2013年12月25日

もののあわれについて648

月の明きに、御容貌はいふ由なく清らにて、ただかの大臣の御気色に違ふ所なくおはします。かかる人はまたもおはしけり、と見奉り給ふ。かの御心ばへは浅からぬも、うたて、物思ひ加はりしを、これはなどかはさしも覚えさせ給はむ。いと懐かしげに、思ひし事の違ひ恨みを宣するに、面おかむ方なくぞ覚え給ふや。顔をもて隠して、御答へも聞え給はねば、帝「あやしうおぼつかなきわざかな。喜びなども、思ひ知り給はむと思ふ事あるを、聞き入れ給はぬ様にのみあるは、かかる御癖なりけり」と宣はせて、


などてかく はひあひがたき 紫を 心に深く 思ひ染めけむ

濃くなり果つまじきにや」と仰せらるる様、いと若く清らにはづかしきを、違ひ給へる所やはある、と思ひ慰めて聞え給ふ。宮仕への労もなくて、今年加階し給へる心にや。




月が明るくなり、お顔は、何ともいえぬほどに、綺麗で、そのまま源氏の大臣のご様子に、そっくりであらせられる。
こんな方が、二人もいらっしゃるのだ、と拝する。大臣のご寵愛は、浅くは無く、嫌な思いをさせられたが、こちらのお方には、どうしてそのように、思い上げよう。大変に優しく、そのつもりでいたことが、うまく運ばなかったこと、恨み言を仰せられるので、顔のやり場なく、扇で隠して、お返事も申し上げないので、帝は妙に黙っていらっしゃる。叙位などで、私の気持ちは、解ってくださると、思っていたのに、問題にされない風でいらっしゃるのは、そういう癖なのですね、と、おっしゃり


どうして、こんなに一緒になりにくい、あなたを、深く心に思い染めて、しまったのだろう。

これ以上に、酷なことは、もうないのでしょうか。と、仰せられるご様子は、若々しく、美しく、きまりが悪いほどだが、大臣と同じでいられる心を静めて、お返事をされる。宮仕えの功績もないのに、今年は、位を賜ったお礼の、つもりなのだろうか。

紫は、三位の位に当たる。
玉葛は、位を賜ったのである。
最後は、作者の言葉で、お礼の、つもりで、答えたのかと、言う。




玉葛
いかならむ 色とも知らぬ 紫を 心してこそ 人は染めけれ

今よりなむ思ふ給へ知るべき」と聞え給へば、うち笑みて、帝「その今より染め給はむこそかひなかべい事なれ、憂ふべき人あらば、ことわり聞かまほしくなむ」と、いたう恨みさせ給ふ御気色の、まめやかに煩はしければ、いとうたてもあるかなと覚えて、「をかしき様をも見え奉らじ。むつかしき世の癖なりけり」と思ふに、まめだちて侍ひ給へば、え思す様なる乱れ事もうち出でさせ給はで、やうやうこそは目なれめ、と思しけり。




玉葛
どのような色かとは、知りませんでした。この紫色は、あなた様の特別の思し召しで、下さったのですね。

只今から、ご恩に感謝致します。と、申し上げると、微笑んで、そうして、今から染めようとされるのでは、何の役にも立たないでしょう。聞いてくれる人がいるなら、判断を聞きたいもの、と酷く恨みになるご様子が、本当に困るので、とても嫌なことだと思い、愛想の良い態度を見せまい。男の方の困った癖だと、思うもので、真面目に控えていられる。思い通りの冗談も口にされず、だんだんと親しくなろうと、思し召した。

