2013年12月24日

もののあわれについて647

承香殿の東面に御局したり。西に宮の女御おはしければ、馬道ばかりの隔てなるに、御心のうちは遥かに隔たりけむかし。御方々いづれとなくいどみ交し給ひて、内わたり心にくくをかしき頃ほひなり。ことにみだりがはしき更衣達あまたも侍ひ給はず、中宮、弘微殿の女御、この宮の女御、左の大殿の女御など侍ひ給ふ。さては中納言の御女、二人ばかりぞ侍ひ給ひける。




承香殿の東側を、お局にしてあった。
西側には式部卿の宮の、女御がいらしたので、馬道だけの隔てだが、御心中は、ずっと遠くに隔たっていたことだろう。どの方も、お互いに、競争し合って、御所の中は、何かと奥ゆかしく、趣のある時分である。
取り立てて、ごたごたする更衣たちは、多くもいず、中宮、弘微殿の女御、この宮の女御、左大臣の女御などが、お仕えしている。
そのほかには、中納言と宰相の御娘二人ほどが、お仕えしていられる。

中宮とは、秋好む中宮である。
弘微殿の、女御とは、内大臣の娘。




踏歌は、方々に里人参り、様異にけに賑ははしき見物なれば、誰も誰も清らを尽くし、袖口の重なりこちたくめでたく整へ給ふ。東宮の女御も、いと華やかにもてなし給ひて、宮はまだ若くおはしませど、すべていと今めかし。御前、中宮の御方、朱雀院との参りて、夜いたう更けにければ、六条の院には、この度は所せしと省き給ふ。朱雀院より帰り参りて、東宮の御方々めぐる程に夜明けぬ。




踏歌には、局々に里から、家族が参上して来て、普段とは違い、格別に賑やかな見物なので、どの方も、どの方も、綺羅を尽くして、袖口の重なりも仰々しく、立派に、用意される。東宮の女御も、たいそう華やかになさり、東宮は、まだ若いが、あらゆる点で、現代的である。
主上の御前、そして中宮の御方、朱雀院という順番で参って、夜も深く更け、六条の院には、今度は、たいそうだからと、省略される。
朱雀院から帰り、東宮の御方々の局を廻るうちに、夜が明けた。




ほのぼのとをかしき朝ぼらけに、いたく酔ひ乱れたる様して、竹河謡ひける程を見れば、内の大殿の君達は、四五人ばかり、殿上人の中に声すぐれ、容貌清げにて打ち続き給へる、いとめでたし。童なる八郎君は、むかひ腹にて、いみじうかしづき給ふが、いと美しうて、大将殿の太郎君と立ち並びたるを、尚侍の君もよそ人と見給はねば、御目とまりけり。やむごとなく交らひ慣れ給へる御方々よりも、この御局の袖口、大方の気配今めかしう、同じ物の色合ひ重なりなれど、ものよりことに華やかなり。正身も女房達も、かやうに御心やりてしばしは過ぐい給はましと思ひ合へり。皆同じごとかづけ渡す中に、錦の様もにほひことに、らうらうじうしない給ひて、こなたは水馬なりけれど、気配賑ははしく、人々心げさうしそして、限りある御饗などの事どももしたる様、殊に用意ありてなむ、大将殿せさせ給へりける。




ほんのりと、白んで、趣ある夜明けに、酷く酔った様子で、竹河を謡うところを見ると、内大臣の君達が、四も五人ほど、殿上人の中で、特に声がよく、器量も美しく、並ぶところは、本当に、素晴らしい。
童姿の八郎君は、嫡子で、とても大事にしていて、とても可愛らしく、大将殿の長男と並んで立つのを、尚侍の君、玉葛も他人とは思わないゆえ、目が留まった。
身分が高くて、宮仕えをしなれた方々よりも、こちらの局の、袖口や全体の感じが、何となく現代的で、他と同じ色合い、重ね具合だが、普段よりも、ひときわ華やかな感じである。ご自分も、女房達も、こうして気晴らしをして、暫くいたいものだと、お互いに思うのである。どこでも、同じように、お与えになるのだが、中でも、錦の色艶も格別で、品のあるされ方で、こちらは、水馬であるが、何となく感じが賑やかで、女房達は、特別な心遣いをして、しきたり通りの、ご馳走などを用意してある様子は、特別の注意が払われて、こうしたことは、大将殿が、させたことだった。

水馬とは、湯漬けに、酒を出す、簡略なもてなしの場所。




宿直所に居給ひて、日一日聞え暮らし給ふことは、大将「夜さりまかでさせ奉りてむ。かかるついでにと思し移るらむ御宮仕へなむ、安からぬ」とのみ、同じ事を責め聞え給へど、御返りなし。侍ふ人々ぞ、「大臣の、心あわただしき程ならで、まれまれの御参りなれば、御心ゆかせ給ふばかり、許されありてをまかでさせ給へ、と聞えさせ給ひしかば、今宵はあまりすがすがしうや」と聞えたるを、いと辛しと思ひて、大将「さばかり聞えしものを、さも心にかなはぬ世かな」とうち嘆きて居給へり。




宿直所にお出でになり、大将が一日中、おっしゃることは、暗くなったら、退出させよう。こういう折に、宮仕えをしようと気が変わられては、たまらないからとばかりに、同じ言を繰り返して、矢の催促をするのだが、返事は無い。
お傍の女房達は、大臣が、急いで退出するような真似をせず、ほんの少しの、御参内なのだから、主上が、十分満足していただき、お許しを戴いて、退出なさい、とおっしゃるので、今夜というのは、あっさり過ぎませんか、と、申し上げるのを、大将は、酷く辛いと思い、あれほど、申し上げたのに、思い通りにならない方だと嘆いている。




兵部卿の宮、御前の御遊びに侍ひ給ひて、しづ心なく、この御局のあたり思ひやられ給へば、念じ余りて聞え給へり。大将はつかさの御曹司にぞおはしける。それよりとて取り入れたれば、しぶしぶに見給ふ。

兵部卿
深山木に 羽うち交し いる鳥の またなくねたき 春にもあるかな

囀る声も耳とどめられてなむ」とあり。いとほしう面赤みて、聞えむ方なく思ひ居給へるに、上渡らせ給ふ。




兵部卿の宮は、御前の管弦の御遊びにいらしたが、気が落ち着かず、この君の、お局の方角が気になって、たまらない。とうとう辛抱できず、お手紙を差し上げた。大将は、近衛府にいらした。近衛からと、女房が取り次いだので、いやいやながら、御覧になる。

兵部卿
奥山の木に、羽を打ち交わして止まる、鳥のように仲が良いので、またとなく、嫉ましい春です。

鳥の鳴き声も、耳について、気になります。と、ある。
申しわけない思いで、顔が赤くなり、なんとも、返事のしようがないところへ、主上が、お出であそばした。

つかさ、とは、右近衛府。
宿直所も、ここを言う。



posted by 天山 at 06:34| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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