2010年01月05日

もののあわれ 465

兵部卿の親王、年頃の御心ばへのつらく思はずにて、ただ世の聞えをのみ思しはばかり給ひし事を、大臣は憂きものに思しおきて、昔のようにも睦び聞え給はず。なべての世には、あまねくめでたき御心なれど、この御あたりは、なかなか情なき節もうちまぜ給ふを、入道の宮は、いとほしう本意なき事に見奉り給ふ。




兵部卿の親王は、ここ数年、変化の無い、意外な仕打ちを受けているが、ただ、世間の思惑ばかりを、気にしていらしたのを、大臣は、不快なここと、思い、以前のように、親しくすることがない。
世間一般には、誰にも、温情をかけるのだが、この宮に対しては、むしろ、無情な仕打ちもあり、入道の宮は、気の毒なこと、困ったことと、思っている。




世の中のこと、ただ半ばを分けて、太政大臣この大臣の御ままなり。権中納言の御女、その年の八月に参らせ給ふ。祖父殿いたちて、儀式などいとあらまほし。



天下の政治は、すべて、半分わけにして、太政大臣と、大臣の意のままである。
権中納言の姫を、その年の八月に、入内させる。おじいさまは、あれこれと、世話を焼き、儀式なども、まことに、非の打ち所が無い。


兵部卿の宮の君も、さやうに心ざしてかしづき給ふ名高きを、大臣は、人よりまさり給へ、としも思さずなむありける。いかがし給はむとすらむ。



兵部卿の宮の君も、入内させるつもりで、大切にしているとの、噂が高いが、大臣は、人に負けないようにと、別に思っているのではないか・・・
どうなさるつもりやら。

作者の言葉である。

当時の、貴族の女性は、入内という、帝の、后を目指すのである。
帝の、子を、産めば、最高の、栄誉である。




その秋、住吉に詣で給ふ。願どもはたし給ふべければ、いかめしき御ありきにて、世の中ゆすりて、上達部殿上人、われもわれもと仕うまつり給ふ。



その秋に、住吉に参拝される。
あれこれの、願いの叶った、お礼をされるはずである。
盛んな行列にて、世間中で、大評判である。
かんだちめ、てんじょうびと、が、我も我もと、競争するように、御供をされる。




折しも、かの明石の人、年ごとの例の事にて詣づるを、去年今年は、さはる事ありておこたりけるかしこまり、取り重ねて、思ひたちけり。船にてまうでたり。岸にさしつくる程見れば、ののしりて詣で給ふ人の気配、なぎさに満ちて、いつくしき神宝をもて続けたり。楽人十列など、装束をととのへ、かたちをえらびたり。




時も、丁度その時、あの明石の人は、毎年の例になっている、住吉詣でが、去年と、今年に、差し障りがあって、行けなかった、お詫びをかねて、思い立った。
船で、参拝した。
岸に船をつけて、ふっと、見ると、賑やかにお参りする、人の騒ぎで、海岸は、一杯である。素晴らしい、奉納品を、次から、次と、持ってゆく。十人の楽人などは、装束を整えて、顔つきの、すぐれた人を選んでいる。





「誰が詣で給へるぞ」と、問ふめれば、「内の大臣殿の御顔はたしに詣で給ふを、知らぬ人もありけり」とて、はかなき程の下衆だに、心地よげにうち笑ふ。げにあさましう、月日もこそあれ、なかなかこの御有様をはるかに見るも、身のほど、口惜しう覚ゆ。さすがにかけはなれ奉らぬ宿世ながら、かく口惜しききはの者だに、もの思ひなげにて仕うまつるを、色ふしに思ひたるに、「何の罪深き身にて、心にかけておぼつかなう思ひ聞えつつ、かかりける御響きをも知らで、立ちいでつらむ」など思ひつづくるに、いと悲しうて、人知れずしほたれけり。





どなたが、お参りなのですか、と、尋ねると、内大臣様が、御願い奉るに、お参りになるのを、知らない人もいるのだと、取るに足りない下人までもが、得意そうに笑うのである。
その通りで、呆れるほかはない。
他の月日があるのに、今日の日に来て、なまじ君のご様子を遠く見ると、もう、自分の身分が、情けなく思われる。
しかし、離れられない、御縁で、こんな卑しい身分の者まで、苦労一つないようで、御供するのが、光栄だと、思うのだが、どういう罪業の深い身で、常に、殿の事を気にかけて、お案じ申していながら、ご参拝の、噂も知らず、出掛けて来たのか、などと、考え続けると、たいそう悲しく、人知れず、涙に袖も、濡れるのであった。

平安期の、身分というものは、すでに、明確に、確定していた。
古代、その身分というものが、どのように、発展したのかは、また、書くことにするが、平安期の、身分は、すでに、推古天皇の頃に、明確にされていた。

それは、集落の、長から、はじまっている。
豪族というものが、現れて、次第に、明確になっていったと、思われる。

身分というものが、何か、差別的に感じるのだが、当時は、それが、秩序を整える方法でもあった。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第10弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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