2009年09月12日

伝統について 42

独り寝と 薦朽ちめやも 綾蓆 緒になるまでに 君をし待たむ

ひとりねと こもくちめやも あやむしろ おになるまでに きみをしまたむ

独りで寝ても、こもが、朽ちることはない。それほどの床。綾織の、むしろが破れて、緒になるまでも、私は、あなたを待つ。

緒とは、糸。
綾織のむしろが、破れて、糸になるまでも、あなたを待っている。

何とも、激しい恋心である。しかし、歌は、静かである。

待つことに、耐えること。それが、人生だと、思ったことが、何度もある。
生きるということは、何かを待つ行為なのかもしれない。

万葉人の、待つとは、人である。


相見ては 千歳や去ぬる 否をかも われや然思ふ 君待ちかてに

あいみては ちとせやいぬる いなをかも われやしかおもふ きみまちかてに

逢ってから、千年も経つようだ。違うのだろうか。私がそう思うだけか。あなたを、待ちかねて。

出会ってから、千年も経ったと思う。それは、あなたを待ち続けたからだろう。
恋する者は、誰もが、そう思う。

これは、二つの意味があると、思う。
出会いから、千年を経た。
逢った日から、千年も、経ったようだ。そうして、今日も、待ち続けているのである。


振分の 髪を短み 青草を 髪にたくらむ 妹をしそ思ふ

ふりわけの かみをみじかみ あおくさを かみにたくらむ いもをしそおもふ

振り分け髪が、まだ短いのだろう。青草を髪につけて、束ね上げている。そんな娘のことを、思う。

一目惚れであろうか。
可愛い少女を、見て、青草と共に、髪を束ねている姿が、忘れられない。

女になる前の、女の子。
いつの時代も、女の子は、可愛い。そして、恋をして、女として、成長する。
その、成長が、男によるもの。男に、恋することで、ある。

恋を通して、大人に成長する様を、万葉集に見る。


徘徊り 往蓑の里に 妹を置きて 心空なり 土は踏めども

たもとほり ゆきみのさとに いもおきて こころそらなり つちはふめども

あちこちと、歩いて行く、ゆきみの里に、妻を置いて、私の心は、上の空だ。土を踏んでいるのに。

しばしの、別れも、辛い。
恋女房である。

妻の方も、夫を思う。
相思相愛である。

だから、風が吹くと、妻のため息かと、思う。
咲く花を見れば、妻の心を見る。
行く雲を見ては、夫の、行方を心で、追う。

その積み重ねが、心を育てた。
そして、民族としての、心象風景が、生まれた。
もののあはれ、である。
すべてのものに、心を寄せる心の有様。
共感能力である。



posted by 天山 at 00:00| 伝統について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。