2008年01月08日

もののあわれ 378

いとつれづれに眺めがちなれど、何となき御ありきも、物うくおぼしなりて、おぼしも立たれず、姫君の何事もあらまほしう整ひはてて、いとめでたうのみ見え給ふを、似げなからぬ程に、はた見なし給へれば、けしきばみたることなど、折々聞え試み給へど、見も知り給はぬ気色なり。





大変に、所在無く、物思いに沈む。
どうでもいいような、出歩きは、したくもない。
ところが、姫君が、申し分なく、整い、大変立派に成長している。
これは、不釣合いではないと、意味ありげに、ことを申してみるが、そんなことは、全く解らないようである。

要するに、男と女の関係である。

けしきばみたることなど
何となく、それと、解ることを言うのである。




つれづれなるままに、ただこなたにて碁うち、偏つきなどしつつ、日を暮らし給ふに、心ばへのらうらうじく、愛敬づき、はかなきたはぶれごとのなかにも、美しき筋をし出で給へば、おぼし放ちたる年月こそ、たださる方のらうたさのみはありつれ、忍び難くなりて、心苦しけれど、いかがありけむ。人の、けぢめ見奉り分くべき御中にもあらぬに、男君はとく起き給ひて、女君はさらに起き給はぬあしたあり。人々「いかなればかくおはしますならむ。御ここちの例ならずおぼさるるにや」と、見奉り嘆くに、君はわたり給ふとて、御硯の箱を、御帳のうちにさし入れておはしにけり。人間にからうじて頭もたげ給へるに、引き結びたる文、御枕のもとにあり。何心もなく、引きあけて見給へば、


源氏
あやなくも 隔てけるかな 夜をかさね さすがになれし 夜の衣を


と書きすさび給へるやうなり。かかる御心おはすらむとは、かけてもおぼし寄らざりしかば「などてかう心うかりける御心を、うらなく頼もしきものに思ひ聞えけむ」と、あさましうおぼさる。





つれづれなるままに、つまり、何となく、所在の無い気持ちで、こちらの対にて、碁を打ち、偏つぎなどをして、日を過ごしている。
姫は、性質が利発で、愛嬌があり、少しの姿も、可愛いのである。
結婚を考えずにいた、年月は、ただ、幼い愛らしいと思っていたが、今は、その姿に、心引かれるのである。
姫には、気の毒なことだったのか・・・
人が、いつから、その区別を見分けて申し上げるという、仲ではない。
男君は、早く起きて、女君が、中々起きない朝があった。
女房たちは、どういうわけで、休んでいられるのか。ご気分が悪いのかと、案じるが、君は、自分かの部屋に戻られるとあって、硯の箱を、御帳台の中に、差し入れた。
人のいない時に、やっと、頭をもたげて、引き結んだ手紙が、枕元にある。
何気なく、引きあけてご覧になると

源氏
幾夜も、幾夜も、共に寝て、それでいて、何事もなく着慣れた夜の、衣は、わけもなく隔てられて、君と共に、しなかったことだ。
と、書き流してある。
こんなに心深いと、思わず、夢にも、考えなかったことである。
どうして、こんな嫌な、お方を、心の底から、頼みにしてきたのかと、呆れて、思うのである。

偏つき
一文字の偏を見せて、文字を当てさせる、遊び。

はじめて、姫は、男との関係を知ったのである。
初夜である。

結び文は、恋文である。
しかし、姫は、それを理解しない。




昼つ方渡り給ひて、源氏「悩ましげにし給ふらむは、いかなる御ここちぞ。今日は碁も打たで、さうざうしや」とてのぞき給へば、いよいよ御布引きかづきて伏し給へり。人々は退きつつ侍へば、寄り給ひて、源氏「などかくいぶせき御もてなしぞ。思ひの外に心うくこそおはしけれな。人もいかにあやしと思ふらむ」とて、御ふすまを引きやり給へれば、汗におしたして、ひたひ髪もいたう濡れ給へり。源氏「あなうたて。これは、いとゆゆしきわざぞよ」とて、よろづにこしらへ聞え給へど、まことにいとつらしと思ひ給ひて、つゆの御いらへもし給はず。源氏「よしよし。さらに見え奉らじ。いとはづかし」など、怨じ給ひて、御硯あけて見給へど、物もなければ、「若の御有様や」と、らうたく見奉り給ひて、日一日入り居て、慰め聞え給へど、解け難き御気色、いとどらうたげなり。






昼ごろに、こちらに、渡り、源氏は、気分が悪いそうですね。どんな具合ですか。今日は、碁も打たないので、つまらないと、顔を覗く。
すると、いよいよ、お召し物をひき被り、横になる。
女房たちは、引き下がって、控えているので、傍により、源氏は、どうして、こんな酷い、仕打ちなのか。案外に、嫌な方ですね。皆も、どんなに変だと思うでしょうと、布団を引き退けると、汗をかいて、額も髪も、濡れている。
源氏は、ああ、嫌だな。こんなにしているのは、大変縁起が悪いことですと、言い、いろいろいと、なだめすかすが、源氏を、嫌な人だと、思ってしまったようである。
一言も、返事をしないのである。
源氏は、よしよし、わかりました。もう、お会いしないようにします。会わせる顔を無いと、怨むのである。
硯箱を開けて、ご覧になるが、何も無い。
幼い方だと、愛らしくご覧になり、一日中、慰めるが、ご機嫌が解けない様子は、また、愛らしいのである。

男女の交わりは、結婚であった。

普通は、女の元に、出掛けるが、姫の場合は、源氏が、後見人でもある。


初夜の歌を、もう一度見る。

あやなくも 隔てけるかな 夜をかさね さすがになれし 夜の衣を

あや、かさね、は、衣の縁語である。

幾夜も、一緒にあった衣、着慣れた衣である。
しかし、それは、隔てられてあった。
今までは、である。
本当は、隔てなく、共に、したかったのである。
衣は、姫君である。


夜という文字を、よ、よる、と読ませている。

結論を急がないが、果たして、これは、紫式部の筆であろうか。
源氏物語には、矛盾が多い。
この筆は、紫式部のものか、否かを、後で、問うことにする。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第9弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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