2013年08月20日

もののあわれについて628

内の大臣は、さしも急がれ給ふまじき御心なれど、珍かに聞き給うし後は、いつしかと御心にかかりたれば、とく参り給へり。儀式など、あべい限りにまた過ぎて、めづらしき様にしなさせ給へり。げにわざと御心とどめ給うけること、と見給うも、かたじけなきものから、やう変はりて思さる。




内大臣は、大して急ぐ気持ちになれない。だが、珍しい話を聞いてからは、早く逢いたいと気になっていたので、早く見たいものだと、お出になられた。儀式は、きまり以上に、結構な様子である。いかにも、特に心を込めたものだと、内大臣は、気付くので、勿体無いと思うものの、風変わりに気もする。




亥の時にて、入れ奉り給ふ。例の御設けをばさるものにて、内のおまし、いと二なくしつらはせ給うて、御さかな参らせ給ふ。大殿油、例のかかる所よりは、少し光見せて、をかしき程にもてなし聞え給へり。いみじうゆかしう思ひ聞え給へど、今宵はいとゆくりかなべければ、引き結び給ふ程、え忍び給はぬ気色なり。あるじの大臣、源氏「今宵は、いにしへざまの事はかけはんべらねば、何のあやめも、わかせ給ふまじくなむ。心知らぬ人目を飾りて、なほ世の常の作法に」と、聞え給ふ。内大臣「げにさらに聞えさせやるべきかた侍らずなむ」とて、御土器参る程に、「限りなきかしこまりをば、世にためしなき事を聞えさせながら、今までかく忍びこめさせ給ひける恨みも、いかが添へ侍らざらむ」と、聞え給ふ。




亥の刻になり、内大臣を御簾中に入れられる。おきまりの、設備はもとより、御簾中の御座席は、またとないほど、立派に整えて、御酒の肴を差し上げる。明かりも、いつもより、少し明るくし、風情あるお持て成しをされる。
是非、お顔を見たく思っているが、今夜では、早過ぎるようだから、腰に裳を結んでいる間、我慢出来ない風情である。主人の大臣、源氏は、今夜は、昔あったことは、口にしませんから、何の仔細もわからないでしょう。事情を知らぬ、傍の見る目を縫って、矢張り、世間の仕方で、と、申し上げる。内大臣は、いかにも、全く申し上げようもございません、と、杯を口にされる。更に、この上もない、お礼の言葉は、世間にまたとない、御厚意と申し上げますが、今日まで隠してしらしたお恨みも、どうして、申し添えずにいられましょう。と、申し上げる。




内大臣
恨らめしや 沖つ玉もを かづくまで 磯隠れける あまの心よ

とて、なほ包みもあへずしほたれ給ふ。姫君は、いとはづかしき御様どものさし集ひ、つつましさに、え聞え給はねば、殿、

源氏
寄るべなみ かかる渚に うち寄せて あまも尋ねぬ もくづとぞ見し

いとわりなき御うちつけごとになむ」と、聞え給へば、内大臣「いとことわりになむ」と、聞えやる方なくて出で給ひぬ。




内大臣
恨めしいことです。裳を着る日まで、隠れていて、私には何も知らせない娘の心が。

と、詠まれて、涙ぐむ。姫君は、素晴らしいお二人が集まり、口もきけず、御返事が申せない。源氏が、

源氏
寄る辺なく、このような所に、身を寄せて、取るにも足りぬ者と思い、探してくださらなかった。

何とも、酷い出し抜けの、お言葉です。と、申し上げると、ごもっともです。と、それ以上は、言わず、退席される。




親王達、次々人々残るなく集ひ給へり。御懸想人もあまた交り給へれば、この大臣、かかく入りおはして程ふるを、いかなる事にか、と、疑ひ給へり。かの殿の君達、中将、弁の君ばかりぞほの知り給へりける。人知れず思ひし事を、からうも、嬉しうも思ひなり給ふ。弁は、「よくぞうち出でざりける」とささめきて、「様異なる大臣の御好みどもなめり。中宮の御類にしたて給はむとや思すらむ」など、おのおの言う由を聞き給へど、源氏「なほしばしは御心づかひし給うて、世にそしりなき様にもてなさせ給へ。何事も心安き程の人こそ、乱りがはしう、ともかくも侍べかめれ。こなたをもそなたをも、様々の人の聞え悩まさむ、良き事には侍るべき」と、申し給へば、内大臣「ただ御もてなしになむ。従ひ侍るべき。かうまで御覧ぜられ、あり難き御はぐくみに隠ろへ侍りけるも、前の世の契りおろかならじ」と、申し給ふ。御贈り物など、さらにも言はず、すべて引き出物、禄ども、品々につけて、例ある事限りあれど、またこと加へ二なくせさせ給へり。大宮の御悩みにことつけ給うしなごりもあれば、ことごとしき御遊びなどはなし。




親王たち、それ以下の人たち、残らず、集まった。玉葛に思いを寄せる人も、その中に大勢いた。内大臣が、このように御簾の中に入り、時間が経つのを、どういう訳かと、疑うのである。
内大臣の若君たちの中では、中将と、弁の君だけが、うすうす知っていた。密かに思いをかけたことを、辛いこととも、うれしいこととも、思うようになっていた。弁は、よくまあ、言い出さなかったことだ、と、小声で言う。普通でない大臣の、お好みなのだ。中宮みたいに仕上げようと思ったのだろうか。などと、めいめい言っているとの話を聞くが、源氏は、矢張り、しばらくは御注意されて、世間から、非難されないように、扱いください。私もあなたも、あれこれの者が、噂して、困らせるとあれば、普通の身分の者よりは、弱ることですから、穏やかに、だんだんと世間が気にしなくなるようにすることが、良いことです。と、おっしゃると、内大臣は、ただただ、あなた様のなされように、従います。こんなにまで、お世話を頂き、またとない御養育に、世の荒波を受けずにいたのも、前世の因縁が特別だったのでしょう、と、おっしゃる。
内大臣への、御贈り物は、言うまでもなく、すべてお土産、お札など、身分に応じて、決まりには限界があるが、それ以上に、物を増やして、またとないほどに、行ったのである。大宮の病気を理由にしたこともあり、盛大な音楽会などは、なかった。

何とも、複雑な、情景である。
それぞれの、思いが主語がないゆえに、こんがらかる。

からうも、嬉しうも思ひなり給ふ
結婚できないことを、からう、兄妹だと知ると、嬉しう、と思うのである。





posted by 天山 at 05:53| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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