2014年01月19日

もののあわれについて652

梅枝 うめがえ

御裳着の事思し急ぐ御心おきて、世の常ならず。東宮も、同じ二月に、御冠の事あるべければ、やがて御参りもうち続くべきにや。




明石の姫君の、御裳着の事を、準備されるご配慮は、並々ではない。東宮も、同じ二月に、御元服の式があるはずなので、そのまま、御参内の事も、引き続いている。




正月のつごもりなれば、おほやけわたくしのどやかなる頃ほひに、薫物合はせ給ふ。大弐の奉れる香ども御覧ずるに、なほ古へのには劣りてやあらむと思して、二条の院の御倉開けさせ給ひて、唐の物ども取り渡らせ給ひて御覧じ比ぶるに、源氏「錦綾なども、なほ古き物こそなつかしう細やかにはありけれ」とて、近き御しつらひの物の覆、敷物、褥などの端どもに、故院の御世の初めつ方、高麗人の奉れりける綾緋金錦どもなど、今の世の物に似ず、なほ様々御覧じあてつつせさせ給ひて、この度の綾うすものなどは人々に賜はす。




正月の行事が、一通り終わり、月末なので、公私共に、お暇な時に、薫物を調合される。太宰の大弐が献上した、香などを御覧になると、矢張り昔の香には劣っているであろうかと、二条の院の倉を開けさせて、唐の渡来の品々を色々取り出して、持って来させ、見比べると、源氏は、綾錦などでも、矢張り、昔の物の方が、親しみもあり、上等であった、と、おっしゃり、お傍の道具類のカバーや、敷物、座布団などの縁といった物に、亡き上皇治世の初めのころに、高麗人が献上した緋金錦など、近頃の物には似ないで、それぞれ、適当な物を、あれこれと、鑑定して、矢張り使われ、今度の、大弐が献上した綾羅などは、女房達に御下賜になる。




香どもは、昔今の取り並べさせ給ひて、御方々に配り奉らせ給ふ。源氏「二種づつ合はせさせ給へ」と、聞えさせ給へり。贈り物、上達部の禄など世になき様に、内にも外にもこと繁く営み給ふに添へて、方々に選り整えて、かな臼の音、耳かしがましき頃なり。




数々の香は、昔の物や、今の物を、目の前に取り揃えて、ご婦人方に、お配りする。源氏は、二種類ずつ香を作ってください。と、申し上げる。裳着の時の、贈り物、上達部への、禄の品物など、またとないほど結構で、六条の院の内でも、外でも、忙しく作られる。更に、あちこちのご婦人方のところでも、材料を選び、準備して、鉄臼の音が、喧しく聞える、この頃です。




大臣は寝殿に離れおはしまして、承知の御いましめの二つの方を、いかでか御耳には伝へ給ひけむ、心にしめて合はせ給ふ。上は、東の中のはなちいでに、御しつらひ、ことに深うしなさせ給ひて、八条の式部卿の御方を伝へて、かたみにいどみ合はせ給ふ程、いみじう秘し給へば、源氏「匂ひの深さ浅さも、勝ち負けの定めあるべし」と、大臣宣ふ。人の御親げなき御争ひ心なり。




大臣、源氏は、寝殿に、紫の上と離れて、御座所を構え、仁明天皇御櫃秘伝の二つの調合方を、どうして耳にされたのか、熱心に作られる。
紫の上は、東の対のお部屋で、設備を厳重に整え、仁明天皇の八条指式部卿の御秘法を伝えて、互いに競争して、調合されている間、酷く秘密にしているので、源氏は、匂いの深さ浅さも、二人の間で、勝負を決めようと、おっしゃった。子を持つ親御らしくない、競争心である。




いづ方にも、御前に侍ふ人あまたならず、御調度どもも、そこらの清らを尽くし給へる中にも、香ごの御箱どものやう、火取の心ばへも、目なれぬ様に、今めかしう、やう変へさせ給へるに、所々の心を尽くし給へらむ匂ひどもの、すぐれたらむどもを、かぎ合はせて入れむと思すなりけり。




殿様も奥方もどちらも、お傍に控える女房は多くなく、お道具の品々も、多く善美を尽くし、特に、香壺を入れるお箱の作り方、香壺の恰好、香炉の意匠といった物も、見慣れたものではなく、今風で、趣向を変えてお作りになったが、御婦人方が、一生懸命に御苦心されている、香の中で、優秀な物の幾種かを、一度聞いてみた上で、香壺に入れようと思うのである。




二月の十日、雨少し降りて、お前近き紅梅盛りに、色も香も似る物なき程に、兵部卿の宮渡り給へり。兵部卿「御いそぎの今日明日になりにけること」と、とぶらひ聞え給ふ。昔よりとり分きたる御仲なれば、隔てなく、その事かの事と聞え合はせ給ひて、花をめでつつおはする程に、前斎院より、とて、散り過ぎたる梅の枝につけたる御文もと参れり。宮、聞し召す事もあれば、宮「いかなる御消息のすすみ参れるにか」とて、をかしと思したれば、ほほえみて、源氏「いとなれなれしき事聞えつけたりしを、まめやかに急ぎものし給へるなめり」とて、御文は引き隠し給ひつ。




きさらぎの十日、雨が少し降って、庭先の紅梅が花盛りで、紅の色も、香りも、またとない時分に、兵部卿の宮がお見えになった。宮は、御裳着の支度が、一両日の中に迫り、お忙しいでしょう、と、お伺い申し上げる。
昔から、特に仲の良い御二人の間柄なので、隠し隔てなく、何かのことにつけて、ご相談されて、梅の花を観賞なさっているところへ、前斎院からといって、花がわずかに残る、梅の枝につけたお手紙を持って来た。
宮は、お耳にされていることもあり、どのような手紙が、あちらから参ったのでしょうか、といって、面白がる。微笑んで源氏は、たいそう無遠慮なことを、お願いしたのですが、几帳面に、早速お作りになったのでしょう。と、おっしゃり、お手紙を隠された。



posted by 天山 at 05:29| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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