2013年10月20日

もののあわれについて640

住まひなどのあやしうしどけなく、物の清らもなくやつして、いとうもれいたくもてなし給へるを、玉を磨ける目移しに心もとまらねど、年頃の志ひきかふるものならねば、心にはいとあはれと思ひ聞え給ふ。大将「昨日今日のいと浅はかなる人の御中らひだに、よろしき際になれば、皆思ひのどむる方ありてこそ見果つなれ。いと身も苦しげにもてなし給ひつれば、聞ゆべき事もうち出で聞え難くなむ。年頃契り聞ゆる事にはあらずや。世の人にも似ぬ有様を、見奉り果てむとこそは、ここら思ひ静めつつ過ぐし来るに、えさしもありはつまじき御心掟に、思し疎むな。幼き人々も侍れば、とざまかうざまにつけて疎にはあらじ、と聞え渡るを、女の御心の乱りがはしきままに、かく恨み渡り給ふ。ひとわたり、見果て給はぬ程、さもありぬべき事なれど、任せてこそ今しばし御覧じ果てめ。宮の聞し召し疎みて、さはやかにふと渡し奉りてむと思し宣ふなむ、かへりていとかろがろしき。まことに思しおきつる事にやあらむ、しばし勘事し給ふべきにやあらむ」と、うち笑ひて宣へる。いとねたげに心やまし。




部屋などが、酷く乱雑で、綺麗さもなく、汚れ、とても鬱陶しくなっているので、玉を磨いたような場所を見慣れた目には、気に入らないが、長年の情は、急に変わるものではない。心の中では、大変、可哀想に、思うのである。
大将は、昨日今日の、浅い関係でさえ、悪くない身分となれば、皆、耐え忍ぶこともありつつ、添い遂げるもの。酷く、体を苦しそうにしているので、お話することも、言い出しにくくて。長年、約束していることではないか。普通ではない、ご病気のあなたを、最後まで、お世話しようと、この年月我慢して、暮らしてきたのに、そのように、最後まで、させないような気持ちで、私を、疎んじるな。子供たちもいることだから、悪いようにはしない。と、申し続けてきたのに、女心の慎み無さから、このように恨み続けている。一応、見極めるまで、もっともだが、私を信じて、もう少し、見守ってくれ。宮が、お耳に遊ばして、嫌がり、はっきりと、すぐにお引取り申すと言うのは、かえって、軽率だ。本気に決心されたことか。暫く、懲らしめるつもりなのか。と、笑って言う。
何とも、しゃくで、腹が立つ。

最後は、北の方の心境である。




御召人だちて、仕うまつりなれたる木工の君、中将の御許などいふ人々だに、程につけつつ、安からず辛しと思ひ聞えたるを、北の方はうつし心ものし給ふ程にて、いとなつかしううち泣きて居給へり。北の方「自らを、ほけたりひがひがしと宣ひ恥ぢしむるはことわりなる事になむ。宮の御事をさへ取りまぜ宣ふぞ。漏り聞き給はむはいとほしう、憂き身のゆかり軽々しきやうなる。耳なれにて侍れば、今初めていかにも物を思ひ侍らず」とて、うち背き給へる、らうたげなり。いとささやかなる人の、常の御悩みに痩せ衰へ、ひはづにて、髪いとけうらにて長かりけるが、分けたるやうに落ち細りて、梳る事もをさをさし給はず、涙にまろがれたるは、いとあはれなり。細かに匂へる所はなくて、父宮に似奉りて、なまめい給へる容貌し給へるを、もてやつし給へれば、何処の華やかなるけはひかはあらむ。




お妾として、お傍に仕える、木工の君、中将の御許などという人々でさえ、その身分相応に、穏やかではなく、酷いと思っている。北の方が、正気でいらっしゃる頃で、しおらしく、泣いていらした。
北の方は、私を、ぼけたと、僻んでいるとおっしゃり、きつく叱ったことは、最もなことです。でも、お父様のことまで、引き合いに出して、おっしゃるのは、もし、それを聞いたら、お気の毒ですし、つまらない私のために、ご身分に障るようです。私は、聞き慣れていますから、今更、何とも思いません、と言って、横を向かれた。可愛らしい姿である。たいそう、細かい人が、平生の病気で、痩せ細り、弱々しく、髪はとても綺麗で長かったのが、分け取ったように、抜け落ちて、梳ることもほとんどされず、涙で固まっているのは、痛々しい。
細やかに、つやつやと、美しい点はないが、父宮に似て、優雅なご器量でいらっしゃったが、汚くしているので、何の華やかな感じがありましょう。

