2014年11月29日

伝統について76

泊瀬川 速み早瀬を 掬び上げて 飽かずや妹と 問ひし君はも

はつせかわ はやみはやせを むすびあげて あかずやいもと とひしきみはも

泊瀬川の、早瀬の水を、掬い上げて、飽きることはないか妻よ、と言問いをした、あなたよ。

早瀬の水を、手に掬い、飽きることはないかと、問う、男。
情景が、湧いてくる。
俺に、飽きることはないか・・・

青山の 石垣沼の 水隠りに 恋ひや渡らむ 逢ふ縁を無み

あおやまの いはかきぬまの みごもりに こひやわたらむ あふよしをなみ

青々として、茂る山中の、岩に囲まれた沼の、水が、籠もり、恋い続けるのだろうか。逢う術もないのに。

水が、籠もっているように、思いが、くすぶる。
いつまでも、そんな恋を続けているのだろうか。
片恋の歌である。

しなが鳥 猪名山響に 行く水の 名のみ縁さえし 隠妻はも

しながとり みなやまとよに ゆくみずの なのみよさえし こもりつまはも

しなが鳥が、率いる、猪名山も、轟いて、流れる水のように、評判だけは、煩く立てられて、逢えない妻よ。

噂が、煩いほどに立てられている。
だが、それゆえか、逢えないのである。

吾妹子に わが恋ふらくは 水ならば しがらみ越えて 行くべくそ思ふ

吾妹子に、わが恋するさまを、水でいえば、柵をほとばしり、越えて行くに、違いないと思う。

しがらみを越えて行くほどに、恋しい気持ち。
私の恋は、そのような状態だと歌う。

犬上の 鳥籠の山なる 不知也川 不知とを聞こせ わが名告らすな

いぬがみの とこのやまなる いさやがわ いさとをきこせ わがなのらすな

犬上の、鳥籠の山を流れる、不知也川のように、さあ、知らないとこそ、言ってください。私の名を言わないでください。

人の知れるところになるのを、恐れる万葉人である。

噂が立つことを、最も、怖れた。

奥山の 木の葉隠れて 行く水の 音聞きしより 常忘らえず

おくやまの このはかくれて ゆくみずの おとききしより つねわすらえず

奥山の、木の葉に隠れて、流れる水のように、評判を聞いてから、いつも忘れられないのだ。

音、とは、評判のことである。

漏れ聞いた、評判だけで、恋をする。
想像力が逞しい。

当時の情報は、限りなく、少ないものだろう。
そんな中での、女の評判である。
それだけで、恋になる。

片恋であるが・・・
限りなく、切ない思いを抱くのだ。



posted by 天山 at 07:52| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。