2014年01月20日

もののあわれについて653

沈の箱に、瑠璃の杯二つすえて、大きにまろがしつつ入れ給へり。心葉、紺瑠璃には五葉の枝、白きには梅を選りて、同じく引き結びたる糸の様も、なよびかになまめかしうぞし給へる。宮「えんなるものの様かな」とて、御目とどめ給へるに、

前斎院
花の香は 散りにし枝に とまらねど 移らむ袖に 浅く染まめや

ほのかなるを御覧じつけて、宮はことごとしう誦し給ふ。宰相の中将、御使尋ねとどめさせ給ひて、いたう酔はし給ふ。紅梅襲の唐の細長添へたる女の装束かづけ給ふ。御返りもその色の紙にて、お前の花を折らせてつけさせ給ふ。宮、「うちの事思ひやらるる御文かな。何事の隠ろへあるにか、深く隠し給ふ」と恨みて、いとゆかしと思したり。源氏「何事かは侍らむ。くまぐましく思したるこそ苦しけれ」とて、御硯のついでに、

源氏
花の枝に いとど心を 染むるかな 人の咎めむ 香をば包めど

とやありつらむ。




沈香木製の箱に、瑠璃の香壺を二つ置いて、大きく丸めて、入れてある。糸飾りは、紺色の瑠璃の壺には、五葉松の枝、白い壺には、白梅を彫って、同じような糸の結び方でも、優しく女性的に作られていた。
宮は、優雅な出来栄えです。と、おっしゃり、御目を、じっと留められると、

前斎院
散ってしまった、梅の花の枝には、香りは、留まりませんが、たきしめる姫君の袖には、深く残ります。

薄墨であるのを見つけて、宮は、わざとらしく、口ずさむ。宰相の中将は、お使い者を探し出して、引きとめ、十分に酒を振舞う。紅梅襲の唐織物の細長を添えた、女の装束一揃えを、お与えになる。
ご返事も、その紅梅色の色紙で、庭先の紅梅の花を折らせて、お付けになった。宮は、中味が気になるお手紙ですね。どんなことが書かれているのか、深く隠していますと、恨んで、酷く見たがっている。
源氏は、何事がありましょう。隠しているように思われるのが、迷惑です。と、おっしゃり、お筆のついでに、

源氏
一が、咎めることがあってはと、隠していますが、美しい花の枝のお便りには、ひとしお心を惹かれました。

と、あったような・・・

最後は、作者の言葉。

今回は、上記の文を、分析してみることにする。
源氏物語が、如何に、難しいか・・・いや、滅茶苦茶なのか・・・

まず、登場人物である。
源氏、宮とは、兵部卿の宮、宰相の中将とは、夕霧である。
そして、手紙は、前斎院の、朝顔。
その使者であり、最後が、作者である。
書かれていないが、お付の者どももいる。

手紙と共に、香が、前斎院の朝顔から、贈られてきた。
その様を、書き記す。

なよびかになまめかしうぞ・・・
優美で、女性的で・・・
それが、朝顔の贈ってきた、香の様子である。

更に、歌が添えてある。
花の香は 散りにし枝に とまらねど 移らむ袖に 浅く染まめや
はなのかは ちりにしえだに とまらねど うつらむそでに あさくそまめや

花の香りは、枝枝に散って、留まらないが、焚き染める姫君の袖には、染まります。

それに対して、兵部卿の宮が、
ほのかなるを御覧じつけて・・・ことごとしう誦し給ふ、のである。
その歌を、口に出して、読むのである。

そして、夕霧が、使いの者に、
尋ねとどめさせ給ひて・・・

誰かと、探して・・・
いたう酔はし給ふ。のである。
つまり、酒を振舞い、いたく酔わせた、のである。

源氏は、その手紙の返事に、庭の花を折らせて、硯を取る。つまり、筆を取る。

その際に、源氏は、宮に隠すように書くので、宮が、恨みを言う。

源氏の歌は、
花の枝に いとど心を 染むるかな 人の咎めむ 香をば包めど
はなのえに いとどこころを しむるかな ひとのとがめむ かをばつつめど

はなのえ、とは、朝顔が贈った、梅の枝を受けて、贈り主の朝顔を指す。
香は、朝顔に対する、源氏の、慕情である。

そして、最後に、作者が、
とや ありつらむ

そのようでした。
そのように、あったようです、と、説明を付けている。

物語なので、わざわざ書く必要がないが、そのように聞いたのです、の調子である。

と、いうように、とても、難解な、物語、つまり、書き方が定まっていない時代の、小説なのである。

だが・・・
面白い。
物語、書き物の、価値は、面白いか、否か、である。
 



posted by 天山 at 03:29| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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