2008年07月13日

もののあわれ243

源氏

つれなきを 恨みもはてぬ 東雲に とりあへぬまで 驚かすらむ
つれなきを うらみもはてぬ しののめに とりあへぬまで おどろかすらむ

女、身のありさまを思ふに、いとつきなくまばゆきここちして、めでたき御もてなしも何ともおぼえず、常はいとすくすくしく、心づきなしと思ひあなづる伊予の方の思ひやられて、夢にや見ゆらむと、そら恐ろしく、つつまし。



身のうさを 嘆くにあかで あくる夜は とり重ねてぞ ねも泣かれける

ことと明かくなれば、障子口まで送り給ふ。内も外も人さわがしければ、ひきたてて別れ給ふほど、心細く、隔つる関、と、見えたり。


この前の文では、源氏が、もう、女と、付き合いが出来ないことを、嘆くというシーンがある。そして、泣くのである。
そして、歌を詠む。

あなたが、取り合ってくれないという、つれなさ。
すでに、夜が明ける。私は、大いに嘆く。

女は、身の有様を、考えて、身分の違う、源氏との関係を、戸惑い、それを、喜ぶことができないでいる。
更に、愛情のもてない、夫の伊予の国を、思い、複雑な気持ち。
この人との付き合いを、続けるという、夢を、一瞬でも、思うことは、恐ろしいことであった。

身の憂さを、嘆くと共に、夜が明ける。
思い出しても、それは、悲しいのである。

次第に、明るくなり、女を、送る源氏である。
奥の方の人も、こちらの、縁の人も、起き出している。

心細く、隔つる関、と、見えたり。

別れの、言葉である。
隔つる関、なのである。
関は、別れの、際である。

越すに越せない、大阪の関、とは、よくいったものだ。

恋は、関によって、隔てられ、峠を越えることによって、成就する。

あなたと越える峠道
いつかいつかと、待ち望み
この日を夢見て生きてきた

と、演歌となる。

四方山話も、昔は、物語すると、言った。
物語は、面白くなければ、いけない。
小説の登場であるが、矢張り、物語である。それも、面白くなければいけない。

悲しくて、面白い。楽しくて、面白い。
この、面白いものとは、もののあわれ、の、一つの心象風景である。


月は有明にて、光をさまれるものから、顔けざやかに見えて、なかなかをかしきあけぼのなり。何心なき空の気色も、ただ見る人から、艶にも、すごくも、見ゆるなりけり。人知れぬ御心には、いと胸いたく、「ことづてやらむよすがだになきを」と、かへりみがちにて、出で給ひぬ。

有明の月とは、夜が明けても、出る月である。
残月ともいう。
朝の光に、すべてのものが、照らされる。
なかなかをかしきあけぼの
不思議な、面白い、夏の朝である。
何心なき空の気色
何心なき、とは、実に、微妙な表現である。言えば、我のみ知る心持である。
それは、身に染む、いや、心身に沁みる、風景である。
更に、言伝さえ、出来ない相手なのである。
その方法が無いという、虚無感。
そして、去って行く。

何心なき空の気色、とは、様々な場面で、私たちは、経験する。
何も、恋ばかりではない。
人と人の関係の中で、それを、感じる場合もあり、物や風景の場合もある。

何かしら、所在無き、心の様。
しかし、深い思いに充ちる。

悲しみが、深ければ深いほど、所在の無い心の様に、なってゆくこともある。
この、何心、とは、何か。
それを、捜し求めて、紫式部は、物語を描くのである。

深い思いを、言葉に出来ない、それが、もののあわれ、の、一つの風景である。

それを、何心と、言う。
正に、残月に、掛ける、残心、ざんしん、である。

残心を、名残とも言う。
名残の雪、名残の月、名残の花、名残の思い。
ありとあらゆるものに、通じるもの、それが、もののあわれ、というものである。

なかなかをかしきあけぼのなり
これを、現代文にするのは、ひじょうに難しい。
だから、私は、原文を読むしかないという。

外国語を、翻訳で読むというものとは、全く別物である。
大和言葉の、その、有様を、読むのである。

艶にも、すごくも、見ゆるなりけり
何を見たのか。
朝の風景である。
その、風景に、託す思いというものを、日本人は、長い間、培ってきたのである。
目の前の風景は、心、そのものであった。

私は、オーストラリアの、アボリジニの、精神を伝え聞いて、仰天した。
今、目の前にある風景、自然は、先祖の夢なのであるという、物の見方である。

先祖の夢が、今、目の前にあると、思いつつ、生活するという、その、民族の精神の高さである。

感動というより、絶句した。

それ、大和心ではないか。
それこそ、大和心ではないか。

先祖の夢が、今、目の前にあるという。その心こそ、大和心、大和魂の、そのものである。

私は、伝承と伝統こそ、守らなければならない、唯一のものと、考える。
私は死ぬ。
しかし、私の思いは、自然に現れる。
素晴らしい。
言葉が無い。
故に、言挙げしない。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第6弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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