が、無い。
戦い止め・・・と、言われるまで、それが続く。

無駄な死・・・
今だから、そんなことが、言える。
この、安穏としている、世の中で、戦争のことを、語るのは、至難の業である。




posted by 天山 at 00:00| 旅日記 パプアの叫び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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