2008年04月04日

もののあわれについて193


高瀬舟 はやこぎ出でよ さはること さしかへりにし 蘆間わけたり

と聞こえたるを、おぼし忘れたるにや、


山べにも 車に乗りて 行くべきに 高瀬の舟は いかがよすべき

とあれば、


もみぢ葉の 見にくるまでも 散らざらば 高瀬の舟に なにかこがれむ

とて、その日も暮れぬればおはしまして、こなたのふたがれば、忍びていておはします。



たかせぶね はやこぎいでよ さはること さしかへりにし あしまわけたり

高瀬舟を、早く漕いで、お越しください。差し支えがありました、蘆の間は、取り片付けています。

と、申し上げ、宮様は、お忘れになったのでしょうか。


やまべにも くるまにのりて ゆくべきに たかせのふねに なにかこがれむ

山の紅葉を見に行きますのも、車で行きますのに、高瀬舟と、言われても、山に近づけるには、どうすれば、いいのでしょう。

と、詠んでこられたので、


もみぢばの みにくるまでも ちらさらば たかせのふねに なにかこがれむ

山の紅葉が、散らずに待っているならば、ともかく、どうして、紅葉を恋焦がれましょうか。高瀬舟で、行くなど、できません。
焦がれている、私の元に、お出でください。

と、お返事しますと、その日の、夕暮れに、お出でになり、女の家が、方、塞がりなので、女を、外に連れ出しました。

方塞、かたふたがり、とは、方位が、悪いという意味。
女の家が、その日は、悪い方位に当たる。
当時は、方違、かたたがい、という、悪い方位を、吉に変えるために、別な方角に、一度行き、そこから、相手先に、向かうという、方法もあった。


このごろは四十五日の忌みたがへせさせたまふとて、御いとこの三位の家におはします。例ならぬ所にさへあれば、女「見苦し」と聞こゆれど、しひていておはしまして、御車ながら人も見ぬ車宿に引き立てて、人らせたまひぬれば、おそろしく思ふ、人しづまりてぞおはしまして、御車にたてまつりて、よろづのことをのたまはせ契る。

このごろは、宮様が、四十五日の、方違をなさるということで、御いとこの、三位の家に、おいでになりました。
いつもの所と、違う場所であり、女は「見苦しゅうございます」と、言った。
宮様は、無理に、女を、人目のつかない、車宿に、連れました。
宮様は、一人で、御宅に入り、女は、恐ろしく思いました。
人が、寝静まってから、宮様は、お出でになり、御車に乗って、色々なことを、話、契りました。


心得ぬ宿直のをのこどもそけめぐり歩く、例の右近の尉、この童とぞ近くさぶらふ。あはれにもののおぼさるるままに、おろかに過ぎし方さへくやしうおぼさるるも、あながちなり、明けぬれば、やがていておはしまして、人の起きぬさきにといそぎ帰らせたまひて、つとめて、


寝ぬる夜の 寝覚の夢に ならひてぞ ふしみの里を 今朝は起きける

御返し


その夜より わが身の上は 知られねば すずろにあらぬ 旅寝をぞする

と聞こゆ。


様子のわからない、宿直の、男たちが、歩いています。
例のように、右近の尉と、童が、車の近くで、お仕えしていました。
宮様は、あはれにもののおぼさるるままに、
しみじみとした、思いに誘われる女に対して、いい加減に、接してきたことを、悔やまれました。また、そう思うことすら、勝手なものだと、思われます。

夜が明けますと、宮様は、女の家まで送ります。
お邸の方が、起きないうちにと、急いで帰られました。
朝のうちに


ねぬるよの ねざめのゆめに ならひてぞ ふしみのさとを けさはおきける

共寝をした夜以来、寝覚めがちな、夢に慣れてしまいました。伏見の里ですが、今朝は、臥すことなく、起きてしまいました。

お返し


そのよより わがみのうえは しられねば すずろにあらぬ たびねをぞする

お逢いしました、その夜から、私の身の上は、どうなることか、解らなくなりました。
まさか、とんでもない、外泊をするなどとは、思いませんでした。

と、申し上げました。

あはれにもののおぼさるるままに
あはれ、に、ものの、おぼさるる、ままに
憐れに、物を、覚えるが、如く、となる。
心に深く、思うこと、感じる、ことなのである。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第4弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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