2010年01月12日

もののあわれ 472

大臣聞き給ひて、院より御けしきあらむを、御けしきあらむを、ひきたがへ横取り給はむを、「かたじけなき事」と思すに、人の有様のいとらうたげに、見放たむは又くちをしうて、入道の宮にぞ聞え給ひける。




源氏の内大臣は、院からの、御所望があるのに、それに背いて、横取りしては、恐れ多いことだと、思う。だが、斎宮の様子が、あまりに可愛らしいので、手放すのも、残念だと思い、入道の宮に、相談した。




源氏「かうかうのことをなむ思う給へわづらふに、母御息所、いと重々しく心深きさまにものし侍りしを、あぢきなき好き心にまかせて、さるまじき名をも流し、憂きものに思ひおかれ侍りにしをなむ、世にいとほしく思ひ給ふる。この世にて、その恨みの心とけ過ぎ侍りにしを、今はとなりてのきはに、この斎宮の御事をなむ、ものせられしかば、「さも聞きおき、心にも残すまじうこそは、さすがに見おき給ひけめ」と、思ひ給ふるにも、忍び難う、大かたの世につけてだに、心苦しきことは、見聞き過ぐされぬわざに侍るを、「いかでなきかげにても、かの恨み忘るばかり」と思ひ給ふるを、内にもさこそおとなびさせ給ひたれ、いときなき御よはひにおはしますを、すこし物の心知る人は侍はれてもよくや、と思ひ給ふるを、御さだめに」など聞え給へば、




源氏は、これこれのことで、思いあぐねていますが、母御息所は、実に、落ち着いた、思慮深い方で、私の困った遊び心から、悪い浮名を流し、嫌な男と、恨まれたままになりました。なんとも、気の毒に思います。生きている間は、その恨みが晴れず、終わりましたが、ご臨終に際して、斎宮の事を、おっしゃり、私を頼みになる人との話しから、判断して、打ち明けて、頼もうと、恨みは恨みとして、信頼されたかと、思います。
我がことに、関係ないことでも、いたわしい話は、黙っているわけには、いられませんので、何とかして、あの、恨みを忘れてくださるほどのことをと、思います。
主上におかれても、あれほど、ご成人あそばしましたが、幼く、いらっしゃるので、少しは、分別のつく方が、お傍においでになっても、よろしいだろうと存じます。
ご判断に従いますと、仰る。




藤壺「いとよう思しよりけるを、院にも思さむことは、げにかたじけなう、いとほしかるべけれど、かの御遺言をかこちて知らず顔に参らせ奉り給へかし。今はた、さやうの事わざとも思しとどめず、御おこなひがちになり給ひてかう聞え給ふを、深うしも思しとがめじと思ひ給ふる」源氏「さらば、御けしきありてかずまへさせ給はば、もよほしばかりのことを、そふるになし侍らむ。とざまかうざまに思ひ給へ残すことなきに、かくまで、さばかりの心構へもまねび侍るに、世の人やいかにとこそはばかり侍れ」など聞え給ひて、後には、げに知らぬやうにて、ここに渡し奉りてむ、と思す。




藤壺は、それは、よく気づきました。院の思し召しは、勿体無く、お断りしては、お気の毒ではありましょうが、母君のご遺言にかこつけて、知らないふりで、入内させて、あげなさいませ。院は、今、そういうことには、格別に、気を留めず、勤行第一になり、このように、申し上げても、深く咎めることは、ありません。
源氏は、では、こちら様に、入内の意向がありと、考えていただけましたなら、私は、ただ、口添えするということに、いたします。あれこれと、手落ちのないように、考えつくして、これ程、考え、案じましたことを、申し上げましたが、それでも、世間の者が、どんな噂をするのか、気がかりでございます。などと仰り、後日、お言葉に従い、知らぬふりで、二条の院に、お移しいたしましょう。と、思うのである。




女君にも、源氏「しかなむ思ふ。語らひ聞えて過ぐい給はむに、いとよき程なるあはひならむ」と、聞え知らせ給へば、うれしきことに思して、御わたりのことをいそぎ給ふ。



女君にも、源氏は、このように思います。
話し相手になるのに、丁度良い、お年同士でしょうと、話すと、嬉しいことと、思い、斎宮の移転の支度をされる。

女君とは、紫の上である。




入道の宮、兵部卿の宮の姫君を、いつしかとかしづき騒ぎ給ふめるを、大臣のひまあるなかにて、「いかがもてなし給はむ」と、心苦しく思す。
権中納言の御女は、弘微殿の女御と聞ゆ。大殿の御子にて、いとよそほしうもてかしづき給ふ。上もよき御遊びがたきに思いたり。藤壺「宮の中の君も同じ程におはすれば、うたて雛あそびの心地すべきを、おとなしき御うしろみは、いとうれしかべいこと」と思し宣ひて、さる御けしき聞え給ひつつ、大臣のよろづに思し至らぬことなく、おほやけがたの御後見はさらにもいはず、明け暮れにつけて、こまやかなる御心ばへの、いとあはれに見え給ふを、頼もしきものに思ひ聞え給ひて、いとあつしくのみおはしませば、参りなどし給ひても、心やすく侍ひ給ふことも難きを、すこしおとなびて、添ひ侍はむ御後見は、かならずあるべきことなりけり。



入道の宮は、兄、兵部卿の宮が、姫君を早く入内させたいと、お世話に、忙しいが、大臣は、仲が、おもしろくない間柄ということで、どういう扱いをするかと、心配する。

権中納言の姫は、弘微殿の、女御と申し上げる。太政大臣の御子として、大変美しく、大切にされている。主上も、良い遊び相手と、思っている。
藤壺は、兵部卿の、宮の中の君も、同じ年でいらっしゃるから、困ったこと。
お人形遊びの感じがしますのに、年上の世話役は、嬉しいことでしょう、と、入道の宮の言葉があり、主上に、御意向を奏上されたり、大臣が、何から何までの、気の使いようで、政治の補佐役だけではなく、日常のことにつけても、主上に対する、細心のご配慮が、身に沁みて、嬉しく見えるのであり、頼もしく思い、ご自身は、病弱であるため、参内されても、気遣いなく、お傍に、いることも、難しいので、少し年たけて、お傍に付く、世話役は、是非必要なことであった。

いとあはれに見え給ふを
ここでは、細やかな心遣いを、大変、あはれ、とは、嬉しく見える、のである。

澪標、みをつくし、を、終わる。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第10弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。