2009年02月10日

もののあわれ 410

おとどは、思ひのままに、こめたる所おはせぬ本性に、いとど老いの御ひがみさへ添ひ給ひたれば、何事にかはとどこほり給はむ。ゆくゆくと、宮にも憂れへ聞え給ふ。大臣「かうかうの事なむ侍る。このたたむ紙は、右大将の御手なり。昔も、心許されて、ありそめにける事なれど、人柄によろづの罪を許して、さても見むと言ひ侍りし折は、心もとどめず、めざましげにもてなされにしかば、やすからず思ひ給へしかど、さるべきにこそはとて、よにけがれたりとも思し捨つまじきを頼みにて、かく本意のごとく奏りながら、なほそのはばかりありて、うけばりたる女御なども言はせ侍らぬをだに、あかず口惜しう思ひ給ふるに、またかかる事さへ侍りければ、さらにいと心憂くなむ、思ひなり侍りぬる。男の例と言ひながら、大将も、いとけしからぬ御心なりけり。斎院をも、なほ聞えをかしつつ、忍びに御文かよはしなどして、けしきある事など、人の語り侍りしをも、世のためのみにもあらず、わがためもよかるまじき事なれば、よもさる思ひやりなきわざし出でられじとなむ、時の有職と、天の下をなびかし給へるさま、ことなめれば、大将の御心を疑ひ侍らざりつる」など宣ふに、





大臣は、思ったままを口にした。
胸に留めておくことのできない、性格である上、更に年寄りの、ひがみまでも、加わり、何のためらいがあろうか・・・
くどくどと、后に愚痴を言う。
これこれのことがありました。この懐紙は、右大将の筆跡ですよ。前にも、つい油断してしまいましたが、あの人柄に、何もかも我慢して、そのまま、婿にとようと、言いました。
しかし、本気に、取り合わず、目に余る態度をとったので、不快なことと、思いましたが、前世からの、約束事もあろうかと・・・
まさか、穢れたと、見捨てたわけではないと・・・
最初の願い通り、帝に差し上げましたものの、やはり、引け目があって、晴れがましく、女御などとは、呼ばせていないのです。
その事さえ、不満に残念に思うのに、また、こんなことまでになって・・・
改めて、情けなく思えます。男の常と、言いながら、大将も、全く、けしからぬ、ことです。
斎院にも、今もって、手を出して、ひそかに、手紙のやり取りをしているし、怪しいものだと、誰かが、申しましたが、それも、天下のためだけではなく、自分のためにも、よいはずは、無いことなのに・・・
まさか、そんな考えもない事を、するとは思わなかった。
現在の、識者として、天下を意のままに従えていられることも、格別の方ですから、大将の、心を、疑いませんでしたよ。
などと、おっしゃる。




宮は、いとどしき御心なれば、いとものしき御けしきにて、大后「みかどと聞ゆれど、昔よりみな人思ひ貶し聞えて、致仕のおとども、またなくかしづくひとつ娘を、このかみの、坊にておはするに奉らで、弟の源氏にて、いときなきが元服の添ひ臥しに取りわき、またこの君をも、宮仕へにと心ざして侍りしに、をこがましかりし有様なりしを、誰も誰もあやしとやはおぼしたりし。みなかの御方にこそ御心寄せ侍るめりしを、その本意たがふさまにてこそは、かくてもさぶらひ給ふめれどいとほしさに、いかでさる方にても、人に劣らぬさまにもてなし聞えむ、さばかりるたげなりし人の見る所もあり、などこそは思ひ侍りつけど、忍びて、わが心の入る方になびき給ふにこそは侍らめ。斎院の御事は、ましてさもあらむ。何事につけても、おほやけの御かたに、後やすからず見ゆるは、東宮の御世心寄せことなる人なれば、ことわりになむあめる」と、すくずくしう宣ひ続くるに、さすがにいとほしう、「など聞えつる事ぞ」と思さるれば、大臣「されば、しばしこの事もらし侍らじ。内にも奏せさせ給ふな。かくのごと罪侍りとも、おぼし捨つまじきを頼みにて、あまえて侍るなるべし。うちうちに制し宣はむに、聞き侍らずは、その罪に、ただみづからあたり侍らむ」など聞えなほし給へど、ことに御けしきもなほらず。





后の宮は、それ以上に、きつい性格なので、不愉快極まるといった様子で、
帝と、申し上げても、昔から、皆が、侮り申して、隠居した大臣も、この上なく可愛がっていた、一人娘を、年上の東宮には、差し上げず、弟の源氏で、年端もゆかないものの、元服のときに、添い寝として、取っておいたり、また、この六の君をも、宮仕えに出すつもりにしていましたのに、恥さらしの有様だったのです。
一体、誰が、けしからぬと、思われたのか。
皆、あちらの方に、好意を寄せているようでしたが、そのつもりも、当て外れのようになり、はじめて、今のようなことで、入内なさったのですが、可哀想なことゆえ、何として、あんなお役でも、人には、負けないだけの身にしてあげようと、あんなに憎らしかった人の手前もある、と、思っていました。
人に隠れて、自分の気に入った、男に、傾いているのでしょう。
斎院の話は、確かに、ありそうなこと。
何事につけても、御所の御ために、安心できないように、見えるのは、東宮の御世を、特に待ち望んでいる人だから、当然です。
と、苦々しく、おっしゃり続ける。
大臣は、さすがに、気の毒に思い、何故、話してしまったのかと、思ってきた。
まあまあ、しばらく、このことは、誰にも、言わないことにします。
お上にも、奏上あそばすな。
このように、罪があっても、お見捨てなさるまいと、それを、頼みにして、甘えているのです。内内に、注意してみて、聞かなかったら、その罪は、私が、受けましょう。
などと、申してみるが、ご機嫌は直らない。




かくひと所におはして、ひまもなきに、「つつむところなく、さて入りものせらるらむは、ことさらに、かろめろうぜらるるにこそは」とおぼしなすに、いとどいみじうめざましく、「このついでに、さるべき事どもかまへ出でむに、よき便りなり」と、おぼしめぐらすべし。



このように、同じ邸にいらして、暇も無いのに、憚るところなく、こうして、入ってこられるのは、ことさら、侮っているのだと、思い込むと、いよいよもって、腹立たしくなり、このついでに、何か手立てを考えて、これは、よい機会だと、あれこれ、思案するのである。

つまり、源氏の、追い出しである。
源氏の、左遷を思案するのである。

賢木を、終わる。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第9弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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