忙しい、幾日かを過ごして、東の院に、お出でになった。常陸の宮の姫君、つまり、末摘花の所は、身分があるので、気の毒に思いになり、人前の体裁だけは、とても行き届いた扱いである。昔は、豊に見えた若い盛りの黒髪も、年とともに、少なくなり、まして、滝の水にも負けない、白髪まじりの横顔など、かわいそうに、と思うので、真正面から向き合うこともしない。贈った柳の装束は、全く面白みのないものと、思えるものを、お召しになるのは、人柄ゆえだろう。光沢なく、黒ずんだかいねり絹の、さわさわ音がするほど、張った一襲の上に、このような織物の、うちぎを着ているのは、寒そうで、気の毒である。重ねる、うちぎなどは、一体、どうしてしまったのか。鼻の色だけは、霞に隠れそうになく、はっきりとしているので、心にもなく、ため息をついて、わざわざ、御凡帳を置いて、隔てをおいている。かえって、女の方は、それ程と思っていないのか、今は、こうした情けのこもる変わらない心の程を、心安いものと、気を許して、頼りにされている様子は、心が打たれる。このような生活でも、人並みではなく、気の毒で、悲しい境遇だと思うと、可哀相で、せめて、私だけでも、と、心にかけているのも、世間には、珍しいことである。
今はかくあはれに
御様あはれなり
あはれに
源氏は、末摘花をあはれと思うが、本人は、気づかないでいる。
年を取り、あはれ。
その様、あはれ。
そして、源氏が、あはれ、と思う。
あはれ、という言葉が、三度も、使われている。
源氏が、その、あはれ、に、ため息をつくが・・・
女はさしも思したらず
女は、何とも思っていないのである。