2013年09月23日

もののあわれについて635

大臣「参り給はむ程の案内、詳しき様もえ聞かぬを、うちうちに宣はむなむ良からむ。何事も人目に憚りて、え参り来ず、聞えぬ事をなむ、なかなかいぶせく思したる」など、語り聞え給ふついでに、中将「いでや、をこがましき事も、えぞ聞えさせぬや。いづ方につけても、あはれをば御覧じ過ぐすべくやはありけると、いよいよ恨めしさも添ひ侍るかな。先づは今宵などの御もてなしよ。北面だつ方に召し入れて、君達こそめざましくも思し召さめ、下仕へなどやうの人々とだに、うち語らばはや。またかかるやうはあらじかし。様々に珍しき世なりかし」と、うち傾きつつ、恨み続けたるもをかしければ、かくなむと聞ゆ。玉葛「げに、人聞きをうちつけなるやうにや、と憚り侍る程に、年頃のうもれいたさをも、あきらめ侍らぬは、いとなかなかなる事多くなむ」と、ただすくよかに聞えなし給ふに、まばゆくて、よろづおしこめたり。




中将は、内大臣が、参内されるときの、ご都合、詳しいことも聞けずに、内々ご相談くださるがよい。何事も、他人の見る目を気にして、伺うことも出来ず、お話をすることも出来ないのを、今は、かえって、気がかりに思っています、などと、伝える。
いや、もう馬鹿らしいことも、申し上げませんね。どのみち、私の気持ちを見ぬふりをされるということがあるものかと、益々、恨めしさが増すことです。第一は、今宵のこの扱いぶり。北向きとでも言った方に、お呼びになり、宰相がたは、嫌なやつと思われてのことでしょうが、せめて、下仕えのような人たちとでも、話し合いたいもの。他では、こんな扱いは、ありませんね。どちらにしても、またとない、二人の間ですから、と、首をかしげながら、恨みを言い続けるのも、面白くないので、こうですと、宰相の君が、申し上げる。
玉葛は、おっしゃる通り、急に変わり過ぎると、人に言われまいかと、外聞を気にして、長年こらえていた気持ちを、晴らせませんのは、前よりかえって、辛いことが多くあります。と、ひたすら、正直なお答えなので、顔が上げられず、何も言わず、じまいである。




中将
いもせ山 深き道をば 尋ねずて をだえの橋に 踏み迷ひける

よ」と恨むるも、人やりならず。

玉葛
惑ひける 道をば知らで いもせ山 たどたどしくぞ たれもふみ見し

宰相「いづ方のゆえとなむえ思し分かざめりし。何事も、わりなきまで、おほかたの世を憚らせ給ふめれば、え聞えさせ給はぬになむ。おのづからかくのみも侍らじ」と聞ゆるも、さる事なれば、中将「よし長居し侍らむも、すさまじき程なり。やうやうらう積もりてこそは、かごとをも」とて立ち給ふ。月くまなくさし上がりて、空の気色もえんなるに、いとをかし。女房「宰相の中将のけはひ有様には、え並びはねど、これもをかしかめるは、いかでかかる御中らひなりけむ」と、若き人々は、例の、さるまじき事をも取り立てて、めであへり。




中将
兄妹という、実のところは知らず、とげられない恋の道に、踏み迷ったことです。

よ、と恨んでも、誰のせいでもない。

玉葛
間違っていたとは、知らず、変なお手紙と思いました。

宰相の君が、どういう意味か、お分かりにならないようでした。何につけても、非常に世間を気にしておりましたので、お話されないのでしょう。まさか、ここままでは、ございません。との言葉に、中将は、いや、長居しますのも、よろしくないこと。だんだんと、お役に立って、その上で、お恨みも、言わせていただきます。と、立ち上がった。
月が澄んで、高く上がり、空の様子も、気持ちをそそるが、中将は、とても品良く、こぎれいな姿で、直衣のお姿もよく、派手である。宰相の中将の感じや、姿には、及びも無いが、それでも、こちらも立派といえるのは、どうしてこんな御一族なのだろうと、若い女房たちは、いつもの通り、それほどではないことも、取り上げて、誉めあう。




大将は、この中将は同じ右のすけなれば、常に呼びとりつつ、ねんごろに語らひ、大臣にも申させ給ひけり。「人柄もいと良く、おほやけの御後見となるべかめるしたかたなるを、などかはあらむ」と思しながら、「かの大臣のかくし給へる事を、いかが聞え返すべからむ。さるやうある事にこそ」と心得給へる筋さへあれば、任せ聞え給へり。この大将は、東宮の女御の御兄弟にぞおはしける。大臣達をおき奉りて、さしづの御覚え、いとやむごとなき君なり。年三十二、三の程にものし給ふ。北の方は紫の上の御姉ぞかし。式部卿の宮の御大君よ。年の程三つ四つがこのかみは、殊なるかたはにもあらぬを、人柄やいかがおはしけむ、おうなとつけて心にも入れず、いかでそむきなむ、と思へり。その筋により、六条の大臣は、大将の御事は、似げなくいとほしからむ、と思したるなめり。色めかしくうち乱れたる所なき様ながら、いみじくぞ心を尽くしありき給ひける。「かの大臣も、もて離れても思したらざなり。女は宮仕へをもの憂げに思いたなり」と、うちうちの気色も、さる詳しき便りしあれば、漏り聞きて、大将「ただ大殿の御おもむけの異なるにこそはあなれ。まとこの親の御心にだにたがはずは」と、この弁のおもとに責め給ふ。




髭黒の大将は、この中将の女御の御兄弟である。大臣たちを別にすると、それに次いで、ご信任のすこぶる厚い方である。年は、三十二、三くらい。その正妻の、北の方は、紫の上のお姉さまなのだ。式部卿の宮の、長女となる。年が、三つか四つ上というのは、大した欠点でもないのに、人柄が、どうだったのか、おばあさんと、あだ名をつけて、構わず、何とか別れようとしている。
そういう事情で、六条の大臣、源氏は、大将との縁組は、似合いではなく、気の毒なことになると、考えている。
大将は、女を追いかけて、事件を起こすような方ではないが、たいそう熱心に、奔走していたのである。
あちらの大臣も、問題にもならないと、考えている様子。ご本人は、宮仕えに気乗りしない様子で、と、内情も、そうした、いわくがついているのを、漏れ聞いて、大将は、ただ大殿のご意向が、違っているのだ。実の父君のお気持ちにも、添っているならば、と、弁の、おもとに、催促するのである。

何とも、面倒な人間関係である。

つまり、髭黒の大将は、頭の中将と、兄弟である。
そして、右近衛の大将と、中将なのである。

髭黒大将の正妻、北の方は、何か問題があり・・・
玉葛との結婚を望んでいる。

かの大臣とは、内大臣のこと。
大将が言う、大殿とは、源氏のこと。
源氏が、実の父親の気持ちに添うならば、と、弁に玉葛との、縁を求めている様子。

おもと、とは、玉葛の侍女の敬称である。




posted by 天山 at 05:47| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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