2014年09月19日

もののあわれについて701

尚侍の君の御事も、また漏らすべきならねど、いにしへの事も知り給へれば、源氏「まほにはあらねど物ごしにはつかなりつる対面なむ残りある心地する。いかで人目とがめあるまじくもて隠しては今一度も」と語らひ聞え給ふ。うち笑ひて、紫「今めかしくもなりかへる御有様かな。昔を今に改め加へ給ふほど、中空なる身のため苦しく」とて、さすがに涙ぐみ給へるまみの、いとらうたげに見ゆるに、源氏「かう心安からぬ御けしきこそ苦しけれ。ただおいらかにひきつみなどして教へ給へ。へだてあるべくも慣らはし聞えぬを、思はずにこそなりにける御心なれ」とて、よろづに御心とり給ふほどに、何事もえ残し給はずなりぬめり。




尚侍の君の事も、誰に漏らすべきではないが、昔の事も、ご存知でいられるから、真っ当に源氏は、屏風ごしに、ほんの少しの間、会っただけなので、物足りない気がする。何とかして、人に見咎められぬように、秘密にして、もう一度くらいは、と、お話される。軽く笑い、紫の上は、今風に、若返りされた様子です。昔されたことを、改めて、昔以上になさるのですね。拠り所の無い私は、辛くて、と、それでも、涙ぐみになる、目つきが可愛らしいく見える。源氏は、こんなに機嫌が悪い様子では、辛いことだ。いっそ、あっさり、つねるなりして叱ってください。思うことを言わずにいるようなことのないように、してきたのに、案外なお方になったようです。と、何かとご機嫌をとるうちに、何もかも言わずにいられなくなる様子だ。




宮の御方にもとみにえ渡り給はず。こしらへ聞えつつおはします。
姫宮は何とも思したらぬを、御後見どもぞ安からず聞えける。わづらはしうなど見え給ふ気色ならば、そなたもまして心苦しかるべきを、おいらかに美しきもてあそびぐさに思ひ聞え給へり。




宮様のお部屋にも出ずに、ご機嫌を取っていられる。
姫宮は、何とも思わないが、お世話役連中は、ご心配申し上げる。
うるさい方と思われるような様子なら、紫の上以上に、お気の毒なのだが、おっとりしていて、可愛らしい玩具と思い、申し上げている。

源氏の様子と心境である。




桐壺の御方は、うちはへまかで給はず。御いとまのあり難ければ、心安くならひ給へる若き御心に、いと苦しくのみ思したり。夏ごろ、悩ましくし給ふを、とみにも許し聞え給はねば、いとわりなしと思す。めづらしきさまの御心地にぞありける。まだいとあえかなるおほむ程に、いとゆゆしくぞ、誰も誰も思すらむかし。




桐壺の御方は、ずっと、お里下がりにできずにいられる。お暇が出そうにないので、お気楽が癖になっている、若い方とても、たまらなく思っていられる。
夏のころ、ご気分が優れず、すぐには、お里帰りをお許しされないので、ひどいと、思うのである。おめでたのご様子だったのだ。まだ、ごく弱々しい体つきなので、大変心配に、どなたも、どなたも、思うのである。

めずらしきさま
懐妊の状態である。

桐壺の御方とは、明石の女御である。また、淑景舎、とも言われる。




かろうじてまかで給へり。姫宮のおはしますおとどの東面に、御方はしつらひたり。明石の御方、今は御身に添ひて、出で入り給ふも、あらまほしき御宿世なりかし。




やっとのことで、ご退出された。姫宮がお住まいである、寝殿の東座敷に、お部屋を整えた。明石の御方は、今では、御方に付き添い、参内し、退出されるのも、うらやましいまでの、御運である。

最後は、作者の言葉。




対の上こなたに渡りて、対面し給ふついでに、紫「姫宮にも中の戸あけて聞えむ。かねてよりもさやうに思ひしかど、ついでなきにはつつましきを、かかる折に聞えなれなば、心安くなむあるべき」と、大殿に聞え給へば、うち笑みて、源氏「思ふやうなるべき御語らひにこそはあなれ。いとおさなげにものし給ふめるを、うしろやすく教えなし給へかし」と許し聞え給ふ。
宮よりも明石の君の恥づかしげにてまじらむを思せば、御髪すましひき繕ひておはする。類あらじと見え給へり。




対の上、紫の上が、寝殿にお出でになり、桐壺の御方にお逢いになるついでに、姫宮にも、中の戸を開けて、ご挨拶申し上げましょう。前々から、そのように思いましたが、何も無いのにと、遠慮していました。このような折に、お話しましたら、気が楽になることでしょう。と、申し上げる。にっこりと笑い、源氏が、望みどおり、と申すべきお話し合いです。ほんの子供子供しているが、安心するように、教えて上げてください。と、お許しになる。
宮様以上に、明石の御方との、気の張る対面を考えて、御髪を洗い、身づくろいをしておいでになるお姿は、二人といないと、見える。




おとどは宮の御方に渡り給ひて、源氏「夕方かの対に侍る人の、淑景舎に対面せむとて出で立つそのついでに、近づき聞えさせまほしげにものすめるを、許して、語らひ給へ。心などはいとよき人なり。まだ若々しくて御遊びがたきにもつきなからずなむ」など聞え給ふ。女三「はづかしうこそあらめ。何事をか聞えむ」とおいらかに宣ふ。源氏「人の答へは、ことに従ひてこそは思し出でめ。隔て置きてなもてなし給ひそ」とこまかに教へ聞え給ふ。




源氏は、宮の御殿にお出でになり、夕方、あちらの対におります者が、淑景舎、しげいさ、にお目通りしようと、出て参りますその機会に、お近づきになりたいように、申しておりますが、お許しくださり、お会いになって頂きたい。気立てなどは、大変良い人です。まだ若々しくて、お遊び相手としても、丁度よいでしょう。などと、申し上げる。
女三の宮は、気詰まりでしょう。一体、何をお話しましょうか。と、おっとりとしたお言葉である。源氏は、返事は、あちらの言うことに、自然にお答えができるものです。ご遠慮なく、お相手ください。と、細々と、教え申し上げる。

姫宮が、女三の宮として、文面に出てくる。



posted by 天山 at 07:00| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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