2013年09月22日

もののあわれについて634

御気色はけざやかなれど、なほ疑ひはおかる。大臣も「さりや。かく人の推し測る、案に落つる事もあらましかば、いと口惜しくねぢけたらまし。かの大臣に、いかでかく心清き様を、知らせ奉らむ」と思すにぞ、げに宮仕への筋にて、けざやかなるまじく紛れたる覚えを、賢くも思い寄り給ひけるかな、と、むくつけく思さる。




その様子に、後ろめたいところはないが、それでも、疑いは、晴れない。大臣も、やはりだな。こう皆が邪推する、その思惑通りになることがあるとしたら、実に癪でもあり、感心しないことだ。内大臣に、何とかして、この身の潔白を知らせたいと、思うと共に、中将の言うとおり、宮仕えということで、はっきりさせず、誤魔化している懸想を、よくも感づいたものだと、気味悪く思うのである。

つまり、源氏の玉葛に対する、恋心に感づいたということに対する、思いである。
自分の恋を、目立たせないように、誤魔化すというのである。

しかし、何とも、まあ、平和なことである。
この物語には、戦のことは、一切書かれないのである。
平安期は、戦がなかった、平和な時代である。
そして、平和な時代は、文化が、花開く。

江戸時代も、そうである。




かくて御服など脱ぎ給ひて、「月立たばなほ参り給はむ事忌あるべし。十月ばかりに」と思し宣ふを、内にも心もとなく聞し召し、聞え給ふ人々は、誰も誰もいと口惜しくて、この御参りの先に、と、心寄せのよすがよすがに責めわび給へど、吉野の滝をせかせむよりも難き事なれば、「いとわりなし」とおのおの答ふ。中将も、なかなかなる事をうち出でて、いかに思すらむ、と苦しきままに、かけりありきて、いとねんごろに、おほかたの御後見を思ひあつかひたる様にて、追従しありき給ふ。たはやすく、軽らかにうち出でては聞えかかり給はず。めやすくもてしづめ給へり。




こうして、おばあさまの喪服などを、お脱ぎになって、月が替わると、御出立には、障りがあるということになろう。十月頃に、との、お話なので、主上におかせられても、待ち遠しく、思し召し、思いをかけている方々は、どなたもどなたも、残念でたまらず、このお方の、御出立以前に、何とかと、それぞれひいきの女房達に泣きついて、責め立てるが、吉野の滝をせき止めるより、難しいことであり、何とも仕方ありませんと、いずれも返事をする。
中将も、言わなければよかったことを口にして、何と思っているのかと、気にかかってたまらないので、駆けずり回り、こまごまと、何かのお世話を熱心に勤めるふりをして、機嫌をとり歩いている。簡単に軽率に、口を滑らせて、お話などしないで、上手に心を抑えている。




まことの御はらからの君達は、え寄り来ず、宮仕への程の御後見を、と、おのおの心もとなくぞ思ひける。頭の中将、心を尽くしわびし事は、かき絶えにたるを、うちつけなりける御心かな、と、人々はをかしがるに、殿の御使ひにておほしたり。なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞えかはし給ひければ、月の明き夜、桂の陰に隠れてものし給ひけり。見聞き入るべくもあらざりしを、名残なく南の御簾の前にすえ奉る。




実の兄弟の、若様方は、こちらに来られず、出立の時には、お世話しようと、それぞれ、その日を待ちわびている。頭の中将は、心から思い悩み泣きついていたのが、ぱったりとやんでしまったので、あっさりと変わる方だと、女房達は、おかしがっていた。殿様のお使いとして、おいでになった。
今も、表向きではなく、こっそりと、お手紙などのやり取りをしているので、月の明るい夜、桂の木の陰に隠れていらっしゃった。今までは、まるっきり、文も見ないで、話も聞かなかったのが、打って変わって、南の御簾の前に、お通しする。




みづから聞え給はむ事はしも、なほつつましければ、宰相の君して答へ聞え給ふ。中将「なにがしを選びて奉り給へるは、人づてならぬ御消息にこそ侍らめ。かくもの遠くては、いかが聞えさすべからむ。みづからこそ数にも侍らねど、絶えぬたとひも侍るなるは。いかにぞや、古代のことなれど、頼もしくぞ思ひ給へける」とて、ものしと思ひ給へり。玉葛「げに年頃の積もりも取り添へて、聞えまほしけれど、日頃あやしく悩ましく侍れば、起き上がりなどもえし侍らでなむ。かくまでとがめ給ふも、なかなかうとうとしきここちなむし侍りける」と、いとまめだちて聞え出だし給へり。中将「悩ましく思さるらむ御凡帳のもとをば、許させ給ふまじくや。よしよし、げに、聞えさするも心地なかりけり」とて、大臣の御消息ども忍びやかに聞え給ふ、用意など人には劣り給はず、いとめやすし。




頭の中将は、直接お話されることは、今でも気が引けるので、宰相の君を通して、お返事される。
中将は、父が、私を選んで、こちらにお遣わしになったのは、人に頼めないお便りだからでございます。こう離れておりましては、どうして、申し上げられましょう。私は、物の数では、ありませんが、切っても、切れない縁とも申しますが、なんということでしょう。老人くさい言い方ですが、頼みに思っておりました、と、面白くないと、思っている。
玉葛は、お言葉通り、積もる年月のお話も、一緒に、申し上げたいのですが、この頃、気分が優れず、起き上がることも出来ずにいます。これほど、責められますと、かえって、親しめない気持ちがいたします。と、真面目になって、お伝えする。
中将は、ご気分が優れないという、その御凡帳の傍に、入れてくれませんか。いや、いいでしょう。お言葉通り、こんなことを申し上げるのも、気が利かないことでした。と、大臣のお言葉を、声を低めて、お伝えされる態度など、誰にも負けぬ様子。まことに、結構である。

最後は、作者の言葉。

頭の中将も、玉葛に懸想している一人であるが、実の兄妹と分り、分別ある態度を取るのである。

物語の人間関係は、狭くもあるが・・・
登場人物は、数多い。





posted by 天山 at 06:43| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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