2009年02月07日

もののあわれ 407

御子どもは、いづれともなく、人柄めやすく、世に用いられて、心地よげにものし給ひしを、こよなうしづまりて、三位中将なども、世を思ひしづめるさまこよなし。かの四の君をも、なほかれがれにうち通ひつつ、めざましうもてなされたれば、心とけたる御むこの内にも入れず、「大将殿かう静かにておはするに、世ははかなきものと見えぬるを、ましてことわり」と思しんして、常に参り通ひ給ひつつ、学問をも、遊びをももろともにし給ふ。いにしへも、もの狂ほしきまで、いどみ聞え給ひしを思い出でて、かたみに、今もはかなき事につけつつ、さすがにいどみ給へり。




御子たちは、どのお方も、人柄がよく、世の中に用いられて、楽しそうに暮らしている。
だが、源氏は、すっかり、気が滅入って、三位の中将、つまり、頭の中将である、も、この上なく、ふさぎ込んでいる。
あの四の君、つまり、大臣の四番目の姫のこと、そこにも、相変わらず、時々行かれるだけで、気に食わないという態度なので、右大臣は、心を許した、婿の一人とは、考えていない。
更に、思い知れとばかりか、今度の、司召にも、もれてしまった。本人は、気にしていない様子である。
大将殿が、このように、ひっそりとしていらっしゃるので、世間は、はかないものと、思うのだから、まして、自分などは、当然と、考える。
そして、いつも、訪ねては、学問やら、合奏を一緒になさる。
昔も、気ちがいじみるほどに、競争しあっていたことを、思い出して、今も、一寸したことでも、競争するのである。




春秋の御読経をばさるものにて、臨時にも、さまざま尊き事どもをせさせ給ひなどして、また、いたづらに、いとまありげなる博士ども召し集めて、文つくり、韻ふたぎなどやうのすさびわざどもをもしなど、心をやりて、宮仕へをもをさをさし給はず。御心にまかせてうち遊びておはするを、世の中には、わづらはしき事などやうやう言ひ出づる人々あるべし。



春と、秋の、読経はむろんのこと、臨時にも、あれこれと、ありがたい、法会を色々と、なさった。
それからまた、することもなく、暇そうな博士たちを、呼んで、作文や、韻塞ぎなどの、すさび事、遊び事を、色々して、気晴らしをするのである。
出仕も、なかなか、されないでいる。
お心のままに、遊んでいることを、世間では、色々と、面倒なことを、次第に言う人々がいるらしい。




夏の雨のどかに降りて、つれづれなる頃、中将、さるべき集どもあまた持たせて、参り給へり。文殿あけさせ給ひて、まだ開かぬ御厨子どもの、めづらしき古巣の故なからぬ、少しえり出でさせ給ひて、その道の人々、わざとはあらねど、あまた召したり。殿上人も、大学のも、いと多うつどひて、左みぎにこまどりに、かた分かせ給へり。かけ物どもなど、いと二なくて、いどみあへり。ふたぎもてゆくままに、かたき韻の文字どもいと多くて、おぼえある博士どもなどのまどふ所々を、時々うち宣ふさま、いとこよなき御ざえの程なり。人々「いかでかうしも足らひ給ひけむ。なほさるべきにて、よろづの事、人にすぐれ給へるなりけり」とめで聞ゆ。つひに右負けにけり。




夏の雨、しとしと降り、身のやり場のない状態である。
中将が、多くの詩集を持たせて、お伺いに来た。
殿様も、書庫を開けて、まだ、開いたことのない、いくつもの御厨子の、珍しい古い詩集で、由緒があるものを、少し選ばれて、その道の人々を、密かに、大勢お召しになった。
殿上人も、大学の人も多く集まり、左右と、こまどりに、組を分けて、座を作る。
賭物なども、とても立派にし、争いあった。
韻をふさいでゆくにつれ、難しい韻の文字が、数多くあり、名高い博士たちなども、困窮ところを、時々、口をはさむ、様子である。
実に、計り知れぬ、学識がある。
人々は、どうして、このように、足りないことがないほど、知識があるのか。矢張り、前世からの、定めで、このように、人より、勝れていらっしゃるのだと、言う。
そして、ついに、右が負けてしまった。




二日ばかりありて、中将負けわざし給へり。ことごとしうはあらで、なまめきたる檜破子ども、賭物などさまざまにて、けふも、例の人々多く召して、文など作らせ給ふ。階のもとの薔薇、けしきばかり咲きて、春秋の花盛りよりも、しめやかにをかしきほどなるに、うちとけあそび給ふ。




二日ばかりして、中将が負けわざをされた。
大げさにせず、きれいな、檜破子、ひわりご、を、いろいろ、賭物なども、あれこれと、用意して、今日も、いつもの人々を多く召して、詩など、作られる。
きざはし、のところの、薔薇が、ほんの少し咲いて、春や秋の花の盛りよりも、落ち着いて、面白い風情である。
うちくつろいで、合奏なさる。




中将の御子の、今年始めて殿上する、八つ九つばかりにて、声いとおもしろく、笙の笛吹きなどするを、うつくしびもてあそび給ふ。四の君腹の二郎なりけり。世の人の思へる寄せ重くて、おぼえことにかしづけり。心ばへもかどかどしう、かたちもをかしくて、御遊びの少し乱れゆくほどに、高砂を出だして謡ふ。いとうつくし。御ぞぬぎてかづけ給ふ。




中将の子で、今年初めて、殿上する子が、八つか九つくらいの頃で、声が、とてもよく、笙の笛を吹いたりするのを、可愛がり、遊び相手にされる。
四の君が、生んだ次男である。
世間の人の寄せる期待も、大きく、特別に、大切に育てている。
性格も、才気あり、顔立ちも美しく、合奏の気分が少し高まると、高砂を、声を張り上げて、謡う。それが、とても、可愛らしい。
大将の君は、お召し物を、脱いで、それを、褒美に与えるのである。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第9弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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