2008年07月08日

もののあわれ238

ははき 木

光る源氏、名のみことごとしう、言ひ消たれ給ふとが多かなるに、いとど、かかるすきごとどもを末の世にも聞き伝へて、かろびたる名をや流さむと、しのび給ひける隠ろへ事をさへ、語り伝へけむ人のものいひさがなさよ。さるは、いといたく世をはばかり、まめだち給ひけるほど、なよびかにをかしき事はなくて、交野の少将には笑はれ給ひけむかし。

光源氏、その名で、見事な、人生を、謳歌したように、思われる。自由奔放な恋愛、好色な生活が、世の中に伝えられるようである。
しかし、実際は、それとは、別に、地味な心持、生活であった。
それに、恋愛に関して、後に、誤って伝えられることを、恐れ、異性との関係を、人に知られぬようにしていた。
ここに書くようなことが、伝わっているのは、世間の、噂が、激しいのである。
いといたく世をはばかり
世の中を、憚り、自重して、恋愛、好色には、遠い。
好色物語の、交野少将などには、笑われていたことであろう。

書き出しである。
作者は、実在の物語であると、強く語るのである。
創作の物語を、更に、強く、実在にあるかの如くに、説得する。

ここで、紫式部は、この物語を、すべて作り上げて、書き始めたと想像出来る。
余裕、たっぷりである。

あたかも、人に聞いたかのように、順々に、物語する。
誰かに、話をするようにである。

まだ中将などにものし給ひし時は、うちにのみさぶらひようし給ひて、おほいとのにはたえだえまかで給ふ。しのぶの乱れやと疑ひ聞ゆる事もありしかど、さしもあだめき目なれたるうちつけのすきずきしさなどは、好ましからぬ御本性にて、まれには、あながたちにひきたがへ、心づくしなる事を、御心におぼしとどむる癖なむあやにくにて、さるまじき御ふるまひもうちまじりける。

中将時代は、宮中の宿直所に、暮らして、時々、舅の左大臣の家にゆく。
それで、他に、恋人を、持っている疑いを掛けられたが、世間にあるような、好色な男の生活は、嫌いだった。
まれには、あながたちにひきたがへ
稀に、風変わりな、恋をして、手ごわい相手に、心を打ち込んだりする、癖はあった。

しのぶの乱れやと疑ひ聞ゆる事もありしかど
春日野の 若紫の すり衣 しのぶの乱れ 限り知られず
伊勢物語

素性も知れぬ女に、一目惚れすることを言う。

この巻は、女の品定めをする。非常に興味深い巻である。
当時の、女性観を知ることが出来る。
少し、深入りする。

なが雨はれまなき頃、うちの御物忌さしつづきて、いとどながい侍ひ給ふを、おほいとのにはおぼつかなくうらめしくおぼしたれど、よろづの御よそひ、なにくれとめづらしきさまに、調じ出で給ひつつ、御むすこの君たち、ただこの御とのい所の宮仕へを勤め給ふ。

長雨とは、梅雨時期である。
帝のご謹慎が、幾日かあり、臣は、家に帰らず、宿直する。
このような日々が続き、源氏の御住まいも、長くなった。
大臣の家では、来ない源氏を、恨めしく思っていたが、衣装や、贅沢な調度品を御所の、桐壺へ運ぶ。
左大臣の、息子たちは、宮中の用をするより、源氏の宿に、通うことが、楽しいのである。


宮腹の中将は、なかに親しくなれ聞え給ひて、あそびたはぶれをも、人よりは心やすくなれなれしくふるまひたり。右のおとどのいたはりかしづき給ふ住みかは、この君もいとものうくして、すきがましきあだ人なり。里にても我がかたのしつらひまばゆくして、君の出で入りし給ふに、うちつれ聞え給ひつつ、よるひる、学問をもあそびをももろともにして、をさをさたちおくれず、いづくにてもまつはれ聞え給ふほどに、おのづからかしこまりもえおかず、心のうちに思ふ事をも隠しあへずなむ、むつれ聞え給ひける。

中では、宮腹の中将は、最も源氏と、親しくなった。
遊戯をするのも、何をするのも、多の物に、及ばないほど、親交を深めた。
大事にしてくれる、右大臣の家へ行くことも、この人は、嫌いである。
結婚した男は、誰も妻の家で、過ごすのだが、この人は、親の家に、立派な居間や、書斎を持っていた。
源氏か出る時は、昼も夜も、学問をするのも、遊びをするのも、一緒だった。
おのづから かしこまりも えおかず
謙遜することもなく、敬意を、表することも忘れた。
むつれ聞え給ひける
仲良しである。
しかし、これは、尋常ではない。

睦み合うということである。
誰も言わないので、私が言う。
同性愛行為も、あるという。

当時の、交接は、男女の関係のみではない。実に、曖昧である。
それに、関しては、未分化であり、更に、そのような行為は、自然容認されていて、特別なことだとは、思わないのである。

美貌の源氏であるから、男も、放っておかないのである。

恋とは、女とするもの。
それを、好色という。
男同士の、睦み合いは、自然、当然として、書くこともない。

さて、この巻では、女の多様な姿を、皆が披露するのである。

その前に、

つれづれと降り暮らして、しめやかなるよひの雨に、殿上にもをさをさ人ずくなに、御とのい所もれいよりはのどやかなる心ちするに、おほとなぶら近くて、文どもなど見給ふ。

上記の文、大和言葉である。源氏物語は、すべて、大和言葉である。
物語は、女子供のものという意識があったのは、正式文書、男が書くものは、当時は、皆、漢語である。
漢字平仮名交じりの文は、女房文学といわれ。そして、その、女房文学は、源氏物語で、幕を開けたのである。更に、日本の文学の幕開けでもある。

一日中、雨が降り続き、何もできない様子である。
その、しめやかなる、夕方である。
殿上の役人たちも、少ない。源氏の桐壺も、静かである。
そこで、灯を点して、書物を見ていると、その本を取り出した、置き棚にあった、色の紙に書かれた手紙を、中将は、見たがった。

さて、これから、源氏と、中将の女についての、語りが始まる。
物語は、中将の女の品定めを語る。

更に、そこに、左の馬の頭と、藤式部の丞が、加わり、女談義に、花が咲く。

様々な女の姿を、源氏は、聞くことになる。
特に、左の馬の頭の、中流の女の話に、興味を惹かれる。
これが、源氏の、恋愛遍歴の、始まりになるのである。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第6弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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