2009年02月08日

もののあわれ 408

例よりはうち乱れ給へる御顔のにほひ、似るものなく見ゆ。うす物の直衣単衣を着給へるに、透き給へる肌つき、ましていみじう見ゆるを、年老いたる博士どもなど、遠く見奉りて、涙落としつついたり。「あはましものをさゆりばの」と謡ふとぢめに、中将御かはらけまいり給ふ。

中将
それもがと 今朝ひらけたる 初花に 劣らぬ君が にほひをぞ見る

ほほえみて取り給ふ。

源氏
時ならで 今朝咲く花は 夏の雨に しほれにけらし にほふほどなく

衰へにたるものを」と、うちさうどきて、らうがはしくきこしめしなすを、とがめ出でつつしひ聞え給ふ。





いつもよりは、リラックスしている、顔の美しさは、他に比べるものが無いほどに、見える。薄いなおしに、単衣を着ておられ、透けて見える肌つやは、ひときわ、美しいゆえ、年老いた博士たちなどは、遠くから、拝して、涙を流しつつ、座っている。
「あわましものを、さゆりばの」と謡い終わる段で、中将が、杯を、差し上げる。

中将
ただ今の、文句のように、今朝咲いたばかりの、百合の花の、初花にも劣らぬ、あなたの美しさを拝見できるとは

微笑んで、盃を受けられる。

源氏
時期でもないのに、今朝咲いた花は、この夏の、雨で、萎れてしまいました。咲き匂う、暇も、ありません。

萎えてしまったのにと、はしゃいで、わざと、酷い飲み方をされるので、中将は、咎めつつ、無理強いをする。

謡いは、当時の、歌である、催馬楽の、高砂の末尾の文句である。





多かめりし事どもも、かうやうなる折の、まほならぬ事、かずかずに書きつくる、心地なきわざとか、貫之がいさめたふるるかたにて、むつかしければとどめつ。



まだ、多くあった歌なども、このような時の、よくないものを、あれこれと、書き付けるのは、心無い態度だと、貫之のいましめていることゆえ、面倒なことになってはと、思い、止めた。
つまり、和歌も、漢詩もである。
紀貫之のことである。




みな、この御事をほめたる筋にのみ、やまとのも唐のも、作りつづけたり。わが御心地にも、いたうおぼしおごりて、源氏「文王の子武王の弟」と、うちずし給へる御なのりさへぞ、げにめでたき。成王の何とか宣はむとすらむ。そればかりやまた心もとなからむ。




みな、大将の事を、褒めたようにばかり、歌も、詩も、作っていった。
自分でも、大変、思い上がり、文王の子、武王の弟と、口ずさんでいる、名乗りまでも、実に、立派である。
成王の何と、言うつもりなのかは、気になるところ。とは、作者の言葉。



兵部卿の宮も、常にわたり給ひつつ、御あそびなども、をかしうおはする宮なれば、今めかしき御あはひどもなり。



兵部卿の宮も、いつもやってきて、管弦の合奏などにも、勝れていらっしゃる宮様なので、華やかな、似合いの、お相手である。





posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第9弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。