2013年09月21日

もののあわれについて633

尚侍の君やうやう引き入りつつ、むつかしと思したれば、夕霧「心憂き御気色かな。あやまちすまじき心の程は、おのづから御覧じ知らるるやうも侍らむものを」とて、かかるついでに、今少し漏らさまほしけれど、玉葛「あやしく悩ましくなむ」とて、入りはて給ひぬれば、いといたくうち嘆きて立ち給ひぬ。なかなかにもうち出でてけるかな、と、口惜しきにつけても、「かの、今少し身にしみて覚えし御けはひを、かばかりの物越しにても、ほのかに御声をだに、いかならむついでに聞かむ」と、安からず思ひつつ、お前に参り給へれば、出で給ひて、御返りなど聞え給ふ。




尚侍の君、玉葛は、だんだん奥に引っ込んで、やっかいなことと、思っている。夕霧は、冷たい仕打ちですね。馬鹿なまねをするような、私ではないことは、もう解っておいででしょう。と、こんな機会に、もう少し打ち明けたいがと思う。玉葛は、変に気分が悪くて、と、入ってしまったので、酷く嘆いて、出て行かれた。
余計なことを言ってしまったと、悔やまれるが、もう少し、余計に身に染み、恋しく思われた御方の気配を、これくらいの、凡帳越しにでも、かすかにお声だけでもと、どんな機会に、聞こうかという、思いに心を苦しめる。そのまま殿の所に、お上がりになったところ、出ていらしたので、お返事などを、申し上げる。

かの 今少し身にしみて覚えし・・・
紫の上のこと。




源氏「この宮仕へを、しぶげにこそ思ひ給へれ。宮などの練じ給へる人にて、いと心深きあはれを尽くし言ひ悩まし給ふに、心やしみ給ふらむと思ふになむ、心苦しき。されど、大原野の行幸に、上を見奉り給ひては、いとめでたくおはしけりと思ひ給へりき。若き人は、ほのかにも見奉りて、えしも宮仕へり筋もて離れじ。さ思ひてなむ、この事もかくものせし」など宣へば、夕霧「さても人ざまは、いづ方につけてかは、類ひてものし給ふらむ。中宮かく並びなき筋にておはしまし、また弘微殿やむごとなく、覚え殊にてものし給へば、いみじき御思ひありとも、立ち並び給ふ事難くこそ侍らめ。宮はいとねんごろに思したなるを、わざとさる筋の御宮仕へにもあらぬものから、引きたがへたらむ様に御心置き給はむも、さる御中らひにては、いとほしくなむ聞き給ふる」と、おとなおとなしく申し給ふ。




源氏は、この宮仕えを気乗りしない風に、思った、宮などの、その道に練達している方が、深い情を見せて、口説かれるので、そちらに心を開かれたのだろうかと、思うと、気の毒である。けれども、大原野の行幸で、主上を拝しては、とても立派であらせられると、思うのである。若い人は、少しでも、拝すれば、とても、宮仕えのことを、思い切れないだろう。このことも、そのようにしたのだが。などと、おっしゃると、夕霧が、それにしても、あの方の人柄では、どんな地位が相応しいでしょう。中宮がご立派でいらっしゃいますし、それに弘微殿も、立派な家柄で、評判もよく、素晴らしい寵愛があっても、肩を並べることなどは、難しいでしょう。宮は、酷く熱心でいらっしゃるとのこと。格別に、そうした行き方での、宮仕えではないにしても、意地の悪い取り計らいのようなことは、お二方の間では、お気の毒だと、今度のことを聞いております。と、大人びたことを言う。

何とも、難しい内容である。
わざとさる筋の御宮仕へにもあらぬものから
女御などという、格別な、宮仕えのことを言う。

宮とは、蛍兵部卿のこと。
話の内容が、情勢分析と、招来の見通しで、夕霧の言葉が、一人前に聞える様子を、おとなおとなしく、と書く。




源氏「難しや。わが心ひとつなる人の上にもあらぬを、大将さへ我をこそ恨むなれ。すべてかかる事の心苦しさを見過ぐさで、あやなき人の恨み負ふ、かへりては軽々しきわざなりけり。かの母君の、あはれに言ひ置きし事の忘れざりしかば、心細き山里になど聞きしを、かの大臣はた、聞き入れ給ふべくもあらずと憂へしに、いとほしくて、かく渡り始めたるなり。ここにかくものめかすとて、かの大臣も人めかい給ふなめり」と、つきづきしく宣ひなす。源氏「人柄は、宮の御人にて、いと良かるべし。今めかしく、いとなまめきたる様して、さすがに賢く、あやまちすまじくなどして、あはひはめやすからむ。さてまた宮仕へにも、いとよく足らひたらむかし。かたち良くらうらうじきものの、公事などにもおぼめかしからず。はかばかしくて、上の常には願はせ給ふ御心には、たがふまじ」など、宣ふ。




