2012年09月15日

伝統について57

人目多み 常かくのみし さもらはば いづれの時か わが恋ひあらむ

ひとめおほみ つねかくのみし さもらはば いづれのときか わがこひあらむ

人目が多いので、いつもこのようにしていれば、常に恋に苦しむことだろう。

さもらはば
様子を伺う。
あらむ
恋しないときは、無い。

人目を気にするのは、現代と同じか・・・

敷たへの 衣手離れて 吾を待つと あるらむ子らは 面影に見ゆ

しきたへの ころもではなれて わをまつと あるらむこらは おもかげにみゆ

敷きたへの衣を交わすことなく、私を待っているだろう子が、面影に見える。

敷きたへ
衣の美称

子ら
親愛の接尾語

衣を交わす。つまり、交わることである。とても、大胆な歌である。
私との交わりを求める子が、いる。そして、その面影を見るというのである。

妹が袖 別れし日より 白袴の 衣片敷き 恋つつそ寝る

いもがそで わかれしひより しろたへの ころもかたしき こひつつそぬる

妻の袖を離れた日から、白袴の衣を、片方だけ敷いて、恋いつつ寝るのだ。

何かの理由で、妻と別れて来たのである。
そして、その妻を慕いつつ、片方だけを敷いて寝るという。
想う人がいる、という幸せを感じる。

白袴の 袖はまゆひぬ 吾妹子が 家のあたりを 止まず振りしに

しろたへの そではまゆひぬ わがいもが いえのあたりを やまずふりしに

白袴の袖が、ほつれた。私の妹子の言えのあたりで、しきりに振ったゆえか。

別れ際に、袖を振るという。
袖は当時、心を現す。

袖振る
愛情の表現である。

今でも、別れ際に、ハンカチを振る。

ぬばたまの わが黒髪を 引きぬらし 乱れてさらに 恋ひわたるかも

ぬばたまの わがくろかみを ひきぬらし みだれてさらに こひわたるかも

私の黒髪を引き解き、心も乱れて、更に、恋い続ける。

ぬばたま
漆黒の形容である。

激しい思いである。
黒髪を解いて、一層恋い続けるというのである。

これは、朝である。
昨夜の交わりを終えて、男が帰る前に・・・
黒髪を解いて、更に、更に、恋い続けるという、女の情。

大胆、素朴・・・
万葉の時代の生命力である。
そして、性がそのまま、生なのである。




posted by 天山 at 05:11| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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