2008年11月19日

もののあわれ330

まづ、居丈の高く、を背長に見え給ふに、「さればよ」と胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、御鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗り物と覚ゆ。あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたる事、ことのほかにうたてあり。色は雪恥づかしく白うて真青に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、大方おどろおどろしう長きなるべし。痩せ給へる事、いとほしげにさらぼひて、肩の程などは、いたげなるまで衣の上まで見ゆ。



姫君は、まず、座高が高く、胴長に見えるので、源氏は、矢張りと、がっかりする。
続いて、ああ、見苦しいと、見えるのは、鼻であった。
思わず、鼻に、目が止まる。
普賢菩薩の乗り物にある、象のように思えるのだ。
鼻は、あきれるぼと、高く伸びて、先の方が、少し垂れて、赤く色づいているのが、とても、嘆かわしいのである。
特に、嘆かわしいのは、肌の色。雪も恥ずかしいほど、白く、青く見えるほどである。
額が、大変広いのに、まだ、その下が、大変長くありそうな顔は、おおかた、甚だしく長い顔なのであろう。
その、痩せていることといったら、気の毒なほどに、骨が目立ち、肩のあたりは、痛々しいほど、衣の上に見えるのである。

凄い、表現である。
ここまで、言うかというほど、書いている。
作者は、女であるから、女に対しては、容赦しない物言いである。
作者の周囲に、このような、女がいたのであろうか。

胸つぶれぬ
胸がドキドキする。
酷く驚くのである。

あな、かたは
あな、は、感動である。かたは、は、不体裁である。見苦しいという意味。

鼻の様子で、色づきたる、赤く色づいていることから、この段の、末摘花という、名になった。


「何に残りなう見あらはしつらむ」と思ふものからめづらしき様のしたれば、さすがにうち見やられ給ふ。頭つき髪のかかりはしもうつくしげに、めでたしと思ひ聞ゆる人々にも、をさをさ劣るまじう、うちぎの裾にたまりて、ひかれたる程、一尺ばかりあまりたらむと見ゆ。着給へる物どもをさへ言ひたつるも、物言ひさがなきやうなれど、昔物語にも、人の御装束をこそ先づ言ひためれ。



源氏は、何故、見てしまったのかと、思うものの、めったに見られない様なので、つい、自然と、見てしまうのである。
頭髪、髪のかかり具合は、源氏が、可愛らしいと、思う人々、女達からも、劣らない様子で、うちぎの、裾にたっぷりと、たまって、その先に引かれた髪も、一尺ほどもあまっているのかと、見える。
お召しになっているものまで、あれこれ言うのも、物言いが、意地悪だが、昔物語にも、女の、お召し物のことを言うのだからと。

うちぎ
内に着るもの。何枚か重ねて着る。女の平常の上着にもなる。

着給へる物どもをさへ言ひたつるも
作者のいい訳である。
作者の気持が、多分に入り込むのである。



ゆるし色の理なう上白みたる一襲、名残なう黒きうちぎ重ねて、上着にはふるき皮衣、いと清らにかうばしきを着給へり。古代の故づきたる御装束なれど、なほ若やかなる女の御よそおひには、似げなうおどろおどろしき事、いともてはやされたり。されど、げにこの皮なうて肌寒からまし、と見ゆる御顔ざまなるを、心苦しと見給ふ。なにごとも言はれ給はず、我さへ口とぢたる心地し給へど、例のしじまも試みむと、とかう聞え給ふに、いたう恥ぢらひて、口覆し給へるさへ、ひなび古めかしう、ことごとしく、儀式官のねり出でたるひぢもち覚えて、さすがにうち笑み給へる気色、はしたまうすずろびたり。いとほしくあはれにて、いとど急ぎ出で給ふ。


薄紅の、白ちゃけた、単衣を、ひと重ね、その上に、以前は、何色だったのか判らないな、黒ずんだ、うちぎを重ねて、上着には、ふるきの皮の綿入れで、大変美しく、香の薫りが染み込んだものを、着ている。
古風で、由緒ある、衣装だが、やはり、若々しい女の衣装としては、不似合いで、仰々しいのであり、特に目立つのである。
しかし、それがなければ、肌寒いであろうと、思われる。
姫君のお顔の様子を見て、源氏は、気の毒に思われるのである。
源氏は、何も言うことが出来ず、自分までも、無口になってしまうのだが、いつもの、姫の、だのんまりを試してみようと、あれこれと申し上げるが、姫君は、大変恥じらい、口を覆ったままで、その様までも、田舎じみて、古めかしく、大袈裟で、儀式官が、歩き出した時の、その肱の張り具合が、思い出され、さすがに、微笑む様子も、ちぐはぐで、落ち着かない。
源氏は、気の毒と、かわいそうで、急ぎ、帰られるのである。

ゆるし色
薄い紫、薄い紅色のことであり、濃い紫、濃い紅色の衣装は、帝の許しがいるものであった。
それゆえ、禁色、きんじき、と、呼ばれた。

一襲
ひとかさねと、読む。

黒豹の皮で作ったものを、ふるき、という。

もてはやされたり
もてはやす、とは、美しく見せる、引き立たせるという意味。
現在、もてはやすは、人が他人に対しての、行為であるが、ここでは、自ら、不釣合いが、目立つという、意味での、もてはやす、である。

はしたなう、すずろびたり
はしたなし、とは、中途半端である。体裁をなさない。
すずろぶ、とは、目的なく、理由もない、状態である。
関係が明確でなく、落ち着かない様子。
大袈裟な、身振りで、わずかに、微笑むことの、不釣合いである。
それは、滑稽である。

ここまで、作者は、姫君を、描くという。
当時の最悪の状態にある、姫君の、様子ということで、実に、学ばせられるものである。
ここまで、書かれれば、参ったと言うしかない。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第8弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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