2014年08月04日

伝統について72

笠無みと 人には言ひて 雨障み 留りし君が 姿し思ほゆ

さかなみと ひとにはいひて あまつつみ とまりしきみが すがたしおもほゆ

笠がないからと、他人に言って、雨を避けて留まった君の姿が、思われる。

何のことは無い歌である。
ただ、姿を思うに、すべてがこもる。
その姿を、忘れなれないのである。
恋だ。

妹が門 行き過ぎかねつ ひさかたの 雨も降らぬか そを因にせむ

いもがかど ゆきすぎかねつ ひさかたの あめもふらぬか そをよしにせむ

妻の門の前を、通り過ぎることが出来ない。久方の雨が降って来ないのか。それを口実に、家に入られるのに。

通い婚の時代の、特徴的な歌。
妻の家に入る、口実が欲しい・・・

夕占問ふ わが袖に置く 白露を 君に見せむと 取れば消につつ

ゆふけとふ わがそでにおく しらつゆを きみにみせむと とればけにつつ

夕方の道に、恋占いをしようとして立つ私の、袖に置いた白露を、あなたに見せようと手に取れば、消えてしまった。

当時は、辻占という、道に立ち、人の言葉を聞いて、それを占いとした。
その際に、袖の白露を、相手に見せようと思うが、儚く消えてしまった。
それは、恋の占いの暗示か・・・

恋も儚く、消えるのか。

桜麻の を原の下草 露しあれば 明してい行け 母は知るとも

さくらをの をふのしたくさ つゆしあれば あかしていゆけ はははしるとも

桜麻の、麻原の下草には、露が一面におりている。夜が白んでから、お帰りください。母に知られたとしても。

母に知られてもいいと言う。
つまり、大胆である。
それ程、心に決めた相手なのだ。

当時は、結婚相手を母が認めるか否かが、問題だったのだ。

待ちかねて 内には入らじ 白袴の わが衣手に 露は置きぬとも

まちかねて うちにはいらじ しろたえの わがころもでに つゆはおきぬとも

待ち続けている。家の中には、入らないで。白袴の袖に、露が置かれても。

袖に露が置かれる。そのままで、待ち続けている。
冷たい、露に濡れて待っているのである。

朝露の 消やすきわが身 老いぬとも また若ちかへり 君をし待たむ

あさつゆの けやすきわがみ おいぬとも またをちかへり きみをしまたむ

朝の露のように、消えやすい我が身は、年を取っても、また若返り、あなたを待つのだ。

つまり、永遠に・・・
恋し続ける、心を歌う。

老いたとしても、また、若返り、あなたを待つ・・・
この強い思いが、歌を歌わせる。

言葉に力があることを、信じるのである。

言霊・・・
自然発生的に、そのような考え方を持った日本人である。


posted by 天山 at 05:59| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。