2008年04月03日

もののあわれについて192

かくてあるほどに、またよからぬ人々文おこせ、またみづからもたちさまよふにつけても、よしなきことの出で来るに、参りやしなましと思へど、なほつつましうてすがすがしうも思ひ立たず、霜いと白きつとめて、


わが上は 千鳥もつげじ 大鳥の はねにも霜は さやはおきする

と聞こえさせたれば、


月も見で 寝にきと言ひし 人の上に おきしもせじを 大鳥のごと

とのたまはせて、やがて暮におはしましたり。

そのようにしている、うちに、また、よくない男たちが、文を、よこします。
また、男たちが、うろついて、まとう様も、良くないことなので、宮様の、邸に、参ろうかと、思いましたが、やはり、遠慮があり、中々、決心が、つきません。
霜が、大変、白く置いた朝に、


わがうえは ちどりもつげじ おおとりの はねにもしもは さやはおきける

私のことを、千鳥は、宮さまに、告げますか。
起き明かして、袖に、霜がおきましたことを。
大鳥で、いらっしゃる、宮様の羽にも、霜はおきましたか。

と、申し上げますと、


つきもみで ねにきといひし ひとのうえに おきしもせじを おおとりのごと

月も見ずに、寝てしまったと言われますが、そのように、起き明かすことのない人の上に、霜は、おくわけは、ありません。大鳥のようには。

と、お詠みになられて、すぐに、夕方、お見えになりました。

宮「このごろの山の紅葉はいかにをかしからむ。いざたまへ、見む」とのたまえば、女「いとよくはべるなり」と聞こえて、その日になりて、女「今日は物忌」と聞こえてとどまりたれば、宮「あなくちをし。これ過ぐしてはかならず」とあるに、その夜の時雨、つねよりも木々の葉残りありげもなく聞こゆるに、目をさまして、「風の前なる」などひとりごちて、「みな散りぬらむかし。昨日見で」とくちをしう思ひ明かして、つとめて、宮より


神無月 世にふりにたる 時雨とや 今日のながめは わかずふるらむ

さてはくちをしくこそ」とのたまはせたり。

宮様は、「この頃の、山の紅葉は、どんなに、美しいでしょう。さあ、見に行きましょう」と、仰せになります。
女は「たいそう、よい話です」と、申し上げます
当日になって、「今日は、物忌みですので」と申し上げて、家に留まりました。
それで、宮様から、「残念です。物忌みが、終わりましたら、行きましょう」と、御文がありました。
その夜、時雨が、いつもより、強く降り、木々の葉が、残りそうになく、聞こえました。
宮様は、目覚められて、「風の前なる」などと、独り言を仰せになり、「紅葉は、散ってしまったでしょう。昨日見ておかないで、大変、口惜しい」と、残念に思い、夜を明かしました。
その朝、宮様から、


かんなづき よにふりにたる しぐれとや きょうのながめは わかずふるなむ

十月に、昔から降る、時雨と言われますのに、区別もなしに、今日の、長雨は、降るのでしょうか。
あなたは、長雨を、時雨と思い、私の、涙の雨とは、思わないでしょう。

本当に、口惜しい気持ちです。
と、御文がありました。



時雨かも なにに濡れたる たもとぞと 定めかねてぞ われもながむる
とて、女「まことや、


もみぢ葉は 夜半の時雨に あらじかし 昨夜山べを 見たらしかば

とあるを、御覧じて、


そよやそよ などて山べを 見ざりけむ 今朝は悔ゆれど なにのかひなし

とて、端に、


あらじとは 思ふものから もみぢ葉の 散りや残れる いざ行きて見む

とのたまはせたれば、


うつろはぬ 常磐の山も もみぢせば いざかし行きて 問ふ問ふも見む

不覚なることにぞはべらむかし」。一日おはしましたりしに、、女「さはることありて聞こえさせぬぞ」と申ししをおぼし出でで。



しぐれかな なににぬれたる たもとぞと さだめかねてぞ われもながむる

時雨に濡れたのかどうか、わかりませんが、私の袂は、濡れています。
何に濡れたのかと、物思いしています。

と、女は詠み、さらに


もみぢばは よはのしぐれに あらじかし きのうやまべを みたらましかば

紅葉は、夜半の時雨に打たれて、残ってはいませんでしょう。
昨日、見ておけば、良かったと、思います。

と、お返事差し上げたのを、見て、


そよやそよ などてやまべを みざりけむ けさはくゆれど なにのかひなし

そうです、そうです。どうして、紅葉を見に、行かなかったのでしょう。
今朝になって、後悔して、どうしようもありません。

と、お書きになり、その、端に

あらじとは おもふものから もみぢばの ちりやのこれる いざいきてみむ

もう、紅葉は、落ちているでしょうが、もしや、まだ、残っているかもしれません。
さあ、見て来ましょう。

と、仰せになりましたので


うつろはぬ ときわのやまも もみぢせば いざかしゆきて とふとふもみむ

色が変わることがないという、常盤の木々が、紅葉になると、いうのであれば、さあ、出掛けて、見ることにしましょう。

お忘れに、なられたのでしょうね。と、申し上げました。
この間、宮様が、お越しの時に、「差し支えがあって、お逢いできません」と、申し上げたのを、思い出しくださらない。

さはり、とは、物忌み、それは、女性の、月のものを、言う場合もある。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第4弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。