2008年11月15日

もののあわれ326

二条の院におはして、うち臥し給ひても、なほ「思ふにかなひ難き世にこそ」と思し続けて、軽らかならぬ人の御程を、心苦しとぞおぼしける。


二条の院に、お帰りになり、お休みになっても、理想通りの女は、いないと、誰、彼を思っても、身分いやしからぬ、姫君ゆえに、気の毒に、思われた。



思ひ乱れておはするに、頭の中将おはして、中将「こよなき御朝寝かな。故あらむかし、とこそ思ひ給へらるれ」と言へば、起き上り給ひて、源氏「心やすき独寝の床にてゆるびにけりや。内裏よりか」と宣へば、中将「しか。罷で侍るままなり。朱雀院の行幸、今日なむ楽人・舞人定めらるべき由、よべ承りしを、大臣にも伝へ申さむとてなむ、罷で侍る。やがて帰り参りぬべう侍り」と、忙しげなれば、源氏「さらば、もろともに」とて、御粥、強飯召して、客人にも参り給ひて、引き続けたれど、ひとつ奉りて、中将「なほいと眠たげなり」と、とがめ出でつつ、中将「隠い給ふ事多かり」とぞ怨み聞え給ふ。事ども多く定めらるる日にて、内裏に侍ひ暮し給ひつ。




思い悩んでいるところに、頭の中将がやってきた。
ひどい、朝寝ですね。訳がありそうだと、中将が言う。
君は、起きて、気楽な独寝のため、気を許していた。御所からかと、言う。
中将は、そうです。今、退出してきたところです。
朱雀院の、行幸、今日は、その楽人や舞人を、決定すると、昨夜、承りましたが、父の大臣にも、伝えようと思い、退出したのです。すぐまた、参内せよとのことです。と、急ぎの様子。
源氏、それでは、一緒にと、御飯や、強飯を、お取りせよになり、頭の中将にも勧めて、車は、二台並んでいるが、一台に同乗されて、中将は、まだ、眠そうですねと、咎めつつ言う。
隠していらっしゃることが、沢山あるのですねと、お怨み言を言う。
多くのことが、取り決められる日で、一日、御所にいらした。



御粥は、現在のご飯である。
ひとつに奉りて
乗るという、最高敬語である。

二人は、仲が良い。
とがめ出でつつ
咎めることを、言いつつである。

隠い給ふ事多かり
隠していることが、多いのでしょう。

中将は、何を隠しているのか、知りたいのである。
それほど、源氏のことを、思う。

義理の兄弟とはいえ、随分、軽い口をきくのである。
源氏の身分は高いし、しかも、義兄である。
どうしても、ここに、二人の関係の深さを感じる。




かしこには文をだに、と、いとほしくおぼし出でて、夕つ方ぞありける。雨降り出でて、所狭くもあるに、笠宿せむ、と、はたおぼされずやありけむ。かしこには、待つ程過ぎて、命婦も、いといとほしき御様かな、と心憂く思ひけり。正身は、御心の中に恥づかしう思ひ続けて給ひて、今朝の御文の暮れぬれど、なかなか、咎としも思ひわき給はざりけり。




常陸の宮には、後朝、きぬぎぬの手紙だけでもと、思い出せば、気の毒で、夕方になり、手紙があった。
丁度、雨が降り出して、立ち寄ろうとも、思わなかったのである。
あちらでは、後朝の、文が来る時刻が過ぎたので、命婦も、残念だと、悲しく思っていた。
姫本人は、きまり悪く思いつつ、朝来るはずの手紙が、夕暮れになって、届いても、怒ることもない、心境である。

姫が、怒らないのは、それを、知らないということもある。
そんなにことは、初めてのことで、誰も、教えなかった。

男が、女の元から、帰ると、文が、すぐにやってくる。
後朝の文の礼儀である。



源氏
夕霧の 晴るるけしきも まだ見ぬに いぶせさ添ふる 宵の雨かな

雲間待ち出でむ程、いかに心もとなう」とあり。おはしますまじき御けしきを、人々胸つぶれて思へど、「なほ聞えさせ給へ」と、そそのかしあへれど、いとど思ひ乱れ給へる程にて、え形のやうにも続け給はねば、「夜更けぬ」とて、侍従ぞ例の教へ聞ゆる。



源氏
夕霧は、晴れず、あなたは、やさしくない。
そこにこの、雨です。私の気持は、いぶせさ添ふる、滅入るばかりです。

晴れ間を待っていますが、いつになるのでしょう、とある。
お越しにならない様子と、知り、皆は、たまらない気持である。
でも、お返事をと、口々に勧めるが、姫は、益々と、煩悶する様子で、型通りの、返事もできないようであるから、夜が更けてしまいますと、侍従が、いつものように、教える。


結婚の初めは、男は、三日続けて、来るのが、礼儀であるから、皆が、焦ったのである。

つまり、結婚と、同じ扱いに考えたのである。

源氏は、姫との、関係で、余りにも、姫が、気の毒と、思ったのは、秘め事を知らなかったといえる。
何が、どのようなことが、交わりなのかと、知らないという、様子だったのだ。
源氏は、それで、気の毒に思い。さて、どうしたのであろうか。
その行為を、知らない女を、前にしたとき、男は、どうするのか。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第8弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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