2013年09月17日

もののあわれについて631

藤袴 ふぢばかま

尚侍の御宮仕への事を、誰も誰もそそのかし給ふも、「いかならむ、親と思ひ聞ゆる人の御心だに、うちとくまじき世なりければ、ましてさやうの交じらひにつけて、心より外に便なき事もあらば、中宮も女御も、方々につけて心おき給はば、はしたなからむに、わが身はかくはかなき様にて、いづかたにも深く思ひとどめられ奉る程もなく、浅き覚えにて、ただならず思ひ言ひ、いかで人笑へなる様に見聞きなさむ、と、うけひ給ふ人々も多く、とかくにつけて、安からぬ事のみありぬべきを」、物思し知るまじき程にしあらねば、様々に思ほし乱れ、人知れずもの嘆かし。




尚侍として、宮仕えされることを、誰もが勧めるのだが、どうしたものだろう。親と思い、申し上げている方のお気持ちさえ、安心できないことなのだから、まして、そんな所で、お付き合いするにしても、思いがけず、困ったことが起こったりして、中宮も、女御も、あれこれにつけて、自分に対し、気まずい思いをされたら、途方に暮れるだろう。自分は、こんなに頼りない境遇で、どなた様にも、親しく願ってからも、間もなく、世間からも、軽く見られている。大臣との間柄を普通ではないと、邪推したり、噂したり、何とかして物笑いの種にして、見たり聞いたりして、呪っている方々も多く、何かにつけて、嫌なことばかりがあるに違いない。と、物を知る年頃なので、あれこれと、考えがまとまらず、独り嘆いている。

玉葛の心境である。





「さりとて、かかる有様も悪しき事はなけれど、この大臣の御心ばへの、むつかしく心づきなきも、いかなるついでにかは、もて離れて、人の推し測るべかめる筋を、心清くもありはつべき。まことの父大臣も、この殿の思さむ所を憚り給ひて、うけばりて取りはなち、けざやぎ給ふべき事にもあらねば、なほとてもかくても見苦しう、かけかけとき有様にて心を悩まし、人にも騒がるべき身なめり」と、なかなかこの親尋ね聞え給ひて後は、殊に憚り給ふ気色もなき、大臣の御もとなしを取り加へつつ、人知れずなむ嘆かしかりける。思ふ事を、まほならずとも、片端にてもうちかすめつべき女親もおはせず、いづ方もいづ方もいとはづかしげに、いとうるはしき御様どもには、何事をかは、さなむかくなむと聞え分き給はむ。世の人に似ぬ身の有様をうち眺めつつ、夕暮の空の、哀れげなる気色を、端近うて見出だし給へる様、いとをかし。薄き鈍色の御衣、なつかしき程にやつれて、例に変はりたる色合ひにしも、かたちはいと華やかにもてはやされておはするを、御前なる人々はうち笑みて見奉るに、宰相の中将、同じ色の今少しこまやかなる直衣姿にて、えい巻き給へる姿しも、またいとなまめかしく清らにておはしたり。




しかし、今の状態も悪くはないが、この殿様のお気持ちが、いとわしく、堂々と引き取って、自分の娘として扱うことなど、ないようで、やはり、どちらにしても、外聞が悪く、男に思いを懸けられた様で、思い悩み、とやかく他人に言われる運命なのだ。と、かえって、実の親が、探し当ててからというものは、特に遠慮される様子もない大臣の君の、有り様まで加わり、一人悩んでいるのである。
悩み事を、すべてでなくても、ほんの少しでも、話すことが出来る、女親もいず、お父様や、大臣に相談しようにも、ご立派な近づき難い方々なので、どんなことを、ああだ、こうだと、申し上げて、解っていただけよう。世間にはない、わが身の上を嘆く思いで、夕暮れの、身にしむ空の様を、縁近くに出て、眺めている様子は、実に美しい。
薄色の喪服をしっとりと、身にまとい、いつもと違う、色合いにも、かえって器量が華やかに、引き立てられるのを、お傍の女房たちは、満足げに、笑みを浮かべて、拝しているところに、宰相の中将、夕霧が、同じく喪服の、更に少し濃い色の直衣姿で、冠のえいを巻いていられるお姿が、大変優美で、綺麗で、おいでになった。

夕霧が、宰相の中将になっている。




初めより、ものまめやかに心寄せ聞え給へば、もて離れてうとうとしき様には、もてなし給はざりしならひに、今、あらざりけりとて、こよなく変はらむもうたてあれば、なほ御簾に凡帳添へたる御対面は、人づてならでありけり。殿の御消息にて、内より仰せ言ある様、やがてこの君の承り給へるなりけり。御返り、おほどかなるものから、いとめやすく聞えなし給ふけはひのらうらうじくなつかしきにつけても、かの野分の朝の御朝顔は、心にかかりて恋しきを、うたてある筋に思ひし、聞きあきらめて後は、なほもあらぬここち添ひて、「この宮仕へを、大方にしも思し放たじかし。さばかり見所ある御あはひどもにて、をかしき様なる事の煩はしきはた、必ず出で来なむかし」と思ふに、ただならず胸ふたがる心地すれど、つれなくすくよかにて、夕霧「人に聞かすまじと侍りつる事を聞えさせむに、いかが侍るべき」と、気色だてば、近く侍ふ人も、少し退きつつ、御凡帳の後ろなどにそばみあへり。




初めから、誠意を持って、好意を寄せていたので、こちらも他人行儀にされない習慣なので、今更、姉弟ではないということで、態度を改めることも変なので、以前のように、御簾の内側に凡帳を立てて、面会は、取次ぎなしである。殿の命令を持って、主上のお言葉の内容を、そのまま、この君がたまわり、伝えにいらしたのだ。
お返事を、大袈裟ではあるが、如才ない申し上げをされる。その物腰が、気が利いて、しかも、女らしいのにつけても、あの台風の朝、垣間見たお顔は忘れられず、恋しいので、あの時は、いけないことと思ったが、事情を聞いてからは、何もなしではいられない気持ちも出て、この人の宮仕えを、普通では、思い切りにならないだろう。あれほど、見事な婦人がたとの間柄では、美しくあるのが、困ったことになるだろうと思うと、気が気ではない。心配をするが、そ知らぬ、生真面目な顔をして、夕霧は、誰にも聞かせるな、とのことでございます、お言葉を申し上げますので、どういたしましょうか、と意味ありげに言うので、お傍に控えていた女房達も、少し退いて、凡帳の後ろなどに、互いに顔を見合さないようにしていた。

そばみあへり
聞いていませんとの、意思表示をする姿。
互いに横向きに座るのである。

をかしき様なる事の煩はしきはた
玉葛の美しさに、問題が起こる・・・
つまり、嫉妬などが、起こるというのである。

それは、夕霧が、考えている。
更に、夕霧も、玉葛に恋心を寄せているという様子。
何とも、当時の男女の関係は、即、恋に発展するようで・・・
というより、貴族社会がそうだった。
平安時代である。




posted by 天山 at 06:21| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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