2014年05月25日

伝統について70

ぬばたまの 夜渡る月の 移りなば さらにや妹に わが恋ひ居らむ

ぬばたまの よわたるつきに うつりなば さらにやいもに わがこひをらむ

真っ暗な夜空を渡る月が、移り去ったならば、尚一層、妻を恋しく思うだろう。

とても、謡いやすい歌だ。
私なら、初句、三句、四句、と朗誦することになる。

朽網山 夕居る雲の 薄れ行かば われは恋ひむな 君が目を欲り

くたみやま ゆういるくもの すれゆかば われはこひむな きみがめをほり

くたみ山の、夕べにかかる雲が晴れてゆけば、私は恋しいだろう。あなたに逢いたくて。

君が目を欲り・・・
つまり、あなたを見たい。逢いたい。

君が着る 三笠の山に 居る雲の 立てば継がるる 恋もするかも

かみがきる みかさのやまに いるくもの たてばつがるる こひもするかも

あなたが付ける、御笠、三笠山にかかる雲が、湧いて続くように、募る恋心が深まる。


たてばつがるる・・・
湧き立つと、次々と、雲が続くのである。
そのように、恋心も、続いてゆく。

ひさかたの 天飛ぶ雲に ありてしか 君を相見む おつる日無しに

ひさかたの あまとぶくもに ありてしか きみをあいみむ おつるひなしに

久方の、天を飛ぶ雲でありたい。そうしたならば、あなたに、いつでも逢うことができるもの。

雲にかける歌である。
上記の歌は、すべてそうである。

古代の日本人は、雲ひとつに、思いを託した。
と、すると、自然は、何と輝いていたことだろう。

佐保の内ゆ 嵐の風の 吹きぬれば 還るさ知らに 嘆く夜そ多き

さほのうちゆ あらしのかぜに ふきぬれば かへるさしらに なげくよそおおき

佐保の里内に、嵐が吹きつけるように、噂が立ってしまった。引き返す、潮時も解らず、嘆く夜が多い。

里に噂が広まってしまったのだ。
それで・・・
会いたいのだが・・・

愛しきやし 吹かぬ風ゆえ 玉櫛開けて さ寝にし われそ悔しき

はしきやし ふかぬかぜゆえ たまぐしあけて さいねにし われそくやしき

愛しいことに、風が吹かないからと、玉櫛開けるように、人目をはばからず、寝てしまった、私が悔やまれる。

吹かぬ風・・・
人の噂のこと。
つまり、噂がなくて、安心している。

これは、男の歌である。
複雑な歌である。

妻の下で、寝てしまった。安心して・・・

愛しきやす・・・
愛しい、可愛い、または、可愛そうに・・・



posted by 天山 at 05:24| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。