2015年12月01日

玉砕86

時間の余裕はなかった。
早速、編制に着手した、玉井中佐は、昭和18年10月、練習航空隊教程を卒業して、一航艦の二六五空に入隊して以来、中佐と共に、苦楽を共にして来た、第九期飛行予科練練習生出身の搭乗員の中から、人選を行おうとした。

彼らは、玉井中佐の直接の教え子でもあった。
集った第九期練習生は、23名。
玉井中佐が、「捷」号作戦と、大西新長官の決心を説明すると、感激して、全員諸手を挙げて賛成したのである。

体当たり、特攻を、賛成した・・・
戦争に参加した以上は、死ぬことを、覚悟していたからか・・・

こうして、参加搭乗員の問題は、解決した。
あとは、指揮官の人選である。

玉井中佐は、戦闘第三○一飛行隊分隊長の、関行男大尉を選んだ。

関大尉は、海軍兵学校第七○期生で、昭和18年1月に、練習航空隊教程(艦爆)を卒業してから、霞ヶ浦航空隊、台南航空隊の飛行教官を歴任し、同年9月2日付けで、現職に補任された。
つまり、艦爆から、戦闘機に転進である。

約一ヶ月前に、フィリピン戦線に転進したばかりである。

関大尉は、しばしば、玉井中佐に、戦局に関する所見を申し出て、戦闘への参加を熱心に要求し、中佐に強い印象を与えていた。

玉井中佐は、人選について、第一航空艦隊参謀の、猪口力平中佐に意見を求めた。
猪口も、同意した。

すでに深夜になっていたが、関大尉を呼び、ほどなく士官室に出頭した、関大尉に対し、玉井は、その肩を抱くように、特別攻撃隊の指揮官になって欲しい旨を告げ、大尉の意向を尋ねた。

玉井の言葉は、語尾が震え、最後は、涙ぐんだ。

関大尉の反応は・・・
ちなみに、関大尉には、新婚の妻がいた。

机を前に、椅子に腰掛けた関大尉は、唇を結び、しばらく返事をしなかった。
机を前に座り、両肘を机の上につき、オールバックにした長髪の頭を、両手で支えるようにして、瞑目したまま、一瞬、深い考えに沈んだ。

ごく短い時間だった。
大尉の両手が動き、髪をかき上げたと思うと、静かに顔を上げた。
「是非、私にやらせてください」
少しも淀みなく、明瞭な口調で言った。
その心中を察するのは、無理である・・・

特別攻撃隊24名の人選が、決まった。

猪口参謀は、ただちに、別室で待っていた、大西中将に、報告した。
20日、午前一時過ぎである。

特攻隊は、神風特別攻撃隊、と呼称された。
そして、四隊に区分けされ、それぞれ、敷島、大和、朝日、山櫻と、隊名がつけられた。

敷島の 大和心を 人問はば 朝日に匂ふ 山櫻かな  本居宣長
この歌から、取られたものである。

大西は、20日午前10時、関大尉以下、特別攻撃隊全員を、二○一空本部に集めて、門出の激励と、訓示を行った。
訓示が終わり、隊員の一人一人と、握手を交わす。

この時、大西は、自決する覚悟を決めていた。

神風特別攻撃隊の編制を終えて、20日、マニラの司令部に戻った大西は、前長官寺岡謹平中将との交代を終わり、ここに正式に、一航艦を指揮することになった。

21日、全軍に長官交代の通電を行い、二○一空司令山本大佐対して、正式に、特別攻撃隊の編制を命じた。
一、 二丸一空司令は現有兵力を以って体当たり特別攻撃隊を編制、10月23日までに比島東方海面の敵航空母艦殲滅に任ぜしむべし。
二、 本攻撃隊を神風特別攻撃隊とす。
三、 司令は今後の増強兵力を以ってする特別攻撃隊編制を準備すべし。

大和隊は、編制当日、ただちに、出撃基地である、セブ島に進出した。
また、朝日、山櫻の両隊は、23日、ミンダナオ島、ダバオに進出した。

24日まで、マバラカットにあったのは、指揮官、関行男大尉が直卒する、敷島隊である。

各隊は、次々と出撃し、そのまま、還ることはなかった。

関大尉の敷島隊が、未帰還となったのは、栗田艦隊が、レイテ湾に突入する予定日の、10月25日である。

それでは、ここから、特攻隊について、少し詳しく書くことにする。

特攻攻撃日数、10ヶ月、総出撃機数3461機、うち海軍2367機、陸軍1094機、特攻戦死者総数4379人、うち海軍2535人、陸軍1844人、

与えた損害、艦船沈没26隻以上、損傷368隻、戦死者12281人、負傷者4824人。

マッカーサー元帥の言葉
自殺攻撃の神風パイロットが本格的に姿を現した。この驚くべき出現は、連合国軍の海軍指揮官たちを、かなりの不安に陥れ、連合国軍艦隊の艦船が、至る所で撃破された。空母群は、この危険な神風攻撃の脅威に対抗して、搭載機を自隊を守るために使わねばならなくなったので、レイテの地上部隊を援護することには手が回らなくなってしまった。

今で言えば、自爆テロの形相である。
しかし、基本的に違うことは、自爆テロは、一般人も狙う。

この、神風特攻隊は、あくまで、戦闘員、戦闘態勢にあるもの、軍隊に対してである。

一般市民、兵士でも、戦う力の無い者を、狙うのではない。
立派な戦闘行為である。
これは、明確にしておく、必要がある。




posted by 天山 at 05:44| 玉砕3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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