2009年09月02日

伝統について 32

高山の 峯行くししの 友を多み 袖振らず来ぬ 忘ると思ふな

たかやまの みねゆくししの ともをおみ そでふらずこぬ わすするとおもふな

高山の、峰を行く、けもののように、連れの友が多かったので、袖を振らなかった。しかし、お前を忘れているとは、思うな。

勇ましい恋心である。
袖を振れば、知られてしまう。だから、振らなかったのだ。



大船に 真かぢしじ貫き 漕ぐ間も ここだく恋し 年にあらば如何に

おおふねに まかぢしじぬき こぐほとも ここだくこひし としにあらばいかに

大船の、両端に楫「かじ」を一面に通して、漕ぐ、その櫓「ろ」さばきの僅かな間も、これほどに、恋しい。一年も間があったら、どんな思いか。

細やかな感情を、比喩にて、表現する。

大きな船の、舵を取るために、漕ぐ、楫「かじ」を取る間も、思い出しているのである。それが、一年も、会わずにいたらと思うと、堪らない気持ちだという。

つまり、一瞬も忘れていないと、言いたいのである。
それほど、好きなんだと。


たらちねの 母が養ふ蚕の 繭隠り 隠れる妹を 見むよしもがも

たらちねの ははがかふこの まよこもり こもれるいもを みむよしもがも

たらちねの母が、飼う、かいこが繭「まゆ」にこもるように、家に隠れる、あの娘に、逢う術が、欲しい。

中々、逢うチャンがないのである。
何とか、逢えないか。逢いたい。

大切にされている、娘に逢うための、方法を、探している。
これも、片恋。片思いである。


肥人の 額髪結へる 染木綿の 染みにしこころ われ忘れめや

こまひとの ぬかがみゆへる しめゆふの しみにしこころ われわすれめや

肥人が、額の髪に結ぶ、しのゆふのように、あの人に、染まってしまった、私の心は、忘れられない。

初恋か。
髪が色に染まってしまうように、好きな相手に、心が染まったのである。
もう、忘れられない。

肥、とは、細やかな、という意味。


隼人の 名に負ふ夜声 いちしろく わが名は告りつ 妻とたのませ

はやひとの なにおふよごえ いちしろく わがなはのりつ つまとたのませ

隼人の、名にそむかぬ、夜警の声のように、はっきりと、私は名乗りました。妻として、頼りに、してください。

男の、求愛に対して、女は、はっきりと、自分の名を名乗ったのである。
揺ぎ無い、女の心。
あなたの、妻となります。

恋の成就である。

何とも、気持ちの良いほど、明確な歌である。
頼ってください、着いてゆきます、である。
頼もしい、恋人である。



posted by 天山 at 00:00| 伝統について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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