2008年10月23日

もののあわれ303

十月に、朱雀院の行幸あるべし。舞人など、やんごとなき家の子ども、上達部殿上人どもなども、その方につきづきしきは、皆選らせ給へれば、親王達大臣よりはじめて、とりどりのざえども習ひ給ふ。いとまなし。



十月に朱雀院へ行幸あそばす、予定である。
その御宴の舞人なども、身分の高い名門の君達、そして、かんだちめ上人たちなどでも、その道に名のある方は、残らずに、選ばれたので、親王方大臣をはじめとして、それぞれの特技を練習なさる。
そのため、余暇もない。




山里人にも久しくおとづれ給はざりけるをおぼし出でて、ふりはへつかはしたりければ、僧都の返り事のみあり。「たちぬる月の廿日のほどになむ、つひにむなしく見給へなして、世間の道理なれど、かなしび思ひ給ふる」などあるを見給ふに、世の中のはかなさもあはれに、うしろめたげに思へりし人もいかならむ。幼き程に恋ひやすらむ、故御息所に後れ奉りしなど、はかばかしからねど思ひ出でて、浅からずとぶらひ給へり。少納言、ゆえなからず御かへりなど聞えたり。




北山の、尼君などにも、しばらくお会いしていなかったと、お気づきになり、わざわざ使いを、差し出した。
すると、僧都の返事のみである。
先月の二十日頃に、とうとう、むなしく、亡くなりました。人の世の定めながらも、悲しいことです。などと、記してある。
それを、御覧になり、人間の無常を、しみじみと、思われて、尼君が、気がかりに思っていた、あの若君も、どうしていようと、思う。
幼き年頃ゆえに、恋い慕っているであろう。
なき母君に先立たれたことなど、朧に思い出して、心を込めて、お見舞いをされた。
それに対し、少納言は、心得のある、お返事を、申し上げるのである。

亡き人を、言葉にする時に、
つひにむなしく見給へなして、世間の道理なれど、かなしび思ひ給ふる
と、言う。
遂に、空しく亡くなりました。それは、世の中の定めの通り、悲しいことでございます。

世の中のはかなさもあはれに

儚いことが、更に、あはれ、と感得する。
あはれ、に、託される思いの、交々である。

何故、私が、もののあわれについて、を、書くか。
それは、あはれ、に、すべてを託すという、日本の心の原型、原風景を、取り戻すためである。
それを、大和心とも、大和魂とも、言う。

うしろめたげに思へりし
尼君の心を、源氏が、察するのである。

人の心を、推し量り、察する、微妙たゆたう、心のあり様を、また、もののあわれ、という、心象風景が、支える。

これは、民族の精神の根幹とも、言うべき、心象である。


本当に、惜しくも、大和魂という、あり様が、歪曲されて、利用されたこと、返す返すも、悔しいものである。
これは、相対的、たゆたう心であり、排他的でも、非寛容でもない。
在るものを、すべて、受け入れて、その、調和を図るというものである。

それを、体系づけて、石田梅岩などは、石門心学などを、立ち上げた。
それは、心を磨くためならば、仏教、儒教、道教、神道など、一切問わない。すべては、心であるとする、思想である。

心を、教理の上に置いたのは、正に、大和心を、知っていたのである。
日本人は、排他的ではない。
ただ、村社会の、排他性を持って、それを、解釈すると、誤る。

天皇による、政治を、見ればよいのだ。
すべてを、容認して、和して、和えてとも言う、そうして、調和を貴びて、政治を行うのである。

和え物とは、日本人の、最大の特徴である。
それは、欧米には無い。
彼らは、和えることが、出来ない。それは、一神教の教義を見ても、よく解るのである。
同じ神を、拝まない者は、異邦人、異教徒として、認識し、平等ではない。
同じ人間ではないと、殺傷するのである。


もののあわれによる、大和魂は、世界平和の思想として、掲げられるものである。
それは、曖昧微妙にして、和えることが、出来る思想であるからだ。

何よりも、人間主義である。
ヨーロッパのルネサンスというのは、人間主義と言われるが、日本は、最初から、人間主義、そして、心主義である。
勿論、主義として、掲げるものではなく、行為として、成り立つものであった。

行為の中にこそ、言葉の世界が、潜んであるというもの。
語り尽くさないのである。
理屈ではなく、行為にあるものを、こそ、貴んだのである。

行為に適う言葉は、無い。
百の言葉より、一つの行為が、この人の世を、定めるのである。

天地が、揺らいでも、我が言葉は、変わらないというのは、天地が、揺らげば、我が言葉が、揺らぐということである。
日本人は、言葉より、行為を先に立てるのである。

言霊の思想は、それゆえ、揺るぐことは、ないのである。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第7弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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