2007年10月20日

もののあわれについて136

読み人知らず 題知らずを続ける。

ほととぎす 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな

ほとときず なくやさつきの あやめぐさ あやめもしらぬ こいもするかな

恋歌であるが、実に激しい。
ほととぎすが鳴く五月、あやめが咲く。私は、あやめも知らない恋をする。恋をしている。

この歌では、あやめも知らぬ恋もするかな、が、意味を持つ。
その前を、序詞という。枕詞と同じである。
最初の、あやめぐさが、次のあやめを、引き出すのである。
万葉にはなかった、表現である。
作為がある。それは、短歌の成長である。
成長を、堕落と言えば、それは、その人の自説である。

歌を作るという余裕を、ここから観るのである。

あやめが、人の心を解ることはない。
ただし、ここでは、あやめにも、心が通じるという思いで歌を作る。
あやめも知らない恋をする程、秘めているのであり、秘めた恋は、実に激しい。

余計なことだが、植物に心があるということを、証明した人がいる。
また、水にも、心があることを、証明した人もいる。
自然のもの、人の心に通じる、こころ、というものを、有する。

松尾芭蕉が、松のことは松に、竹のことは竹に聞け、と言う。
意識下の世界では、自然界に繋がる心があるということである。

あやめも知らぬ恋をする、という、心境に、もののあわれ、というものがある。
もののあわれ、の、もう一つの姿である。

万葉、大伴坂上郎女の歌。
夏の野の 繁みに咲ける 白百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ

同じ心境である。
ここでは、繁みに咲く白百合は、人目につかない。それと、同じように、私の恋心は、誰も知らない。故に、更に苦しいのである。

この、知らえぬ恋は苦しきものぞ、の前が、序詞になるといえるが、古今の序詞と違う。
実際に見ているのである。繁みの白百合を見ているのである。
ほととぎす鳴くや五月のあやめ草は、見なくてもいい。見えていなくても、それを言いたいのではなく、知らない恋をする、ということを言いたいがための、序詞である。

恋というものは、このようなあるものが、ベストなのだろう。
思う恋である。

恋は、相手の魂を、乞い願うことである。
つまり、タマコイ、魂恋なのである。

日本人は、恋を知る民族であり、愛を知るものではない。
愛と言う言葉は、最初は、仏教の愛着、愛執などのように、捉われる欲望として、認識された。

欧米の愛の思想は、神との契約による、思想がある。
愛と言う関係も、契約関係である。

恋は、契約ではない。
感情の発露である。相手の魂を乞う、感情、情緒の発露である。
それが、官能と直結していた。
恋の原始感覚は、官能と共にある。
欲望に忠実であった。
だから、乱交という場合も、現代の乱交という意味と、全く別物である。
性の欲望に忠実であり、それは、生きるということに直結していた。

時代が、病んでくると、乱交が、機械的な性の処理になる。
古代の性の処理は、心と性が、一緒にあるのだ。
だが、女性は、今も、万葉時代のように、性と心とが、同通すること、多々あり。
女のエロスは、男には、理解出来ないほどに、深い、激しい。

性に溺れた男を、立ち直らせることは、出来るが、女は、非常に難しい。いや、性に溺れ続けることの方が多い。

この時代は、まだ未分化といえば、言える。
非常に曖昧である。

恋も性も、たゆたう、のである。

夕暮れは 雲のはたてに ものぞ思ふ 天つ空なる 人を恋ふとて

はたて、は、果ての意味。
夕暮れ時、雲の果てにあるものを思う。恋する人は、手の届かないところにいる人。
ゆうぐれはくものはたてにものぞおもふ あまつそらなるひとをこふとて

朗詠も、文法も、三句切れである。

雲のはたて、と、天つ空との対応である。
片恋の歌である。
男でもあり、女でもあり、心境は同じである。

秋と共に、夕暮れというのは、歌の核心に迫ることになる。
枯れ行く秋と、一日の終る手前の、まだ、夕映えの光ある頃という、実に、曖昧な季節と、時間帯を、好むのである。

遥かなものを思うことが、手の届かない片恋の人であるという、世界観である。
現代の、世界の情報が瞬時に手に入る時代ではない。距離感覚ではなく、時間感覚である。

時間感覚が、遅いとみる。
要するに、ゆったりとしている。

ただ、すでに万葉後期から、現代に続く、生命力の欠如は、否めない。
後に、文法とされるものが、複雑になればなるほど、それが強くなる。しかし、その複雑さをもって、万葉初期を、単純で、皆、同じような歌の集りであると、判断してしまう、短絡的な、見方は、誤りであること。今まで、重々書いた。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第2弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。