源氏は、難しいものだ。私の一存で行く、お方の話でもないのに、大将、髭黒右大将までが、私を恨んでいるという。何事も、こんな気の毒なことを見ていられないので、人から、つまらない恨みを受ける。かえって、軽率なことになった。玉葛の母君が、かわいそうな遺言をしたのを、忘れず、寂しい山里にいるなどと、聞いたが、あの内大臣は、相談に乗ってくれそうもないと、心配していたので、気の毒で、こうして、引き取ることになったのだ。私が大事にしているとあって、あの大臣も、人並みの扱いをするようだ。と、もっともらしく、説明する。
更に、源氏は、人柄は、兵部卿の宮夫人となって、適当だろう。現代的な感じで、華やかであり、それでいて、頭が良く、間違いなどしそうにないほど、宮との間も、まあうまくゆくだろう。それに、また、宮仕えも、十分に合格だろう。器量が良く、おっとりしているが、儀式などにも、暗くない。てきぱきしていて、主上が、いつもお望み遊ばす、御意向にかなうだろう。などと、おっしゃる。




気色の見まほしければ、夕霧「年頃かくてはぐくみ聞え給ひける御心ざしを、ひがざまにこそ人は申すなれ。かの大臣もさやうになむおもぶけて、大将のあなたざまの便りに、気色ばみたりけるにも、答へ給ひける」と聞え給へば、うち笑ひて、源氏「かたがたいと似げなき事かな。なほ宮仕へをも何事をも、御心許して、かくなむと思されむ様にぞ従ふべき。女は三に従ふものにこそあなれど、ついでをたがへて、おのが心に任せむ事は、あるまじき事なり」と宣ふ。夕霧「内々にも、やむごとなきこれかれ年頃を経てものし給へば、えその筋の人数にはものし給はで、捨てがてらにかく譲りつけ、おほぞうの宮仕への筋にらうぜむと思し置きつる、いと賢くかどある事なりとなむ、喜び申されけると、確かに人の語り申し侍りなり」と、いとうるはしき様に語り申し給へば、げにさは思ひ給ふらむかしと思すに、いとほしくて、源氏「いとまがまがしき筋にも思ひ寄り給ひけるかな。いたり深き御心ならひならむかし。今おのづから、いづ方につけても、あらはなる事ありなむ。思ひぐまなしや」と笑ひ給ふ。




様子が知りたいので、夕霧は、何年も、こうしてお育てになった御愛情を、妙な風に、世間では噂しているようです。あの内大臣も、そういう風に解釈される言い方で、大将があちらに、つてを持って申し込んだときにも、御返事なさいました。と、申し上げると、源氏は、笑って、それもこれも、事実とは、大変違っている。矢張り、宮仕えにせよ、何にせよ、内大臣が納得されて、こうしようと考えることに、従うべきだ。女には、三従の道があるが、順序を誤って、私の自由にしては、よくないことだ。と、おっしゃる。
夕霧は、内大臣は、内心でも、こちらに動かせない方々が、幾人も長年かけているので、その中の一人として、扱うことが出来ないようで、捨てる気分で、譲ってしまいたいと、一般職の尚侍ということにして、その実、手活けの花にしょうと考えている。実に利口で、頭のいい、やり方だと、喜んで言っておられた。と、はっきり、ある人が私に伝えてくれました。と、真面目にお話になるので、なる程、内大臣は、そうお考えなるだろうと、思うと、玉葛が気の毒だ。源氏は、酷くひねくれた風に、理解したものだ。行き届いたやり方を、自分がいつもなさるからだろう。すぐに、放っておいても、いずれにせよ、はっきりすることが、あるだろう。と、お笑いになる。

いとうるはしき 様に 語り申し給へば
現代の、うるわしき、とは、違う。

いづ方につけても
玉葛が、結婚するしかないか・・・




posted by 天山 at 17:15| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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