2007年03月20日

もののあわれ28

額田王 近江の天皇を偲びまつりて作れる歌一首
君待つと わが恋ひ居れば わが宿の 簾うごかし 秋の風吹く
きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく

あなたを恋しく待っていると、簾がかすかに動き、ああ、あなたがやって来たのかと思いきや、秋の風が吹いているだけです。
有名な歌の一つである。
この相手は、天智天皇である。額田は、天智の後宮である。正妻ではない。当時の婚姻の様を考えると、現代の考え方では理解できない関係がある。正妻という言い方も、少し違うのである。側室を持つとは、戦国時代、徳川時代まで続く。
これを野蛮な風習と考えてはならない。一夫多妻は、子孫繁栄、子孫維持のために取られた風習である。当時は、生まれても多く死ぬことがあり、子孫を維持するというのは、今より、もっと大変なことだった。

簾動かし秋の風吹く。
簾が動いた、あなたが来た、しかし、それは秋の風であった。
何と言うことも無い情景である。しかし、ここに、あわれがある。
風情である。恋心にある情の有り様から、もののあわれを観た、大和の民の象徴的な歌である。
恋する心が、寸文の隙もなく、充満している。その充満した気持ちに応えるかのように、秋風が簾を動かし、それに心が動く。この微妙繊細な心情に、あわれがある。
心の細やかさである。

この歌に和したものと思われる、額田の姉である、鏡王女の歌をみる。
風をだに 恋ふるはともし 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ

風の訪れさえも、あなたではないかと思う。そう思えるのも、今現代、お相手がいらっしゃる喜び。羨ましいと歌う。
鏡王女の夫は、中臣鎌足である。鎌足を失った後の歌である。
風をだに、とは、風をもあなたの気配と感じる、その恋しい人をという意味である。
つまり、恋ふるはともしである。
風をそのように思えるあなたが、羨ましい。決して来ぬ人を待つのではないから。
来る人を待てるのは、幸せなことである。しかし、私には、そういう人は、今はいないのである。
来むとし待たば 何か嘆かむ、とは、詠嘆であろうが、充実した心情がある。それ、風情である。あわれである。

時代を下り、後に、日本の歌創作に賭けた人々がいる。
新しい日本の歌、民謡を作ろうとした人、童謡を作ろうとした人。
赤い鳥運動などもそうである。
北原白秋や、野口雨情、作曲では山田耕筰等々であるが、皆、原点は、万葉集の心を受け継いでいる。彼らが意識する、しないに関わらず、万葉の風を浴びているのである。
多く日本人の心をとらえた歌は、歌謡曲にせよ、演歌にせよ、日本歌曲といわれる芸術歌曲なるものも、万葉の心を頂いているのである。
その証拠に、皆、大和言葉で作詞されているのである。

詩吟というものがある。漢詩を朗詠するのであるが、知る人には良いが、一般的にならないのは、漢語の語感が知る人にしか解らないからである。
私が朗詠するのは、万葉集である。朗詠という日本の伝統の謡は、大和言葉によるものなのである。
漢詩の詩吟は、やはり一部の人のためのものである。
しかしそれも、大和言葉の響きには叶わないし、また、詩吟も、母音を響かせて聞かせるものであるということで、いかに母音が大切かが解る。
また、実際、漢詩の風景は、参考にはなるが、大陸のものであり、違和感がある。大和言葉を知る者としては、高揚しなければ吟詠出来ないものであると言う。
またこの頃は、詩吟も堕落して、マイクを使用する。あれならば、どうしようもない。響きが、スピーカーを通して、朗詠も何も無い。女子供の遊びである。

さて、万葉の歌に戻る。
今、風の音に心を寄せる風情があるだろうか。それさえも忘れた時代である。
自然の働きに、心を動かされる民族の、大切な感性を失いつつあるのは、絶望的である。
人工の音に掻き消されて、自然の音は、聞こえない。まして、捏造を良しとするテレビの音に慣れ親しんで、感覚麻痺を起こし、飼いならされている様は、祖先に、みおやに、申し訳が無いのである。
日本の心とは、自然の心に沿う心である。
祖先は、すべてを自然から学んだ。そういう謙虚さを身に付けていた。
自然に神を観て、礼拝したのである。その大元が太陽である。天照大神と、八百万の神、千代万の神、神々の世界を日本人は創造したのである。
それが超越した存在ではなく、我らの存在の延長にある世界である。

国家という幻想が、見事に自然と調和した民族である。それは自然を征服して、傲慢に成り上がった国家という幻想を持つ、欧米の思想とは、全く違うのである。
大和言葉を読み、今一度、日本の心に立ち戻る時が来たのである、



posted by 天山 at 00:00| Comment(0) | もののあわれについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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