2013年11月14日

もののあわれについて645

宮には侍ちとり、いみじう思したり。母北の方泣き騒ぎ給ひて、母「太政大臣をめでたきよすがと思ひ聞え給へれど、いかばかりの昔の仇敵にかおはしけむとこそ思ほゆれ。女御をも、事に触れ、はしたなくもてなし給ひしかど、それは、御中の恨み解けざりし程、思ひ知れとにこそはありけめ、と思し宣ひ、世の人も言ひなししだに、なほさやはあるべき、人ひとりを思ひかしづき給はむ故は、ほとりまでも匂ふ例こそあれと、心得ざりしを、ましてかく末に、すずろなる継子かしづきをして、おのれ古し給へるいとほしみに、実法なる人のゆるぎ所あるまじきをとて、取り寄せもてかしづき給ふは、いかが辛からぬ」と言ひ続けののしり給へば、宮は、「あな聞きにくや。世に難つけられ給はぬ大臣を、口に任せてな貶しめ給ひそ。賢き人は、思ひ置き、かかる報いもがなと、思ふ事こそはものせられけめ。さ思はるるわが身の不孝なるにこそはあらめ。つれなうて、皆、かの沈み給ひし世の報いは、浮かべ沈め、いと賢くこそは思ひ渡い給ふめれ。おのれ一人をば、さるべきゆかりと思ひてこそは、一年も、さる世の響きに、家より余る事どももありしか。それをこの生の面目にて止みぬべきなめり」と宣ふに、いよいよ腹立ちて、まがまがしき事などを言ひ散らし給ふ。この大北の方ぞさがな者なりける。




父宮は、待ち受けて、酷く物思いに耽っていた。
母である北の方は、泣き騒ぎ、太政大臣を、結構な親戚とお考えですが、どれ程に、酷い昔からの仇敵でいらしたのかと、思われます。女御のことも、何かにつけて、いたたまれない思いでしたが、それは、こちらとの間の、恨み事が解けなかったことを、思い知れということなのだと、あなたは思って、おっしゃる。世間でも、そう取り沙汰していましたが、その時でさえ、そんなことがあって、よいものかと、奥方を大事にするのであれば、その縁で、肉親の者までも、お陰をこうむる例もあるものだと、納得ゆきませんでした。そればかりか、こんな年になり、訳の解らない、まま子の世話をして、ご自分が、慰み物にされた、罪滅ぼしに、律儀で、浮気しそうにないものを、選んで、自分のことろに、引き込んで、大事にされるとは。どうして、辛くないのでしょう、と、息もつかずに、まくし立てるので、宮は、ええ、聞き苦しい。世間から非難されたことのない大臣のことを、口から出任せに、悪口をおっしゃるものではない。賢い人は、かねてから、考えておいて、こんな、仕返しをしたいと、思うことが、あったのだろう。そのように、睨まれる、こちらが、不運なのだ。何気ないふうで、一つ残さず、昔苦しみになったことでの、報いは、よくしてやったり、いじめたり、しっかりと、賢く考え続けて、いらっしゃるようだ。私一人は、肉親だと思い、先年も、世間が大騒ぎするほどに、我が家には、過ぎるお祝いごとも、して下さった。あれを、一生の名誉と思い、満足すべきなのだ。と、おっしゃるので、益々、腹を立てて、呪いの言葉を、言い散らす。この、大北の方こそ、大変なものだったのです。

最後は、作者の言葉。

色々と説明が必要だが・・・
省略する。

原文を何度も、繰り返し読むことで、解るものだ。

実法なる人のゆるぎ所あるまじきをとて
律義者である、大将を、理想の婿として、源氏が決めたことである。




大将の君、かく渡り給ひにけるを聞いて、「いと怪しう、若々しき中らひのやうに、ふすべ顔にてものし給ひけるかな。正身は、然ひききりに際際しき心もなきものを、宮のかく軽々しうおはする」と思ひて、君達もあり、人目もいとほしきに思ひ乱れて、尚侍の君に、大将「かく怪しき事なむ侍るなる。なかなか心安くは思ひ給へなせど、さて片隅に隠ろへてもありぬべき人の心安さをおだしう思ひ給へつるに、にはかにかの宮ものし給ふならむ。人の聞き見る事も情けなきを、うちほのめきて参り来なむ」とて出で給ふ。良き上の御衣、柳の下襲、青鈍の綺の指貫着給ひて、引き繕う給へる、いとものものし。などかは似げなからむと人々は見奉るを、尚侍の君は、かかる事どもを聞き給ふにつけても、身の心づきなう思し知らるれば、見もやり給はず。




大将の君は、北の方が、このように引き移ったと聞いて、何とも妙な、年若い夫婦仲のように、面あてがましいことを、したものだ。本人は、そういう思い切ったことが出来る人ではない。宮が、そのように軽率でいらしたのだ。と思い、子供達もあり、世間体も具合が悪いと、困りきり、尚侍の君、玉葛に、こんなおかしなことがあると、いいます。北の方がいなくなって、かえって、気が楽だと思いますが、そのままで、邸の隅に引っ込んでいて、よい気楽な人だと、安心していましたのに、急に、式部卿の宮がされたのでしょう。世間が、見たり聞いたりしても、薄情だと、言いましょうし、ちょっと、顔を出して、すぐに、戻って参ります、と言い、お出になる。
上等の着物に、柳の下襲、青鈍色の綺の指貫を召して、身繕いされたところは、貫禄がある。どうして、不似合いなことが、あろうかと、女房達は拝するが、尚侍の君は、こんなことを、あれこれ耳にするにつけても、我が身が、情けないと思い知らされるので、見向きもしないのである。

何とも、物語の調子である。




宮に恨み聞えむ、とて、参うで給ふままに、先づ殿におはしたれば、木工の君など出で来て、ありし様語り聞ゆ。姫君の御有様聞き給ひて、雄々しく念じ給へど、ほろほろとこぼるる御気色、いとあはれなり。大将「さても、世の人にも似ず、怪しき事どもを見過ぐすここらの年頃の心ざしを、見知り給はずありけるかな。いと思ひのままならむ人は、今までも立ち止まるべくやはある。よし。かの正身は、とてもかくても、いたづら人と見え給へば、同じ事なり、幼き人々も、いかやうにもてなし給はむとすらむ」と、うち嘆きつつ、かの真木柱を見給ふに、手も幼けれど、心ばへのあはれに恋しきままに、道すがら涙おし拭ひつつ参うで給へれば、対面し給ふべくもあらず。




宮に恨み言を申し上げようと、出掛けたついでに、先に邸に立ち寄ると、木工の君などが、出てきて、その時の様子をお話しする。姫君の様子を聞いて、男らしくこらえているが、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる様子は、何ともあはれである。
大将は、それにしても、普通の人と違い、狂気の沙汰を我慢して、この長年の愛情を解って、下さらないのだ。酷くわがままな男なら、今まで、連れ添ってなどいるものか。しようがない。あの本人は、どうなろうと、廃人と思われるゆえ、同じ事。子供達まで、どうされるのか、と、溜息しながら、あの真木柱を御覧になると、筆跡は、子供っぽいが、心根がいじらしく、顔が見たくなり、道々、涙を拭いながら、宮邸に参上されると、会うはずがない。

少しばかり、浪花節調になっているところが、面白い。





posted by 天山 at 05:54| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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