いとあはれなり
ここでは、痛々しい・・・

御召人とは、大将の、お手つきの女たちである。




大将「宮の御事を軽くは如何聞ゆる。恐しう、人聞きかたはにな宣ひなしそ」と、こしらへて、「かの通ひ侍る所のいと眩き玉の台に、うひうひしうきすぐなる様にて出で入る程も、方々に人目立つらむと、かたはら痛ければ、心安く移ろはしてむと思ひ侍るなり。太政大臣の、さる世に類なき御覧覚えをば、さらにも聞えず、心恥づかしういたり深うおはすめる御辺りに、憎げなる事漏り聞えば、いとなむいとほしうかたじけなかるべき。なだらかにて、御中よくて、語らひてものし給へ。宮に渡り給へりとも、忘るる事は侍らじ。とてもこうても、今更に心ざしの隔たる事はあるまじけれど、世の聞え人笑へに、麿がためにも軽々しうなむ侍るべきを、年頃の契り違へず、かたみに後見むと思せ」と、こしらへ聞え給へば、




大将は、宮の御事を、どうして軽んじたりできよう。怖いことだ。人が誤解するようなことを、言わないでくれ。と、取り繕い、あの通っているところが、眩いばかりの、美しい御殿なので、物馴れず、生真面目な恰好で、出入りするのも、人目に立つだろうと、気が引けるゆえに、気楽に出来るように、移転させようと思っている。太政大臣の、あれほどの大した名声は、今更、申すまでもなく、ご立派で、行き届いているお暮らしのお邸の中に、感心しないことが、伝わるのは、まことに気の毒で、畏れ多い。穏やかにして、お二人、仲良くして、話し合ってくれ。父宮のところに移っても、忘れるようなことは、ありません。いずれにせよ、今更、愛情の薄れることはないだろうが、世間の評判は、悪くなり、私のためにも、身分に相応しくないことになります。今までの、長年の約束通り、互いの、面倒は見合うということで、居てください、と、取り繕い、申し上げる。

玉葛との関係、源氏に対する思い・・・
そして、正妻の、北の方に、お願いする、大将である。




北の方「人の御辛さは、ともかくも知り聞えず。世の人にも似ぬ身の憂きをなむ、宮にも思し嘆きて、今更に人笑へなること、と御心を乱り給ふなれば、いとほしう、いかでか見え奉らむとなむ。大殿の北の方と聞ゆるも、異人にやはものし給ふ。かれは、知らぬ様にて生ひ出で給へる人の、末の世にかく人の親だちもてない給ふ辛さをなむ、思ほし宣ふなれど、ここにはともかくも思はずや。もてない給はむ様を見るばかり」と宣へば、大将「いとよう宣ふを、例の御心違ひにや、苦しき事も出で来む。大殿の北の方の知り給ふ事にも侍らず。いつき女のやうにてものし給ふ人は、かく思ひおとされたる人の上までは知り給ひなむや。人の御親げなくこそものし給ふべかめれ。かかる事の聞えあらば、いと苦しかべきこと」など、日一日入り居て語らひ申し給ふ。




北の方は、あなたが、私に辛くするのは、何とも思いません。普通ではない身の病を、父宮も御心配されて、今更に、外聞の悪いことです。と、御心を砕いているとのこと。お気の毒で、顔も合わせられません。大殿の北の方、紫の上、と申し上げる方も、赤の他人でいらっしゃるのでしょうか。あの方は、知らないままに、成人された方で、後になり、このように、あの人の親らしくお世話する辛さを考えて、お口にされるようですが、私のほうは、何とも思いません。なさりようを見ているだけです。と、おっしゃると、大将は、よい事をおっしゃるが、いつものご乱心では、困ったことも、出てきましょう。大殿の北の方の、ご存知のことでもありません。箱入り娘のようにしていられる方は、こんなに軽蔑されている人の身の上までは、ご存知ありません。あの人の、親御らしくは、なくていらっしゃるようです。こんなことが、伝われば、さぞ困ることになりましょう。などと、一日中、お話し合いをされるのである。

人の上までは
玉葛のこと。
源氏と玉葛のことである。




posted by 天山 at 06:04| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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