やうやうこそは目なれめ
これは、帝の思いだ。
玉葛が、生真面目にしているので、だんだんと、親しくなろうと、帝が考えた。




大将はかく渡らせ給へるを聞き給ひて、いとど静心なければ、急ぎ惑はし給ふ。自らも、似げなき事も出で来ぬべき身なりけりと心憂きに、えのどめ給はず、まかでさせ給ふべき様、つきづきしきことつけども作り出でて、父大臣など、賢くたばかり給ひてなむ、御暇許され給ひける。主上「さらば。物懲りしてまた出だしたてぬ人もぞある。いとこそ辛けれ。人より先に進みにし心ざしの、人に後れて、気色とり従ふよ。昔の某が例も引き出でつべき心地なむする」とて、まことにいと口惜しと思し召したり。




大将は、このように、主上が渡りあそばしたことを聞いて、いよいよ、気が気でなく、退出をむやみに急がせる。ご自身でも、似つかわしくないことが起こりそうな形勢の、我が身と、情けなく、落ち着いていられない。退出させる、もっともらしい口実を作り出して、父の内大臣などが、うまく取り繕い、やっと、退出を許された。
主上は、それでは、これに懲りて、二度と参内させない人があっては、困る。酷く辛い。誰よりも、先にあなたを思ったのに、人に先を越されて、その人のご機嫌をとるとは。昔の誰かの例を、持ち出したい気がする、と、心底から、残念に思いあそばす。




聞し召ししにもこよなき近まさりを、初めよりさる御心なからむにてだにも、御覧じ過ぐすまじきを、まいていと妬う飽かず思さるれど、ひたぶるに浅き方に思ひ疎まれじとて、いみじう心深き様に宣ひ契りてなつけ給ふもかたじけなう、我は我と思ふものをと思す。御て車寄せて、こなたかなたの御かしづき人ども心もとながり、大将もいとものむつかしう立ち添ひ騒ぎ給ふまで、えおはしまし離れず。主上「かういと厳しき近き守りこそむつかしけれ」と憎ませ給ふ。

主上
九重に 霞隔てば 梅の花 ただ香ばかりも 匂ひ来じとや

ことなる事なきことなれども、御有様けはひを見奉る程は、をかしくもやありけむ。「野をなつかしみ明いつべき夜を、惜しむべかめる人も、身をつみて心苦しうなむ、いかでか聞ゆべき」と思し悩むも、いとかたじけなしと見奉る。

玉葛
香ばかりは 風にもつてよ 花の枝に 立ち並ぶべき 匂ひなくとも

さすがにかけ離れぬ気配を、あはれと思しつつ、返り見がちにて渡らせ給ひぬ。




かねて、お耳にあそばしたよりも、傍では、遥かに美しかったので、初めから、そのような気持ちが無かったとしても、とても見逃すことはないだろう。それどころか、妬けて癪でたまらない思いがあるが、浅はかな者と嫌がられまいと、心をこめてお約束になり、優しくしてくださるのも、恐れ多く、夢路に迷う我が身と、思う。
御車を寄せて、あちらこちらのお供の人々が、待ち通しそうに、大将も、うるさいほど、お傍を離れず、急がせするので、離れあそばされずにいらっしゃる。
主上は、こんな厳重な傍を離れない見張りは、不愉快だ、と憎みあそばす。

主上
幾重にも、霞が隔てたならば、梅の花は、香りさえも、匂って来ないだろう。

何ということのない歌であるが、主上のお顔や、ご様子を拝している時なので、結構に思ったことでしょう。主上は、野が懐かしさに、このままで、夜明けを待ちたいが、夜を惜しんでいる人も、身につまされて、気の毒だ。どうやって、お手紙を差し上げようか、と思い悩んでいらっしゃるのも、もったいないと、拝する。

玉葛
香りばかりは、風にでも事告げて、下さいませ。美しい方々と並ぶことの出来る、身ではありませんが。

さすがに、離れる、切れるというでもない様子で、可愛いと、思し召し、振り返りつつ、お帰りあそばした。

あはれと思しつつ
この場合は、愛しい、可愛い・・・

三人称的書き方もあり、文章としては、実に面倒である。




posted by 天山 at 05:01| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。