2012年05月19日

伝統について53

大原の 古りにし郷に 妹置きて われ寝ねかねつ 夢に見えこそ

おおはらの ふりにしさとに いもおきて われいねかねつ いめにみえこそ

大原の、もの寂しい古里に、妻を置いて来て、眠ることが出来ずにいる。夢に見えて欲しいものだ。

妻を恋うる思い。
古りにし郷とは、物寂しい、などの意味。

素直に寂しいのである。

夕されば 君来まさむと 待ちし夜の なごりそ今も 寝ねかてにする

ゆふされば きみきまさむと まちしよの なごりそいまも いねかてにする

夜が訪れると、あの方がいらっしゃる。と、思いつつ、待っていた頃の夜が、懐かしい。今でも、すぐに寝られないのだ。

女の歌である。
男の訪れを待つ、女の気持ち。

これは、現代の演歌である。
なごりそ今も・・・
名残惜しい気持ち・・・私は、懐かしいと訳した。

相思はず 君はあるらし ぬばたまの 夢にも見えず 祈誓ひて寝れど

あいおはず きみはあるらし ぬばたまの いめにもみえず うけひてねれど

私ばかりが、あなたを慕う。あなたは思ってくれないようです。ぬばたまの夢にも、見えないのです。うけいをして、寝たのに。

祈誓、うけひ・・・
相手の思いが夢になり、現れると考えた時代である。

祈り、誓う、うけひ、という。神道用語ともなる。

石根踏む 夜道行かじと 思へれど 妹によりては 忍びかねつも

いわねふむ よみちゆかじと おもへれど いもによりては しのびかねつも

男の歌である。
岩を踏むような、危険な夜道は歩くまいと思うが、妻を思うと、我慢が出来ない。

危険な夜道を、覚悟して、妻の元に通う、男心である。
恋とは、危険を顧みずするもの・・・
当時は、命懸けの恋をした。

忍びかねつも
心を深くする。堪えて思うこと。

人言の 繁き間守ると 逢はずあらば 終にや子らが 面忘れなむ

ひとごとの しげきまもると あはずあらば ついにやこらが おもわすれなむ

人の噂が煩い合間を縫って、逢わずにいたら、あの子は、私の顔を忘れてしまうだろうか。

人の噂・・・
当時の情報は、それだった。
その噂を避けて、逢わずにいる。
そのうちに、相手は、私のことを忘れるのではないかと、心配する。

当時は、母親が、娘の相手を、決めた。
だから、母親に気に入られなければならない。そして、人の噂・・・

母親も、それを嫌うのである。
男は、大変だった。

ら、というのは、親愛の接尾語とある。
子ら
多数を言うのではない。



posted by 天山 at 06:37| 伝統について2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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