2009年03月05日

もののあわれについて。495

松風

東の院造りたてて、花散里と聞えし、うつろはし給ふ。西の対、渡殿などかけて、まどころ家司など、あるべきさまにし置かせ給ふ。ひんがしの対は、明石の御方と思しおきてたり。




東の院を造営されて、花散里と申した方を、お引き移らせる。西の対、渡殿などにかけて、政所、家司などを、適当に、置かれる。東の対は、明石の御方を、と、考えている。

明石を、御方と、呼ぶようになる。
以後、明石は、御方となる。



北の対は、ことに広く作らせ給ひて、かりにても、あはれと思して行く末かけて契り頼め給ひし人々、つどひ住むべきさまに、隔て隔てしつらはせ給へるしも、なつかしう、見所ありてこまかなり。寝殿は塞げ給はず、時々渡り給ふ御住み所にして、さるかたなる御しつらひどもし置かせ給へり。




北の対は、特に、広く造られて、かりにても、少しでも、あはれと思い・・・
愛情を持って、将来までもと、約束した人々が、一緒に住めるようにと、幾つも、嬉しい、なさり方で、立派な作りで、行き届く。寝殿は、女君を、置かず、時々、自分が出掛ける際の、住まいとして、それに相応しい、造り方をしている。


御しつらひどももし置かせ給へり
それらしい、設備をしている。

あはれと思して
この場合は、源氏の、愛情の様である。
皆、を、愛しいものとして、そのように、思い、なのである。




明石には御消息絶えず。今はなほのぼりぬべきことをば宣へど、女はなほわが身の程を思ひ知るに、「こよなくやむごとなき際の人々だに、なかなかさてかけ離れぬ御有様のつれなきを見つつ、物思ひ増さりぬべく聞くを、まして何ばかりの覚えなりとてかさし出交らはむ。このこの若君の御面伏せに、数ならぬ身の程こそ現れめ、たまさかにはひ渡り給ふついでを待つことにて、人わらへにはしたなき事いかにあらむ」と思ひ乱れても、また、さりとて、かかる所に生ひ出で数まへられ給はざらむも、いとあはれなれば、ひたすらにもえうらみ背かず、親たちも「げにことわり」と思ひ嘆くに、なかなか心もつきはてぬ。





明石には、絶えず、お便りをされて、今となっては、是非、上京するようにと、仰るのだが、女は、やはり自分の身の程を知るので、格段と、身分の高い方々でさえ、お忘れなさりきるような、つれない様を見ては、かえって、気苦労が、増さるそうだと、聞いているものを、まして、自分のような者が、どれ程の生まれかと、思い、方々の中に出て、一緒に暮らしてゆかれようか。卑しい、我が身が、世に知られて、この姫君の、お顔汚しに、なりはしないか。たまさかにはひ渡り、時に、お出でくださるのを、待つくらいで、物笑いの種にされ、きまり悪い思いは、どんなものであろう、と、心が迷う。だが、明石のようなところで、姫君が成長し、日陰者になっては、気の毒で、怨んだり、背いたりもできず、親も、娘の苦労を、無理もないこと、と、心に嘆き、物思いの、限りを尽くすのである。




むかし母君の御おほぢ、中務の宮と聞えけるが、領じ給ひける所、おほい川のわたりにありけるを、その御のち、はかばかしうあひ継ぐ人もなくて、年頃荒れまどふを思ひ出でて、かの時より伝はりて、宿守のやうにてある人を、呼び取りて語らふ。



その昔、母君のおじい様で、中務卿でいらした方が、お持ちだった、邸が、大井川の近くにあったのを、お亡くなりになった後、相続して、住む人もなく、長年の間、荒れ果てて、酷くなっているのを、思い出し、宮の時代から、代々留守番のような、勤めをしている人を、呼び寄せて、相談する。




入道「世の中を今はと思ひはてて、かかる住居に沈みそめしかども、末の世に思ひかけぬこと出できてなむ、さらに都の住みか求むるを、にはかにまばゆき人中いとはしくたなく、田舎びけるここちも静かなるまじきを、ふるき所たづねてとなむ思ひ寄る。さるべき物は上げ渡さむ。修理などして、かたごと、人住みぬべくは、つくろひなされなむや」といふ。




入道は、世の中は、これまでだと、望みを捨てて、こんな田舎に落ちぶれて、暮らしているが、晩年になり、意外なことが起こったので、改めて、都に住まいを求めているが、急に、晴れがましい、人中に出るのは、気が引ける。田舎者になったこととて、気持ちも、落ち着かないだろうと、昔から、馴染みのあるところを、探して、住もうと考えた。必要な物は、送ろう。修理などして、どうにか、住めるならば、修繕してくれないか、と言う。




預り「この年ごろ領ずる人もものし給はず。あやしきやぶになりて侍れば、下屋にぞつくろひて宿り侍るを、この春の頃より内の大殿の造らせ給ふ御堂近くて、かのわたりなむいと気騒がしうなりにて侍る。いかめしき御堂ども建てて、多くの人なむ造り営み侍るめる。静かなる御本意ならば、それや違ひ侍らむ」入道「何かそれも、かたかけてと思ふことありて、自らおひおひに内の事どもはしてむ。先づ急ぎておほかたの事どもをものせよ」といふ。




別荘番の男は、長年、領主もおらず、酷い藪になっていますので、下屋を作り、住んでいますが、今年の春ごろから、内大臣さまの、御造営のみ堂が近く、あの辺りは、大変、騒々しくなっています。静かな場所を、お望みなら、あれでは、お気持ちにあいません。
入道は、なんの、そんなことは、構わない。あの殿の、御庇護にすがってと思うことがあって。そのうちに、追々と、内部の手入れは、する。とりあえず、急ぎ、大方の手入れをして欲しい、と言う。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれについて第11弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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