2008年11月02日

もののあわれ313

二条院は近ければ、まだ明うならぬ程におはして、西の対に御車寄せて降り給ふ。若君をば、いと軽らかに、掻き抱きて降ろし給ふ。少納言、「なほいと夢のここちし侍るを、いかにし侍るべき事にか」と、やすらへば、源氏「そは心ななり。御みづから渡し奉りつれば、帰りなむとあらば送りせむかし」と宣ふに、わりなくて降りぬ。



二条の院は、近く、まだ空が明けないうちに、到着した。
西の対に、車を寄せて、降りられる。
少納言は、本当に、夢の中にいるようです。どうしたら、いいのやら、と躊躇う。
源氏は、それは、お心に任せる。本人をお連れしたのだから、そちが、帰ろうと、言うならば、送ってあげようと、言う。
しょうがなく、車を降りた。




俄かにあさましう、胸も静かならず、「宮の思し宣はむ事。いかになり果て給ふべき御有様にか。とてもかくても、たのもしき人々に後れ給へるがいみじさ」と思ふに、涙の止まらぬを、さすがにゆゆしければ、念じたり。




急なことであり、呆れて、胸が静まらない。
宮様は、なんと、仰るのか。
若君は、結局は、どんな、身の上になるのだろうか。
何にせよ、頼みに思う方々に、先立たれてしまったというのが、不幸なのであると、涙が、止まらないが、ともかく、若君の、お輿入れという事になったのだから、涙は、縁起でもないことと、堪えているのである。

少納言、乳母の心境である。

さすがにゆゆしければ
という、部分に、お輿入れという、勝手な訳を入れる。
今までの、訳の、定番を載せた。

私は、涙を流しつつも、これは、ゆゆしきことと、思うとした方が、すっきりする。

果たして、源氏は、強行に、若君を連れて来たのであり、後戻りは、出来ない。
父宮に、対して、どのように対処するのか。



こなたは住み給はぬ対なれば、御帳などもなかりけり。惟光召して、御帳御屏風など、あたりあたり、したてさせ給ふ。御凡帳の帷子引き下し、御座など、ただひきつくろふばかりにてあれば、東の対に、御宿直もの召しに遣はして、大殿籠もりぬ。若君は、いとむくつけう、いかにする事ならむ、と、ふるはれ給へど、さすがに声たててもえ泣き給はず。若君「少納言がもとに寝む」と宣ふ声、いと若し。源氏「今はさは大殿籠もるまじきぞよ」と教へ聞え給へば、いとわびしくて、泣き臥し給へり。乳母はうちも臥されず、ものも覚えず起きいたり。




こちらは、お住みにならない、対であり、御帳台などもなかった。ベッドである。
惟光を、呼んで、御帳台や、屏風その他、色々と、用意させる。
御帳台の帷子を、引き下して、ご座所なども、引き述べる用意である。座る場所である。
東の対に、夜具を取り寄せに、人をやり、お休みになった。
夜具とは、布団である。
若君は、とても、不安で、どうしたものかと、震えているが、さすがに、声に出して泣くことはない。
少納言のところで、寝ると言う。その声が子供である。
いと若し。若い声、子供の声。
源氏は、もう、大きくなったので、そんな寝方をされるものではありませんと、教える。
しかし、悲しく、泣きながら、横におなりになる。
乳母は、横になるどころではない。
ものも覚えず起きいたり。
呆然と、うつらうつらしつつ、正気無くと、訳すのか。



明け行くままに見わたせば、大殿の造りざま、さらにも言はず。庭の砂子も玉を重ねたらむやうに見えて、かがやくここちするに、はしたなく思ひいたれど、こなたには、女なども侍らざりけり。うとき客人などの参るをりふしの方なれば、男どもぞ御簾の外にありける。かく人迎へ給へり、とほの聞く人は、「誰ならむ。おぼろげにはあらじ」とささめく。




明け行くにつれて、少納言が、辺りを見回すと、御殿の造りや、室内の装飾は、見事である。庭の砂さえ、玉を敷いたよう見えて、輝いているようである。
自分などは、こんな場所に相応しくないと、小さくなっていた。だが、この対には、女は、いないようである。
時々の、お客が、参上する場所なのである。
男たちが、御簾の外で、控えている。
女君を、お迎えになると、耳にする者は、誰だろうか、只者ではない、などと、ひそひそ、話している。




御手水御粥などこなたに参る。日高う寝起き給ひて、源氏「人なくてあしかめるを、さるべき人々、夕づけてこそは迎へさせ給はめ」と宣ひて、対に童女召しにつかはす。「小さきかぎり、ことさらに参れ」とありければ、いとをかしげにて四人参りたり。君は御衣にまとはれて臥し給へるを、せめて起こして、源氏「かう心憂くなおはせそ。すずろなる人は、かうはありなむや。女は心やはらかなるなむよき」など、今より教え聞え給ふ。




お手水や、食事なども、こちらに、持って参る。
日が高くなってから、起きられて、源氏は、召使がいなければならない、適当な人々を、夕方になったら、呼び寄せるがいいと、仰る。
対の屋に、女の童を呼びに、人をやらせる。
源氏は、小さいのばかりに、参らせよとのことで、とても可愛い四人が、上がって来た。
若君は、お召し物に、くるまり、寝ていたが、源氏が、無理に起こして、そんなに、すねては、駄目ですよ、薄情者は、いけません、女は、おとなしいほうが、いいのです、などと、今から、教えるのである。


源氏にとっても、若君にとっても、新しい生活が、始まるのである。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第7弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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