2015年11月04日

もののあわれについて768

心ばへののどかによくおはしつる君なれば、弟の君達も、まだ末々の若きは、親とのみ頼み聞え給へるに、かう心細う宣ふを、悲しと思はぬ人はなく、殿の内の人も嘆く。朝廷も、惜しみ口惜しがらせ給ふ。かく限りと聞し召して、にはかに権大納言になさせ給へり。喜びに思ひ起こして、今一度も参り給ふやうにもやある、と思し宣はせけれど、さらにえためらひやり給はで、苦しきなかにも、かしこまり申し給ふ。大臣も、かく重き御おぼえを見給ふにつけても、いよいよ悲しうあたらしと思し惑ふ。




人柄が、おうようで、よく出来た方なので、弟の君達の中でも、まだ幼い末の人たちは、まるで、親のように頼りにしていらしたのに、このように、心細くおっしゃるので、悲しいと思わない人はなく、御殿に仕える人も嘆く。
主上も、惜しがり、残念に思う。もう危険だと、お聞きになり、急に、権大納言に任じられた。喜びに元気づけられて、もう一度、参内されることもあろうかと、思いになったが、一向に病気は、よくならず、苦しい中ながら、お礼を申し上げる。
源氏も、このように重い帝のご寵愛を拝するに、ますます悲しく、惜しいと、心が乱れる。




大将の君、常にいと深う思ひ嘆き、とぶらひ聞え給ふ。御喜びにも、まづ参うで給へり。このおはする対のほとり、こなたの御門は、馬車立ちこみ、人騒がしう騒ぎ満ちたり。今年となりては、起き上がる事もをさをさし給はねば、重々しき御様に、乱れながらはえ対面し給はで、思ひつつ弱りぬる事と思ふに、口惜しければ、柏木「なほ、こなたに入らせ給へ。いとらうがはしきさまに侍る罪は、おのづから思し許されなむ」とて、臥し給へる枕上の方に、僧などしばし出だし給ひて、入れ奉り給ふ。




大将の君、夕霧は、いつも大変心配されて、お見舞い申し上げる。
お祝いにも、真っ先に、お出でになった。このお住まいの、対の屋のあたりや、こちらの御門は、馬や車が一杯で、大勢の人が、煩いほどだ。そこらじゅうに、がやがやとしている。今年になり、起き上がることもなくなり、大将の重々しいご様子に対して、乱れた姿では、対面することができずと、思いながら、会えずに、衰弱してしまったらと思うと、残念なので、柏木は、どうぞ、こちらに、お出で下さい。まことに、失礼な格好でおります、罪は、申さずとも、許してくださると思います。と言って、寝ていられる、枕元の所に、僧など、しばらく、外に出して、お入れ申し上げる。




早うより、いささか隔て給ふ事なく、睦びかはし給ふ御仲なれば、別れむことの悲しう恋しかるべき嘆き、親兄弟の御思ひにも劣らず。




幼い頃から、少しも分け隔てなく、仲良くされていた方々であるから、別れては、悲しく、恋しいに決まっている嘆きは、親兄弟の思いに、劣ることはない。




今日は喜びとて、心地よげならましを、と思ふに、いと口惜しうかひ無し。夕霧「などかく、頼もしげ無くはなり給ひける。今日はかかる御喜びに、いささかすくよかにもやとこそ思ひ侍りつれ」とて、几帳のつき引き上げ給へれば、柏木「いと口惜しう、その人にもあらずなりにて侍りや」とて、鳥帽子ばかりおし入れて、少し起き上がらむとし給へど、いと苦しげなり。白き衣どもの、なつかしうなよよかなるをあまた重ねて、衾ひきかけて臥し給へり。おましのあたり物清げに、けはひ香ばしう、心にくくぞ住みなし給うへる。うちとけながら用意ありと見ゆ。重くわづらひたる人は、おのづから髪髭も乱れ、ものむつかしき気配も添ふわざなるを、痩せさらぼひたるしも、いよいよ白うあてなる様して、枕をそば立てて、ものなど聞え給ふ気配、いと弱げに、息も絶えつつ、あはれげなり。




今日は、お祝いで、少しは、体の調子も、よかろうと思っていたが、大変残念で、来た甲斐がない。
夕霧は、どうして、こんなに心細くなったのです。今日は、このような、お祝いゆえ、少しは、元気と思ったのです。と言って、几帳の端を、引き上げなされたので、柏木は、残念なことに、昔の面影もなくなってしまった。と言い、鳥帽子だけを頭にかぶり、少し起き上がろうとされるが、大変苦しそうである。白い着物で、小奇麗に着慣れたものを、何枚も重ねて、その上に、衾をかけて、寝ていらっしゃる。
御座所のあたりは、さっばりとして、いったいに、香が薫り、奥ゆかしい住み方をしている。くつろいで、十分、行き届いている雰囲気である。重病人というものは、いつしか、髪も乱れ、髭をはえて、嫌な感じがするものだが、痩せて衰弱していられるのも、前より、いっそう色白に、上品な感じがして、枕を立てて、話しなどをされる様子は、たいそう弱々しく息も絶え絶えで、見ていて、気の毒なほどである。

あはれげなり
そのまま、あはれげ、でいいが・・・
可哀相である。











posted by 天山 at 06:57| もののあわれ第13弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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