2008年06月09日

もののあわれ209

筑紫へ行く人のむすめの

西の海を おもひやりつつ 月みれば ただに泣かるる ころにもあるかな

筑紫は、筑前、筑後の国、現在の福岡県である。
また、九州全体を指す場合もあり。

筑紫へ行く人のむすめ
というのは、父が、官職を得て、赴任するのだろう。

これから行くと言う、西の海を、思い、月を眺めれば、ただ、泣けてくるこの頃です。

月は、遠くにある。遠くに行く人を、月の遠さに、掛けて言う。

人生は、ただに泣かるる、ということが、多い。
その、人生を、儚いと、観る。
また、浮世、憂鬱の、憂い世でもある。

この場合は、別れであるから、まだ、壮絶ではない。
だが、壮絶な、ただに泣かるる、ということも、多いのである。

愛する人を失うことなど。
死別は、最後の別れである。

別れにある心情もまた、もののあわれ、というものの、心象風景である。

死、というものにこそ、もののあわれ、というものは、極まる。


返り事に

西へ行く 月のたよりに たまづさの かきたえめやは 雲のかよいぢ

返歌に

月は、雲の道を西に行きます。その西へ行く私に、あなたの文が、途絶えることは、ありません。
たまづさ
手紙であり、文。
かきたえ、め、やは
書く文は、やは、反語である。

雲のかよいぢ
雲の間を通る道であり、これは、想像力である。
雲の通い路である。

君偲ぶ 雲の通い路 掻き分けて いざもろともに 恋の命を 天山
このように、詠むことが、できる。

風情である。
形の無いものにも、心が通うと、観たのは、日本人である。
それも、精霊信仰の一つと、言って、済ますことは、出来ない。
生活の中に、息づいていたのである。
生活、生きること、そのものに、風情という感覚があった。

信仰というより、それが、生活態度だった。

そして、更に、その行為を、奥ゆかしいと、言って、貴んだ。

雲の中に、一筋の道があると、仮定しての、人と人の、心の交わりである。
人をつなぐものを、携帯電話と、見立てることも、雲の通い路と、見立てることも、大差無い。
私は、雲の通い路を、取る。

子供は、色々と大人に問う。
神様っているの。サンタクロースっているの。等々。
いるよ、と答える。
いずれ、子供が成長して、それを、自分が決めることを、知っている。

夢を、与えるということは、想像力を、逞しくするということだ。それは、情感教育である。
いずれ、大人の現実の世界を知る時、その中で、苦難する時、新たな、夢を、描いて、生きられるように。
それは、決して、宗教を信じるというような、低級なものではない。
己を信じて、己の道を、見いだす力である。

それを、知性と言い、感性と言い、理性と言う。


はるかなる所に行きやせむ行かずやと思ひわづらふ人の、山里よりもみぢを折りておこせたる

露深く おく山里の もみぢ葉に かよへる袖の 色をみせばや

都から、遠くへ行こうか、行くまいか、迷う人。山里の、紅葉を、贈ってきた。

露の置く、紅葉は、色濃くあります。涙に染まる、紅葉の葉の色のような、私の袖を、お見せしたいものです。

木の葉が、紅葉するのは、露や時雨に染まると、考えられた。
袖が、紅葉の色、それは、血の色とも、思われた。
哀しみの極地にある心情とされる。

返し

あらし吹く 遠山里の もみぢ葉は つゆもとまらむ ことのかたさよ

嵐吹く、遠い山里の紅葉は、少しの間も、留まっていることは、難しいでしょう。散ってしまいます。そのように、あなたを、連れて行こうとする力に、抗うことは、できません。

つゆもとまらむ ことのかたさよ
露も止まらぬ 事の堅さである。
都に留まることは、困難である、という意味になる。
紅葉が散ることを言う。

紅葉に置いた露は、紅葉と共に、散るのである。

また、その人の
もみぢ葉を さそう嵐は はやけれど 木のしたならで 行く心かな

紅葉を、散らせる、風は速いものですが、木の下でない場所に、行く気には、なれません。

連れて行こうとする力は、強いが、行く気になれないという。
木の下とは、親の元であるのか。

多くの言葉を、使わず、和歌にして、思いを伝える時代である。
言葉に対する、感性が、鋭敏な時代と言える。
これが、日本の文化の大元である。

言葉に託すとしても、多くを、語らない。
また、物に託すこともある。

以心伝心という心情は、日本人の特徴でもある。

ピンと、くるものがなければ、歌詠みなど、出来ない。
感性の磨きの、最高のものである。

感性の、在り処はと、聞かれたら。
もののあわれ、と、答える。

多く語らず、多くを語るもの、それが、歌の道であった。
今は、それが、廃れて、久しい。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれに第5弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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