2013年08月17日

もののあわれについて625

大臣も、珍しき御対面に、昔の事思し出でられて、よそよそにてこそ、はかなき事につけて、いどましき御心も添ふべかめれ、さし向かひ聞え給ひては、かたみにいとあはれなる事の数々思し出でつつ、例の、隔てなく、昔今の事ども、年頃の御物語に、日暮れ行く。御土器など勧め参り給ふ。内大臣「侍はでは悪しかりぬべかりけるを、召しなきにはばかりて、承り過ぐしてましかば、御勘事や添はまし」と申し給ふに、源氏「勘当はこなたざまになむ。勘事と思ふ事多く侍る」など、気色ばみ給ふに、この事にや、と思せば、わづらはしうて、かしこまりたる様にて、ものし給ふ。




大臣も、久しぶりの出会いに、昔のことが、自然に思い出されて、離れていればこそ、なんでもないことにでも、競争心も、つい起こるのだと、面と向ってお話しする。互いに、胸に迫ることが、あれこれと、思い出されて、いつもの通り、心に隔てなく、昔や今の話を、次々に、長年の話をしていると、日が暮れてゆく。
盃を勧める。内大臣は、お伺いしなくては、いけないことでしたのに、お呼びがないので、遠慮していました。お越しを知りながら、出て参らずじまいになれば、お叱りが増えることだったでしょう。と、申し上げると、源氏は、お叱りを受けるのは、こちらの方です。お怒りではないかと思うことが、多々あります、などと、おっしゃりかけると、この姫のことかと、思うので、面倒なことになったと、恐縮した振りをする。

かたみにいとあはれなる
かたみに いとあはれ なる
どのように、訳してもいいのである。

つまり、本文の情景を深める言葉である。
形容詞のような扱い・・・

互いに深く感ずることろありて・・・など。




源氏「昔より、公私の事につけて、心の隔てなく、大小の事聞え承り、羽を並ぶやうにて、おほやけの御後見をも仕うまつる、となむ思う給へしを、末の世となりて、そのかみ思う給へし本意なきやうなる事、うち交り侍れど、内々の私事にこそは。おほかたの志は、さらに移ろふ事なくなむ。何ともなくて、積もり侍る年よはひに添へて、いにしへの事なむ恋ひしかりけるを、対面賜はる事もいと稀にのみ侍れば、こと限りありて、世だけき御ふるまひとは思う給へながら、親しき程には、その御勢ひをも、引きしじめ給ひてこそは、とぶらひものし給はめ、となむ、恨めしき折々侍る」と、聞え給へば、大臣「いにしへはげに面なれて、あやしくたいだいしくまで慣れ侍ひ、心に隔つる事なく御覧ぜられしを、おほやけに仕うまつりし際は、羽を並べたる数にも思ひ侍らで、嬉しき御かへりみをこそ、はかばかしからぬ身にて、かかる位に及び侍りて、おほやけに仕うまつり侍る事に添へても、思う給へ知らぬには侍らぬを、よはひの積もりには、げにおのづからうちゆるぶ事のみなむ、多く侍りける」など、かしこまり申し給ふ。




源氏は、昔から、朝廷の公務、また私生活の事につけて、思うことは、何でも、事の大小関わらず、お話をしたり、伺ったりして、あなたと、肩を並べたようで、朝廷の補佐もしたいと思ったが、年月が経ってしまい、当時考えていた、あの気持ちと違うようなことが、時々ありましたが、それは、ほんの内輪のこと。それ以外の気持ちは、全然、昔と変わらないのです。別に、何と言うことも無く、年を取ってゆくにつれて、昔の事が、懐かしく思われます。お会いすることが、ほとんど無くなってゆくばかりです。身分が身分ゆえに、目覚しいご活躍とは、知りながら、親しい間柄では、その御威勢も抑えてくださり、お訪ねくださればよいのにと、恨めしく思うことも、何度かありました。と、おっしゃると、内大臣は、昔は、仰せの通り、しげしげとお会いして、何とも失礼なほどご一緒し、隠し立てもせずに、お世話になりました。朝廷にお仕えした当初は、肩を並べる一人などは、思いもよりませんでした。ありがたい、お引き立てを、力の無い私が、こんな地位にまで昇りまして、朝廷にお仕え出来ること、ありがたいと思いますが、年を取り、仰せの通り、ついつい、途絶えがちのことばかりが、多くありました。などと、お詫びを申し上げる。

何とも、大変な会話である。
当時の言葉遣いは、難しい。




あやしく たいだいしく・・・
しげしげとお会いして・・・
慣れ侍ひ・・・
失礼と思うほどに、会う・・・




そのついでに、ほのめかし出で給ひてけり。大臣「いとあはれに、めづらかなる事にも侍るかな」と、まづうち泣き給ひて、大臣「そのかみより、いかになりにけむ、と尋ね思う給へし様は、何のついでにか侍りけむ、憂へに耐へず、漏らし聞し召させしここちなむし侍る。今かく少しひとかずにもなり侍るにつけて、はかばかしからぬ者ども、方々につけてさまよひ侍るを、かたくなしく見苦し、と見侍るにつけても、またさるさまにて、数々に連ねては、あはれに思う給へらるる折りに添へても、まづなむ思ひ給へ出でらるる」と宣ふついでに、かのいにしへの雨夜の物語に、色々なりし御むつごとの定めを思し出でて、泣きみ笑ひみ、皆うち乱れ給ひぬ。夜いたう更けて、おのおのあかれ給ふ。源氏「かく参り来あひては、さらに、久しくなりぬる世の古事、思う給へ出でられ、恋ひしき事の忍び難きに、立ち出でむここちもし侍らず」とて、をさをさ心弱くおはしまさぬ六条殿も、酔ひ泣きにや、うちしほたれ給ふ。宮、はたまいて、姫君の御事を思し出づるに、ありしにまさる御有様勢ひを見奉り給ふに、あかず悲しくてとどめ難く、しほしほと泣き給ふ。あまごろもは、げに心ことなりけり。




引き続けて、少しばかり、玉葛のことをおっしゃる。内大臣は、胸痛く、またとない話を伺いました、と、探しあぐねていましたことは、何のきっかけでございますか。悲しさに我慢しきれず、つい申し上げ、お耳に入れましたような気がします。今は、このように少しは、一人前らしくなりましたにつけて、つまらない子供たちが、誰彼の縁故を辿り、名乗り出ますが、馬鹿な、見苦しいと思いますにつけても、それはそれとして、あのように、大勢を並べてみると、可哀想にと思います。玉葛が、一番に胸に浮かびますと、おっしゃるのをきっかけに、あの昔の雨夜の品定めの話の時に、あれこれとあった、打ち明け話の結論を思い出し、泣いたり笑ったり、お二人とも、崩れてしまった。夜が更けて、お二人共に、お別れになる。
源氏は、このように、互いに足を運び、一緒になり、全く古くなった昔の出来事が、つい胸に浮かび、懐かしい気持ちが抑えきれず、出て行く気もしませんと、おっしゃり、一向に、気弱ではない六条の殿も、酔い泣きなのか、涙を流す。
大宮は、ましてそれ以上に、姫君、葵上のことを思い出し、あの当時より、立派な様子、威勢を拝すると、いつまでも悲しくて、涙を止められず、しおしおと泣くのである。尼衣の身ゆえに、本当に特別なのである。

書写する私も、昔の事を思い出す。
あの頃・・・

兎に角、長い物語である。




posted by 天山 at 05:10| もののあわれ第12弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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