2013年11月15日

もののあわれについて646

宮「何か。ただ時に移る心の、今初めて変はり給ふにもあらず。年頃思ひ浮かれ給ふ様聞き渡りても久しくなりぬるを、何処をまた思ひ直るべき折りとか待たむ。いとどひがひがしき様にのみこそ見えはて給はめ」と諌め申し給ふ、ことわりなり。大将「いと若々しき心地もし侍るかな。思ほし捨つまじき人々も侍ればと、のどかに思ひ侍りける心の怠りを、返す返す聞えてもやる方なし。今はただなだらかに御覧じ許して、罪さり所なう、世の人にもことわらせてこそ、かやうにももてない給はめ」など、聞えわづらひておはす。姫君をだに見奉らむと聞え給へれど、出し奉るべくもあらず。男君達、十なるは殿上し給ふ。いと美し。人に誉められて、容貌などようはあらねど、いとらうらうじう、物の心やうやう知り給へり。次の君は、八つばかりにて、いとらうたげに、姫君にもおぼえたれば、かき撫でつつ、「あこをこそは、恋しき御形見にも見るべかめれ」など、うち泣きて語らひ給ふ。宮にも御気色賜はらせ給へど、「風起こりてためらひ侍る程にて」とあれば、はしたなくて出で給ひぬ。




宮は、なに、すぐに時勢に乗る心で、心変わりも、今に始まったことではない。昨年以来、うつつを抜かしているとの、噂を耳にして、長いことになるが、元通り、心を改める時を、待つと。益々、悪い一方とばかり思われて、一生を終わることになろう。と、北の方を止められる。無理もないこと。
大将は、大人気ないことです。見捨てるはずのない子供達もいることだから、と、暢気に構えていた私の至らなさを、何度、お詫びしてみても、仕方ないこと。こうなっては、ただ、お心広く、大目に見てくださり、罪は私にあるのだと、世間の人にも解らせた上で、こういう処置をされるがいい。など、言う言葉も、苦労する。せめて、姫君だけにでも、会いたいと申し上げるが、御簾の外に出すはずもない。
男君たちで、十歳になるのは、童殿上している。とても可愛らしい。評判がよくて、容貌など良くないが、大変利口で、だいぶ訳がわかるようになっている。次の子は、八歳くらいで、とてもあどけなく、姫君にも似ているので、頭を撫でながら、大将は、お前を恋しい姫君の形見に見ることに、など、涙を流しながら、お話になる。
宮にも、ご内意を伺うが、風邪ぎみで、静養しておりますので、という、言い方で、きまりの悪い思いで、出られた。

風起こりて
風病のこと。神経系の疾患。

はしたなくて
手持ち無沙汰で・・・
恰好がつかないなどの意味。




小君達をば車に乗せて、語らひおはす。六条殿には、え率ておはせねば、殿にとどめて、大将「なほここにあれ。来て見むにも心安かるべく」と宣ふ。うち眺めて、いと心細げに見送りたる様ども、いとあはれなるに、物思ひ加はりぬる心地すれど、女君の御様の見るかひありめでたきに、ひがひがしき御様を思ひ比ぶるにもこよなくて、よろづを慰め給ふ。うち絶えておとづれもせず、はしたなかりしにことつけ顔なるを、宮にはいみじうめざましがり嘆き給ふ。春の上も聞き給ひて、紫の上「ここにさへ恨みらるるゆえなるが苦しきこと」と嘆き給ふを、大臣の君は、いとほしと思して、「難き事なり。おのが心一つにもあらぬ人のゆかりに、内にも心置きたる様に思したなり。兵部卿の宮なども怨じ給ふと聞きしを、さいへど、思ひやり深うおはする人にて、聞きあきらめ恨み解け給ひにたなり。おのづから人の中らひは、忍ぶる事と思へど、隠れなきものなれば、しか思ふべき罪もなしとなむ思ひ侍る」と宣ふ。




男の子たちを、車に乗せて、お話しながらお出でになる。六条殿には、連れて行けないので、邸に残し、大将は、今まで通りに、ここにいなさい。会いに来るのも気が楽だから。と、おっしゃる。ぼんやりと、心細げに見送る二人が、いじらしく、心配事が、また増えた気持ちがする。女君の、お姿が見るに価値あり、立派なので、北の方の、気違いじみた様子と比べると、話にもならないことで、全ての苦労が、癒される。
その後は、さっばり便りもせず、先日無愛想だったことを、よい口実にしている様子なので、宮は、酷く呆れた人だと、嘆いているのを、春の上も耳にされて、私までが、恨まれる元になるのが、辛い、と嘆くのを、大臣の君は、気の毒に思い、難しいことだ。私の一存だけでは、どうする事も出来ない人の事で、主上におかれても、拘りを持たれているようだし、兵部卿の宮なども、恨んでいると聞いたが、そうはいっても、思慮の深い方で、事情を聞いて、解ってくださり、了解してくださったようだ。男女のことは、秘密にしていることでも、いつしか、事情は、解ってしまうものだ。そんなに、気にするほど、間違いはないと、思います、とおっしゃる。

ここでの、女君は、玉葛のこと。
この文の、登場人物は、小君達、大将、玉葛、兵部卿の宮、北の方、紫の上、大臣の君とは、源氏である。
それぞれの、文が、誰のことを言うのか・・・
混乱する。




かかる事どもの騒ぎに、尚侍の君の御気色いよいよ晴れ間なきを、大将はいとほしと思ひあつかひ聞えて、この参り給はむとありし事も絶え切れて、防げ聞えつるを、内にも、なめく心ある様に聞し召し、人々も思す所あらむ、おほやけ人を頼みたる人はなくやはある、と思ひ返して、年寄りて参らせ奉り給ふ。男踏歌ありければ、やがてその程に、儀式いとめかしう二なくて参り給ふ。方々の大臣達、この大将の御勢ひさへさしあひ、宰相の中将、ねんごろに心しらひ聞え給ふ。兄の君達も、かかる折りにとつ集ひ、追従し寄りて、かしづき給ふ様いとめでたし。




このような、あれこれの事件の騒動で、尚侍の君、玉葛の様子は、いよいよ晴れる時もないので、大将は、お気の毒に思い、心配して、尚侍が、参内するはずだった予定も、あれっきり、立ち消えになり、自分が参内に反対したのを、主上も快く思わず、何か含むところのあるように、話を聞いて、思し召すようだし、大臣達も、考えるところがあろう。宮中奉仕を妻にしている男も、なくはない。と、考え直して、新年に参内させるのである。
男踏歌があったので、ちょうど、その折に、儀式の威儀を、この上なく整えて、参内される。お二方の大臣に、この大将の御威勢まで加わり、宰相の中将、夕霧は、熱心に気を配るのである。兄弟達も、こういう機会にと集い、皆々、ご機嫌をとり、大事にされる様子は、とても立派である。

玉葛に対する、皆々の様子である。

兄弟達とは、玉葛の兄弟である。
それにしても、玉葛は、いつも、心が冴えない様子である。
一種の、抑うつ状態か・・・

男踏歌、をとこだうか、と読む。



posted by 天山 at 06:52| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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