2014年01月30日

もののあわれについて654

源氏「まめやかにはすきずきしきやうなれど、又もなかめる人の上にて、これこそはことわりの営みなめれと、思ひ給へなしてなむ。いとみにくければ、うとき人はかたはら痛さに、中宮まかでさせ奉りて、と思ひ給ふる。親しき程に慣れ聞え通へど、恥づかしき所の深うおはする宮なれば、何事も世の常にて見せ奉らむ、かたじけなくてなむ」など、聞え給ふ。宮「あえものも、げに必ず思し寄るべき事なりけり」と、ことわり申し給ふ。




源氏は、本当は、こんな薫物合わせは、物好きみたいですが、二人といない、娘のことで、このようにするのが、当然のことと、考えまして。器量もずいぶん悪いので、疎遠な方は、きまり悪く、中宮に、お里帰りしていただいて、と、思っています。中宮には、親しい間柄で、慣れ申し上げておりますが、気のおける点が深くあられる方ですので、何事の用意も、普通一通りで、お目にかけましては、恐れ多くて、などと、申し上げる。
宮は、中宮さまに、あやかるためにも、なる程、いかにも、お考えつきなさるべきことでした、と、ご判断を申し上げる。




このついでに、御方々の合はせ給ふども、おのおの御使して、源氏「この夕暮れのしめりに試みむ」と聞え給へれば、様々をかしうしなして奉れ給へり。源氏「これ分かせ給へ。誰にか見せむ」と、聞え給ひて、御火取ども召して、試みさせ給ふ。宮「知る人にもあらずや」と、卑下し給へど、言ひ知らぬ匂ひどもの進みおくれたる、かう一種などが、いささかの咎を分きて、あながちに劣りまさりのけぢめをおき給ふ。




この機会に、御婦人方の、調合された薫物を、それぞれ、お使いを出して、源氏は、この夕暮れの雨じめりに、試してみよう、と申し上げるので、色々と趣向を凝らして、源氏の元に届けられた。
源氏は、これを判定してください。「誰にか見せむ」と、申し上げて、火取りを幾つか取り寄せ、試みさせる。宮は、「知る人」でもないのに、と、謙遜されるが、何とも言いようのない香の中で、匂いの立ちすぎたものや、立たない香が、一種くらいはあるもの。その少しの欠点を、判定して、強いて、優劣の区別をつけられる。

誰かに見せむ
古今から
君ならで 誰にか見せむ 梅の花 色をも香をも 知る人ぞ知る
紀貫之





かのわが御二種のは、今ぞ取う出させ給ふ。右近の陣の御溝水のほとりに准へて、西の渡殿の下より出づる、みぎは近う埋ませ給へるを、惟光の宰相の子の兵衛の尉、堀りて参れり。宰相の中将取りて伝へ参らせ給ふ。宮「いと苦しき判者にもあたりて侍るかな。いとけぶたしや」と、悩み給ふ。同じうこそは、いづくにも散りつつ広ごるべかめるを、人々の心心に合はせ給へる、深さ浅さをかぎ合はせ給へるに、いと興ある事多かり。




あの、ご自分の二種の香は、いよいよ今、持ち出される。右近の陣の、御溝水の辺りに、埋める例に習い、西の渡殿の下から出ている、遣水の岸辺近くに、埋めさせたのを、惟光の息子の兵衛の尉が、掘って、持って来た。宰相の中将、夕霧が受け取り、御前に差し上げる。
宮は、まことに、辛い審判に任命されたものです。煙たくて、苦しいことと、困る。同じ調合法が、何処へも、ぽつぽつと散らばって伝わっているはずだが、人々が、思い思いに、調合された匂いの、深さ浅さを、色々聞き比べてみると、大変興味深いことが多い。




さらに何れともなき中に、斎院の御黒方、さ言へども、心にくく静やかなる匂ひことなり、侍従は、大臣の御は、すぐれてなまめかしう懐しき香なり、と定め給ふ。対の上の御は、三種ある中に、梅花華やかに今めかしう、少しとき心しらひを添へて、珍しきかをり加はれり。「この頃の風に類へむには、さらにこれにまさる匂ひあらじ」と、めで給ふ。




どれとは、言えない香の中で、斎院の黒方が、あのように言っても、奥ゆかしく、落ち着いた匂いが、格別である。侍従の香は、大臣のが、優れて艶やかで、やさしい匂いである。と、判定になった。
対の上の香は、三種類ある中で、梅花が、ぱっと明るく、新しい感じがあり、少しの鋭い工夫も加えてあり、珍しい匂いが入っている。
宮は、今頃の風に香らせるのは、決してもう、梅花以上の匂いはないでしょうと、誉められる。




夏の御方には、人々の香、心心にいどみ給ふなる中に、数々にも立ち出でずや、と、煙をさへ思ひ消え給へる御心にて、ただ荷葉を一種合はせ給へり。様変はりしめやかなる香して、あはれになつかし。冬の御方にも、時々によれる匂ひの定まれるに、消たれむもあいなし、と思して、薫衣香の方のすぐれたるは、さきの朱雀院のを移させ給ひて、公忠の朝臣のことに選び仕うまつれりし百歩の方など思こえて、世に似ずなまめかしさを取り集めたる、心おきてすぐれたり、と、いづれをも無徳ならず定め給ふを、源氏「心ぎたなき判者なめり」と、聞え給ふ。




夏の御方には、ご婦人方の香が、思い思いに競争している中では、人並みにも、ならないかと、煙さえも考えず、引っ込み思案の性格で、ただ、蓮の葉を一種類合わせられた。趣が変わった、しんみりとした、匂いがして、しみじみと、やさしい感じである。
冬の御方も、季節季節に基づいた香が、定まっているので、冬ゆえに、負けてしまっても、つまらないと、薫衣香の調合法の優秀なのは、前の朱雀院から学ばれて、公忠朝臣が、特に選んで、ご奉仕した百歩の方などを考え付いて、またとないほど、優雅なものを、調合した。その考案が優秀だと、どれも、取り得の無いものはないように、判定されるのを、源氏は、タチの悪い審判ですね、と、申し上げる。

つまり、宮の判定が、八方美人的だと、源氏が言うのである。

あはれになつかし
そのまま、受け取る方が、いい。
しみじみとして、懐かしさを感じる・・・
ような、気分なのである。




posted by 天山 at 17:40| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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